その3
「で、コンペどうなったの」
千秋は母の前にVサインを出す。
「勝ちました~」
「そう、良かったわね」
「それだけ」
「勝って、いい気になっているんじゃない? 取引先とかに連絡してあるの」
「あ」
そういえば仕入先にまだ連絡して無かったとと千秋は思い出し、慌てて連絡する。
「……そう、コンペ勝ち取ったわ。ええ、お願いね、ありがとう」
電話を切り、母にお礼を言うと、残心を忘れちゃダメよと小言をひとつもらってしまった。
「とりあえず、あんたんとこと森友さんの関係は続くのね」
「なに? うちの株でも持ってるの」
「まあね。会社の資産運用としてね」
「それはそれは、株主様に不利益を与えなくて良かったわ」
「そ、株主の為に会社の価値落とさないようにしてね」
「はいはい」
食事が終わると食器を流しに片して、祖母の作った夜食を片手に咲子は出ていった。
「慌ただしいなぁ」
「千秋はまだいいの」
「もう少しゆっくりしてから行くわ、ケイもまだ忙しい時間帯だろうし」
午後9時くらいに、千秋は祖母の作ったツマミを手に、ケイのところまで歩いて出かける。途中、コンビニでお酒を買い、ぶらぶらとまた歩き始める。
「夜の一人歩きは危ないわよ」
後ろから声をかけられ驚いて振り向くと、野球帽にマスク、スタジャンにジーンズ、大きな紙袋を持った運動靴姿の女性が立っていた。
「ハジメ? どうしたのその格好、それにこんなところにいるのよ」
「あたしもケイのところに行く途中で、たまたま千秋を見かけたの」
「遅くなるんじゃなかったの」
「いろいろあってね。あとで話すわ」
横並びになって歩き始め、しばらくするとカブライスポーツジムに着き正面玄関口から入る。受け付けに蛍がいた。
「あれ、ハジメどうしたの」
「いろいろあったのよ、ケイはまだ仕事」
「うん、23時までだから深夜まで」
それまで1時間半ちょっとあるなと二人は思ったが、蛍は部屋にあがって適当にしててと言うので、言う通りにした。
勝手知ったる他人の家とばかりに、部屋に上がり込むと、暖房をつけてテーブルにツマミを並べ酒の用意をする。
「ハジメは飲めるの」
「う~ん、やめとく。万一があるから」
「そう言うと思ってノンアルコールのビール買ってきたわよ」
「ありがと、それに師匠のツマミがあるならじゅうぶんよ」
ハジメは席に座るとツマミに向かって拝んだ。




