厄災は避けられない
アレキサンダーの娘でハミルトンの母親である、ジェーン・ジョースターは才女である。
アレキサンダーいわく、
「娘は経済の才能は私より上だろう、しかしそれゆえ利益の為には冷徹な判断をし過ぎる、あれでは人がついてこないだろう、経営者にはむかない」
ジェーン自身も、それを自覚していたのでエクセリオンを継ぐ気はなく、投資家として活躍している。
当然、エクセリオンの株を持っていて、持ち株数はアレキサンダーについで2番目に多い。いわゆる大株主である。
「ハミルトン君はお母様に、何とかしてくれと泣きついた」
「ええ、後先考えずにね。お母さんに言われればお爺さんは諦めると思ったんでしょうね。しかし、そうはならなかった」
「ジェーン女史からみれば、父親と息子をたぶらかす、とんでもない悪女だろうからな。そりゃあ頭にきただろうな」
護邸は笑いながら言うが、千秋にとっては笑い事ではなかった。どうしてか。なぜならジェーンは才女であると同時に激情の人、烈女でもあったからである。
彼女を表すエピソードとしてこんなのがある。
ジェーンの夫はマクシミリアンといい、愛称はマックスと呼ばれている。甘いマスクと家柄のよさから学生時代からモテて、社会に出てからはモデルとして生活していた。
そんな美形が仕事人間で金持ちの女と結婚して、身体と暇をもて余していたら、古今東西やることは決まっている。マックスは当時デビューしたての女優と浮気した。
その事を知ったジェーンは、すぐさま報復行動に出る。
マックスと女優を訴訟し、金にあかせた有能な弁護士チームは当たり前のように勝訴する。
2人に莫大な慰謝料要求、それを払いきるまでの法的束縛、一般社会にいながら牢獄のような生活、いや人生を与えた。2人は現在希望を無くし生きる屍のようになっている。
この事により、ジェーンに関わらない方がいい、下手に触れると厄災に見舞われる。
開拓時代の人物、カラミティ・ジェーンをもじってミス・カラミティと呼ばれるようになった。
そんな烈女であるが、一人息子のハミルトンにはベタベタに甘い。ハミルトンの願いなら何でもきいてやった。だからお坊っちゃんな性格になってしまったのだろう。
ハミルトンから話を聞いたジェーンは、会社にいる父と千秋に本当なのかと問い詰めた。その通りだと言われると、今すぐ別れろ、そのイエローをクビにしろと激昂したが、父アレキサンダーはそれを断った。
激昂したジェーンは、その女ただではすまさないわ、と捨てゼリフを残して帰っていった。




