その2
「条件だと」
「彼女が避けたい場所は名古屋と東京です。ですからそれ以外の場所で、会社の関連会社に就職させるのです。その上で給与から月々返済させる、滞ったり逃げ出したら横領で訴えるという条件です」
「つまりタコ部屋に放り込むという事かね」
「タコベヤ?」
タコ部屋の事を知らなかった千秋に郷常務が説明する。
「あー、そうですね。もう少し人道的ですが、そういう事になります」
千秋の提案に専務常務は黙って考える、社長は最初から事の流れを見守っていた。そのうち郷常務が口を開いた。
「うん、悪くないな。専務はどう思われます」
「護邸くんはどうだね」
郷常務に返事をせず、護邸常務に問いかける。
「……佐野くんの提案の方が良いと思います」
自分の意見を否定した部下の意見に賛同した護邸に千秋は驚いた。
「護邸くんらしいな。社長、2つの意見が出ましたが如何でしょうか」
ずっと黙って聴いていた中島社長が重々しく口を開いた。
「双方ともに足りんな」
「足りないとは」
「双方ともに会社のイメージを守るという点においては良いだろう、佐野くんの方が細やかな気配りがあるのも認める。だが、ともに足りないのは他社に侮られないというところだ、そこのところをどう対処するのだね、佐野くんに意見が無いのなら護邸くんの提案を……」
「あります!!」
社長の言葉が言い切らないうちに千秋は凛としてこたえる。
「今、企画3課は森友財団様相手に群春物産とコンペの最中です、これを勝ち取ります」
千秋の勢いに目を白黒させたが、すぐに立ち直り護邸に問いかけ確認をとる。
「群春のキジマは、サトウ課長をスパイにするという卑劣な手段を使っています。ですが、サトウ課長の部下である私達がコンペを勝ち取れば、より格下が、卑劣な手段を使った群春物産からコンペを勝ち取れば、侮れなくなります」
まるで革命闘士のような物言いに周囲は唖然とするが、社長はさすがに受け流す。
「出来るのかね」
「やってみせます!!」
「……よかろう、そのコンペ勝ち取ったら君の提案を採用しよう」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早いぞ、そのコンペはいつなんだ」
千秋は時計を見る、午後3時を過ぎたところだった。現状を全員に説明する。
「だったらすぐに行きなさい。地下鉄やタクシーじゃ間に合わん、私のクルマを使いなさい」
中島社長は秘書に告げると、千秋は秘書と共に駐車場に向かった。




