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その4

 千秋はいわゆる美食家グルメではない。


 普段呑む白ワインも、コンビニで手にはいる銘柄で、あまりこだわりはしない。そんな千秋が、気になるくらいの美味しさだった。


「すいません、これはなんという銘柄ですか」


ソムリエに千秋は尋ねるが、無言で首を振りワインの瓶を見せる。エチケットが無い。


「ここでは飲食物の銘柄や生産地を教えてくれない。しかし、確かなものなのは美味しさでわかるだろう。どうしても知りたければ味を憶えて自分で探すしかないよ」


護邸はこのレストランを無条件で信じているようだった。


「さ、料理も楽しみたまえ。テリーヌとの相性が楽しみだぞ」


 護邸はナイフとフォークを手にすると、テリーヌにナイフを入れた。千秋もそれにならい、テリーヌを戴くことにした。


 一口大に切られたテリーヌを口に運び、味わう。ねっとりとした美味さが口の中に拡がる。これだけでじゅうぶん満足できたのだが、白ワインを口にした時、旨味の爆発を感じ目を見開いた。


(なんという美味さ)


 テリーヌの甘味と酸味とほろ苦さが渾然一体となって旨味の嵐となり、千秋を官能の世界へと誘った。


「トマトとパプリカとセロリをペーストにして、組み木細工のようにしたのか。じつに美味いな」


 護邸も顔が綻んでいたが、千秋にそれを観る余裕は無かった。ふたたびテリーヌを口に運び、白ワインを飲む。それの繰り返しをあっという間にしてしまった。


 食べ終わった以上、ナイフとフォークを皿に並べて置かなければならないのだが、惜しくて手放せない。護邸が食べ終わり置いたので、しぶしぶ千秋も置いた。


 ウェイターが皿を片付けると、次の料理が運ばれる。


「爽やか高原のサラダです」


 皿の中には、一口大に千切られたレタスに、細切りされたレモンの皮が少量がのっていて、それに岩塩が一撮みがふりかかっていた。


「フォークで軽く混ぜ合わせてからお召し上がりください」


千秋は言われたとおり、フォークを手にすると、ザックリと混ぜてレタスを数枚、口に入れた。


じゅわ


口の中が洪水になったと思った。慌てて口をナプキンでおさえる。護邸も同じだった。


しゃきしゃきしたレタスの歯応えを楽しみながら、溢れ出る水分をおさえる。


ようやく飲み込むと、2人は目を合わせたです


「常務、これはいったい……」


「レタスの水分だろう、レタスは90パーセント以上が水分だからな。だから噛めば噛むほど水分が出るんだ」


「それで……」


 千秋達は、今度は量を半分くらいにして食べる。ほどよい水分が口に溜まる、それによりレモンの皮と塩気が程よく混ざり、しゃきしゃきしたレタスの旨味を引き出す。


そうか、これは口の中でドレッシングを作り、レタスだけでなく水を、水分を楽しむサラダなのだと2人は思った。

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