その2
父と娘の頭脳戦、いや、正しくは心理戦か、互いの読み合いが始まった。
「チアキ、今すぐここへ行きしばらく身を潜めなさい。娘は必ず君を襲いにかかる」
アレキサンダーは自分所有のアパートメントでセキュリティの厳しいところの場所を伝えると、すぐさまそこの部屋をおさえた。
千秋はアレキサンダーにキスをしてから、会社のクルマでそこへ向かった。
しかしここで、千秋はミスをする。
ジェーンの恐さをまだ知らなかった千秋は、いったん自分のマンションに戻り、必要な身の回りを取りに戻る事にした。だがそれなりに気にしてはいたのだろう、無意識にスピードを出しすぎていたらしく、パトカーに捕まりキップを切るはめになる。
「何をそんなに急いでいるんだい」
警官の問いに千秋はとっさに、
「ストーカーに狙われているの、早く家に戻って逃げる用意をしたくて」
警官は、ふふんと鼻を鳴らす。スピード違反の言い訳だと思ったのだろう。しかし千秋が身分証明を出して地元の大企業の社長秘書だと知ると、急に態度が変わりマンションまで誘導してくれた。
警官に礼を言うと、部屋に入り必要品をすぐ用意する。部屋の鍵をかけてクルマに戻ると、アレキサンダーの用意したアパートメントに向かった。
「あの時、アレクの言うことを素直に聞いておけば良かったです」
「どうして」
「ジェーンは、すでに私のマンションに暴漢を見張らせていたんです。アレクはそれを読んでいた。だからまっすぐアパートメントに行かせたんです。それなのに私が自宅に寄ったものだから、暴漢達に後を尾けられて、潜伏場所を知られてしまったんです」
用意したアパートメントに着くと、千秋は無事着いた事をアレキサンダーに連絡する。その際、自宅に寄ったことは省いて話した。
暴漢から連絡をもらったジェーンは、すぐさまアパートメントの警備会社を調べ、持ち株会社だと知ると、そこのオーナーへ警備員に2時間ほどモニターから目を離すように命令する。
連絡を受けると、暴漢達は千秋の部屋に向かった。
「ここにいるということは、無事逃げだせれたのだろうけど、どうやったんだい」
「幸運が3つありました。そのおかげです」
アメフト選手のような体つきの男が3人、顔を隠し、ロープと人が入るくらいの大きな布袋とビデオカメラをそれぞれ持ちながら、千秋の部屋の前までやって来る。




