表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/196

その3

 音もなくウェイターがワゴンとともに部屋に入り、ワインの入ったワインクーラーとグラスを2つ持ってくる。


「白のワインが好みだったね。今日の料理は白ワインに合わせたコースにしてあるから、楽しんでくれたまえ」


護邸はにこやかに話す、千秋はこんな表情の護邸を見るのが初めてだったので、さらに困惑する。さすがにたまりかねて詰問するように訊く、


「常務、いったいどういうつもりなんです。本当の目的はなんなのです」


千秋の様子に、護邸は楽しそうにこたえる。


「少し芝居がかっていたかな、順を追って説明するよ。このミダスという店は秘密クラブでもあってね、会員以外は場所も存在も知られないようになっている。それ故あのようなかたちで来てもらった」


「秘密クラブですか」


「メンバーはどのような方がいるか、私も知らない。知っているのは、私をここに紹介してくれた方だけだ」


「何故そのようなところに私を」


「ここに連れてくるのは、その人を信用できる人だけでね。秘密を漏らしたり、この店の存在を話さないと信じられる人だけを連れてくるんだ。ちなみに君がそれを外部に漏らしたら、連座制で私と私を紹介してくれた方も退会させられる」


つまり、それくらい護邸は千秋を信用していると言いたいらしい。それはそれで千秋は困惑するのだが。


「しかし、言っては何ですが、それくらいでは秘密は守られないでしょう。何かの拍子についポロリと言ってはしまいませんか」


「それは料理を食べたらわかるよ」


護邸は合図すると、ウェイターによりカトラリーと皿がテーブルの上に並べられ、料理を運びこまれた。


「3種の野菜によるテリーヌでございます」


赤黄緑の三色がタイル状になっているテリーヌがそれぞれの皿に鎮座された。どうやらフレンチのコース料理のようだ。


 ウェイターの後にソムリエが続き、ワインを抜栓して2人のワイングラスに注ぐ、淡い黄金色がグラスに満たされる。


護邸が自分のグラスをとると、続いて千秋も自分のをとる。


「とりあえず、コンペの成功に」


ぶつけずに、掲げるだけの乾杯をすると護邸はグラスを口につけた。護邸が飲んだのを見てから千秋も飲む。それを見た護邸はくすりと笑う。


「用心深いんだな」


「上司より先に飲まないだけです」


千秋はそう言ったが、本当はワインになにか入っていないかの用心だった。しかし、そんな疑いも吹っ飛んだ。


(なんて美味しいワインなのかしら、こんな美味しいのはじめて……)


千秋は自分の警戒心が綻びはじめるのを気づかないでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ