その3
すぐさま階下の企画部へ向かい、3課の所に行くが、課長の姿がない。
「一色くん、課長は?」
「今さっき、気分が悪いといわれて帰宅しました」
千秋は駆け出し、課長を追った。エレベーター前で来るのを待っている課長を見つける。
「課長」
背中からの千秋の声に吃驚し、着いたばかりのエレベーターに慌てて乗り込み、すぐさま扉を閉められる。
「くそっ」
どんどん下がっていく数字を見て焦ったが、すぐさま切り替え、階段で降りていく。
かけ降りるというより、飛び降りるような勢いで追いかけたが、追いつかなかった。
はあはあ言いながら、1階の受付で企画3課の課長を見なかったかと訊くと、先ほど出ていったとの答えだった。
会社から出て追いかけようとするが、どこにも姿がない。やられた。このまま月曜まで休まれたら終わりだ。
課長は要らないが、コンペの企画書に課長の判子がいる。このままでは、コンペは負けて横領の罪を被されてクビになる。
最悪だ……
さすがに途方にくれた。このまま人目もはばからず、路上にしゃがみこんで泣きたくなった。そんな千秋に声をかける者がいた。
「おねえさん、ちょっといいですか」
後ろからチャラそうな男の声がした。無視していると続いて話しかけられる。
「おねえさんってば」
ちょっと強めに言われ、自分の事だとやっと千秋は気づいた。
振り向くと、なんとも言えず怪しい出で立ちの男が立っていた。ニット帽にサングラス、茶髪にピアス、スタジャンにカーゴパンツとスニーカー。
紺色のパンツスタイルのビジネススーツ姿の千秋とは、完全なミスマッチである。さすがに千秋は困惑した。
「勧誘とナンパならお断りよ、今それどころじゃないの」
「サノチアキさんですよね、ちょっとお話があるんですが」
名前を言われて警戒した。なんだコイツ、私のことを知ってる?
「わるいけど相手している時間は無いの、課長を探さなくちゃいけないのよ」
「その課長の話でもあるんです、オレの話、聞いてくれませんか、あなたに得になる話ですから」
ニコッと笑うその顔には胡散臭さはなく、どちらかというと迷子になっていた仔犬が、ご主人様を見つけて喜んでいるという感じだった。
迷ったが、今はどうしていいか分からない、何かの手掛かりになるかもしれない、千秋は話を聞くことにした。
「オレ、ノブっていいます」




