第二章 クリスマスシーズン
サンタクロース協会総本部とは、ホイプトの寒冷地に存在する組織でサンタクロース理事長はモモクシンドである。無量大数を遥かに超える数えきれない世界のなかで、サンタの仕事を必要とし、協会との契約を結んでいるサンタクロース加入世界の支援・指導・連繋を行う。なお協会は様々な世界に拠点を置き、会議を行う場合は総本部に集まる。協会総本部にはサンタクロースを養成する施設が存在し、在籍しているサンタクロースは多種多様な依頼に対応するため医療や建築分野などにも対応している。サンタ学校も行っている。
ポポの作った空間を抜けるとホイプトに繋がっていていた。辺りの地域は寒冷地となっていて、雪が積もっていて震えるような寒さである。そしてクリスマスシーズンのため辺りは雪だるまだけでなく、クリスマスツリーやイルミネーションが見られる。
薫は驚きと感動のあまり言葉を失っていた。
「おいらも久々に来たが、ここはクリスマスシーズンのようだな」
「ここにお爺ちゃんがいるの?」
「たぶんね。本部のあるこの世界は特にクリスマスに力を入れている。概ね人手不足で呼び出されたのだろう」
「でも僕のいた世界ではまだクリスマスシーズンじゃなかった」
「当たり前だろう。世界によってシーズンは異なる。だから協会のサンタクロースは年中あちこちの世界に行くんだ」
「僕はてっきりサンタクロースはクリスマスにだけ働く人のことだと思っていたよ」
「一つの世界で考えたらそうかもね。でも実際はクリスマスシーズンの世界に行き来している」
「そのやり方がライト法っていうこと?」
「その通りだ」
「さっきここに来るときにポポがやったような?」
「あれは魔法使いのやり方だ。サンタクロースのやるライト法とは異なる」
ポポは話を切り出すように魔法で別世界に繋がる空間を作り出した。
「どこに繋がっているの?」
「おいらの家がある世界だよ。さっきも言ったけどアイブを旅行して疲れているんだ。帰りはシャクシャクにでも送ってもらえ」
「ちょっと待ってよ。お爺ちゃんはどこにいるの?」
「協会の奴に聞けばわかる。ここから見えるあの大きな建物がそうだ。近くまで魔法で連れて行きたいところだが、帰宅するだけの体力しか残ってないのだよ」
「わかった。ここまで連れて来てくれてありがとう」
「またな」
そう言うとポポは空間の中に入っていった。空間はポポが入り終えると消えてなくなってしまった。
薫はサンタクロース協会本部まで向かうことにした。空にはたくさんのサンタクロースがいて、トナカイが引くソリに乗ってプレゼントと思われる大きな白い袋を持っている。地上には寒冷地域のためかペンギンやアザラシがいた。動く雪だるまや氷のモンスターなどアイブでは見かけない生物もいた。
しばらく進むと、サンタクロース協会本部のある氷山市の下町まで辿り着いた。駅前の広場ではイベントが行われていて小さな群集があった。子供から大人まで大勢いる。薫はその近くにある看板を見た。
良い子のみんな集まれ‼サンタさんと触れ合おう‼
良い子のみんな、メリークリスマス‼今年もクリスマスがやって来たね。みんなは何をして過ごすのかな?氷山駅前広場に来ると楽しいゲームや音楽隊による演奏などがあるよ。そして本物のサンタさんとトナカイにも会えるよ。さらに、会場まで来てくれたみんなにはサンタさんからささやかなプレゼントもあるよ。ぜひ会場まで来てね。
場所 氷山駅前広場
主催 サンタクロース協会代表 ヘルドポボフ
「ヘルドポボフ……」
なんとなくだがこれがサンタ名義であることは理解できた。
会場の人達は大きなサンタクロースと大きなトナカイに注目している。
「みんな楽しんでいただけたかな?イベントもこれで最後になります。みんなはもうサンタさんからプレゼントをもらったかな?この場にいるみんなに私から盛大なプレゼントを差し上げよう」
サンタクロースは右手にエネルギーを集中させるとピカピカと光るライトが浮き出してきた。そのライトを思いっきり空へと放つと、ライトは弾けて色んな形のイルミネーションに変貌した。イルミネーションにはクリスマスツリーや雪だるま、トナカイ、サンタクロース、リースなどがあった。
周りにいる人達は盛大に盛り上がりを見せた。薫はすぐに目の前のサンタクロースがやったのはライト法であることがわかった。
「今宵は盛大なパーティーが協会で行われる。家族や恋人を連れてぜひ参加してくれたまえ!」
歓声が止み人々が離れて行くのを薫は待った。サンタクロースとその関係者のみになった時に話しかけた。
「サンタクロースさん、今のってライト法ですか?」
「君は協会の関係者か何かかい?私から言えることは内情は教えることはできないということだけだ。決まりなのでね」
ヘルドポボフは冷静に答えた。
「シャクシャクっていう人をご存じですか?僕は薫と言います。お爺ちゃんを探しています」
「それも内情だ規定だから教えることはできない。ましてや別世界から来たどこの者かわからない者には尚更だ」
「別世界から来たってなんでわかるんですか?」
「そりゃあわかるよ。なぜなら……」
ヘルドポボフは話すのを途中で止めて咳ばらいをした。
「なんですか?」
「とにかくだ。シャクシャクという者がサンタクロースなら協会に行けばいいだろう」
ヘルドポボフは冷たい態度をとった。
僕だって最初からそのつもりだった。
「メリークリスマスだよ薫君、今日はクリスマスなんだ。もっと笑顔になって楽しくやろうじゃないか」
ヘルドポドフは薫に優しく伝えると「撤収だ‼」と声を掛けていなくなってしまった。ヘルドポボフはトナカイと共に空へ、関係者は大型トラックで去ってしまった。
ヘルドポボフが向かった先、つまり協会に薫も再び向かおうとした。その途端、赤髪の男の子が話しかけてきた。名はピリカ・ルビー、薫と同い年である。
「かっこいいよなあさっきの奴、でもどのサンタに聞いてもやり方を教えてくれないんだぜ」
「決まりらしいからね」
「まあ俺はいつかあの協会で働くサンタクロースになってやり方を教わってやる。君もそうだろ?」
「えっ⁉」
「君もサンタクロースになりたいんじゃないの?」
「僕はお爺ちゃんを探しに来ただけだよ」
「さっきサンタクロースとの話を聞いていたけど、君のお爺ちゃんもサンタクロースのようだね」
「うん、そうなんだ。いまお爺ちゃんを探していて、今から協会に行こうと思うんだ」
「協会は関係者以外が安易に入れる所じゃないよ」
「さっきのサンタクロースが協会に行けばわかるかもしれないって言ってたよ」
「あれは嘘だよ。内情を伝えてはいけないから必死に考えたんだろうね」
「そうか……どうしようか……あっ、でも今夜はパーティーがあるから一般の人も出入りできるよ」
「恐らく厳重に警備されているだろうが……門を突破するにはそれしかないか」
「うん、それに協会のパーティーならお爺ちゃんもいるかもしれないしね」
「じゃあパーティーに参加するんだね。パーティーが始まるまで家にいなよ」
「いいのかい?」
「外は寒いし、もっとサンタの話を聞かせてよ。それに父さんと母さんと妹はいま家にいないから。着いてきて、家には今誰もいないから」
ルビーの親切心を受け入れて家まで着いて行くことにした。ルビーは駅から徒歩十分にあるそこそこ大きな一軒家に住んでいた。
ルビー宅にお邪魔すると、中はクリスマスオーナメントであった。二人はたくさんのお菓子を食べながらこれまでの経緯を話した。
「ライト法……って言うんだ」
「そう、魔法使いが言ってた」
「なんでその魔法使いはライト法のことを知っているんだ」
「詳しいことは聞いてないけど、サンタクロースなら当然のように使える技だって言ってたよ」
「それでそのライト法という技を使ってアイブやらホイプトに行くと。うーん、世界が複数あるだなんて信じられないよ」
「僕はてっきりルビーのいる世界の住人は世界が複数あることを知っているものかと思ったよ」
「僕は薫と同じ立場だよ。そういうのはサンタクロースや魔法使いとかなら知っているんじゃない?」
「思うんだけど、この世界ではサンタクロースや魔法使いは当たり前にいるものなの?」
「うん、そうだけど。どいうこと?」
「僕のいた世界ではそれらは空想の者とされていて存在しないことになっているんだ」
「なんだよそれ!おかしな話だな。ところでさ、もうパーティーに行く準備はできているのかい?」
「ん?僕は特に何もしてないけど。服装ならこの格好でもいいかなって思うんだけど、駄目かな?」
「いいや、そうじゃない。パーティーは僕も毎年参加しているからわかるけど服装は自由だよ。ただ協会には決まって身に着けて置かなければならない物があるんだ。それがないと協会に入ることが許されない」
「いったい何が必要なの?」
ルビーは引き出しから協会マークの付いた赤いリストバンドを出した。
「これさ。これがないと入れないんだ。まあなにか効果があるって訳でもないんだけどね」
「なんでそんな物が必要なの?」
「協会にブラックサンタクロースを入れないようにするためさ。それを持つものは良い子の印になるらしいよ」
「ブラックサンタクロース?」
「いじわるで悪いことをするサンタクロースのことさ」
「でもそんなのブラックサンタクロースが着けてさえすれば入れることだろう」
「特に効果があるわけじゃないって言っただろ。協会が決めたことだ。まあしいて言うなら、協会に入る決まりをきちんと守れる者は良い子であるってことだよ」
「そういうことか、じゃあそれが必要だね。君の奴を貸してよ」
「駄目だよ。僕だってパーティーにするんだ。貸すわけにはいかない」
「そうか……どうしようか」
「近所の店に普通に売っているから買ってきなよ」
「僕この世界のお金なんて持ってないよ」
「わかっているよ。払ってあげるよ。そんなに高くないしね」
「ありがとう」
二人は家を出て近所の百貨店で買い物することにした。
店まで向かう途中、二人は騒ぎにでくわした。黒いマントを羽織った者達がトナカイを数匹引き連れて、飼っている家庭から持ち去ろうとしていた。
トナカイの主である男が家から慌てて飛び出してきた。
「おい、何をしている。そのトナカイは私の者だぞ」
トナカイの主は自分のトナカイを持つ黒いマントを羽織った男からトナカイを奪い返そうとした。すると黒いマントの男の突き刺した右手からライトが放たれて、トナカイの主は近くの家まで吹き飛ばされてしまった。トナカイの主は家の壁にぶつかりそのまま真下で倒れ気絶してしまった。黒いマントの者達はトナカイを無理やり奪い去っていった。
「協会に言いつけてやる‼」
近くで見ていた生きのいい中年の女性は言った。
黒いマントの者達はそのまま無視して次の家に向かおうとしていた。
女性は再び怒号した。
「あんた達のような人の道を外れた生き方をしている悪いサンタのことをブラックサンタクロースって言うんだよ‼」
すると先程ライトで吹き飛ばした男が鼻で笑って女性を見た。
「ブラックとはよく言ったもんだな。だが俺達は仕事に誇りをもってやっているサンタクロースだ。勘違いするな。さっきの男みたいになりたくなければ黙っていろ!」
「お前達の目的はいったい何だ?」
隣にいた中年の男性は勇気を振り絞って言った。
「俺達は特別なトナカイを探している」
「特別なトナカイ?」
中年の男は唾をゴクリと飲みこんだ。
「知らずして飼っている奴らがわんさかいる。当然だ。リーダーの所まで持っていけば……」
「喋りすぎだ。行くぞ!」
隣にいる黒いマントの男が言った。
「こっちの家の方にも来るよ」
ルビーは言った。
「そうだね。関わらない方がいいから離れて歩こう」
「なんで?助けようよ」
「僕らには関係ないよ」
「ここ親戚で色々と世話になっているんだよ」
「でも僕らにはどうすることもできない」
「このままじゃこの家のトナカイも奪われるよ」
「戦えって言うの?敵うわけないじゃないか」
「戦うんじゃない。トナカイを隠すんだよ」
「隠す?」
奴ら小屋の中を探すから、ここにトナカイがいたらまずい。一先ず裏にあるビニールハウスにでも隠そう。
「待ってよ。そんな上手く行くわけないじゃないか。そもそも小屋にトナカイがいなかったら奴らも勘づく」
「もう時間がないんだ。考えている場合じゃない」
ルビーは半ば強引に薫を作戦に乗せた。薫は嫌々ではあるが、手伝う他なかった。
二人は家の敷地のフェンスを越えてトナカイが二匹いる小屋の中に入った。首輪にロープを着けて引っ張り入口から出してビニールハウスに向かった。
「お前達!何をやっているんだ!」
家の主がやって来た。年配の男性である。
「おじさん!」
「ルビーじゃないか。トナカイをどうするつもりかね?」
「ブラックサンタクロースだよ」
「ブラックサンタクロースだと⁉お前がか⁉まだサンタクロースにもなってないと言うのに⁉」
おじさんは何か勘違いをしているようだ。
「違うよ。本物が来るんだよ‼」
「それがお前達ってことか?」
ルビーは必死に説明しているが、理解されそうにない。ルビーは汗だくになっていた。それもそのはず。近くに本物のブラックサンタクロースが近付いているんだ。何としても早く隠さなければ。
薫はルビーに家の主のことを一先ず無視するようにジェスチャーした。二人はトナカイを連れてビニールハウスに入っていった。
「おいこら待て!」
家の主もビニールハウスに向かおうとしたその時、真後ろには既にブラックサンタクロースの連中がいた。
「お前はここの家の主か?」
「ああそうだが、何だいきなり?今忙しいんだよ」
「トナカイはいるか?」
「いるさ、二匹ほどな。だが今そこのビニールハウスにいる。サンタクロースでもないガキがブラックサンタクロースを名乗っている」
ブラックサンタクロース達はニヤついた。一人の女が右手からライトをビニールハウスの方へと放った。ライトは弾けて大きな「ぱんっ」という大きな音を立てた。
二匹のトナカイは大きなにびっくりして暴れまわってしまった。
「落ち着け。落ち着け!」
薫とルビーは必死にトナカイに呼びかけたが聞き入れてもらえず、とうとうトナカイはビニールハウスから飛び出してしまった。
「出てきた出てきた」
ライトを放った女は薄ら笑いをした。
「それどころじゃない。まずいことになった」
男が女に言うと、女は協会のサンタクロースが現れていることに気付いた。大きな音を聞いて協会のサンタクロースがやって来たのだ。大きな音をたててしまったことはブラックサンタクロースの誤算であった。
ブラックサンタクロースは抵抗してライトで攻撃するがはじき返されてしまった。協会の圧倒的な総力に何もできないまま捉えられてしまった。
「お前達だな?トナカイを強奪し近隣住民に被害を与えている者達は!」
協会から要請されたメンバーには若い者からもじゃもじゃ白い髭を生やした年配の者まで男女問わず幅広くいた。メンバーには先程薫と話をしたヘルドポドフもいた。
「この近辺にブラックサンタクロースが出没してトナカイの強奪被害がありましたが、我々が強奪犯を捕らえ無事にトナカイを救出しました。お宅のトナカイは大丈夫でしたでしょうか?」
「協会の方ですか?ちょうど家のトナカイを盗んで行きました。ブラックサンタクロースです。一人は近所に住む資産家のエメラルドの息子です。あっちの方へ逃げました」
その頃、薫とルビーは走り去る二匹のトナカイを必死に追いかけていた。トナカイと二人は気付くと街から外れた人が通らない雪道に来ていた。
何の拍子かトナカイは突然走るのを止めた。
「こんなに走ったの久し振りだよ」
ルビーは息を切らしながら言った。
二人はロープをしっかりと手に取り今度は絶対に離さないと心に誓った。
「ここどこなの?随分と街から離れているけど」
薫は辺りを見回しながら言った。
「僕もここは初めてさ。でも問題ないよ。ほら、足跡があるだろう。これを辿って行けば大丈夫!」
寒々しい風が吹く中、二人は足跡を辿って行った。ルビーの後ろを歩く薫は考え事をしていた。
やれやれ、なんでこんな目に合わなければならないのだろうか。
お爺ちゃんなんてほっといて家で好き放題すればよかったじゃないか。普段から好き放題やれているわけだし。こんな所まで来て本当に何をやっているのやら。入っては行けないと言われたお爺ちゃんの部屋にさえ行かなければ魔法使いに会うことはなかった。そしてよくわからないホイプトとかいう別世界に来ることなんてなかった。もし部屋に入らずにそのまま大人になっていたら、少なくとも両親のように意味もわからず仕事を転々とすることなく一つの仕事に真面目に取り組んでいただろう。それに僕がわざわざトナカイを助ける必要なんかあったのだろうか。ルビーに頼まれたからやったけど、別の世界の出来事だし、そもそもそんなことをして何の意味があったというのだ。僕には関係ないことだ。本当に僕は馬鹿だ。もし元の世界に戻れたら真面目に勉強しよう。そして公務員になるんだ。そうすれば会社が倒産して転職することもないだろうし、安定もしている。僕にとって安定が一番求めていることだったんだな。
薫はことごとく後悔していた。
「薫、大丈夫かい?」
「あっ、うん、ごめん……大丈夫!」
「おじさんに勘違いされちゃったよ」
「僕達も動揺してたからね。後で落ち着いて話せば大丈夫だよ」
「おじさんの方にブラックサンタクロースが近付いていたけど、大丈夫だったかな?」
「それも後で確認しないとね。とにかく今は戻らないと。そういえば、さっきのブラックサンタクロースがやった技ってライト法かな?」
「どうだろうね。魔法使いの技かもしれないよ。サンタクロースの中には魔法も使える魔法使いもいたりするからね……何か近付いてくる‼」
薫は顔を上げてルビーを見た。ルビーは空の方を指さしていた。街の方角からキラキラ光る数羽の小鳥が空高く飛んでいるのを確認した。
やがて鳥達は下降し二人の目の前に現れた。鳥達はそれぞれ眩いライトに包まれると人間の姿へと変貌した。先程ブラックサンタクロースを捕らえた協会のサンタクロース達である。
「トナカイの強奪事件を起こすブラックサンタクロースというのは君達だな?」
「僕達はブラックサンタクロースではありません」
薫は質問した先頭に立つグループのリーダーに言った。
「ピリカ・ルビーとそれともう一人……」
「お前はさっきの‼」
「知り合いかヘルドポボフ?」
三列目からヘルドポボフの声が聞こえた。ルビーは声の聞こえる方に首を少し傾けた。すると二列目の老婆のサンタクロースが銃のような小さなライトをルビーに食らわせた。ライトはルビーの横を過って近くの木に貫通した。
「動くんじゃないよ‼子供だからって容赦はしないよ。大人しく両手を挙げな‼」
ルビーは目玉が飛び出るぐらい驚愕した。二人は抵抗することもなく言われた通り両手を挙げた。
「待てサジャーカント‼そう殺気立てるな。悪い癖だぞ。ここは穏便に話そうじゃないか。どうやらさっきの連中と違って抵抗できなそうだし。よしっ、手を下ろしていいぞ」
薫とルビーは手を下ろした。
「私はアンザルヘンショ、このチームの隊長だ。チームと言っても急遽作られたチームだがな。まあそんなことはいい。それでさっきの話だが……ヘルドポボフ、この子はお前の知り合いか?」
「駅前のイベントにいた子だ。シャクシャクの孫だとか言ってたぞ」
「居場所を教えてくれなかったのに都合よく信じないでよ」
「薫、大人なんてそんなもんだよ」
「静かにしてくれないか。勝手に喋られるとこっちも仕切れないじゃないか。何か話したいことがあるならどうぞ!」
「さっきの連中は?」
薫は言った。
「君達の仲間だろう?先程我々が仕留めた。トナカイの強奪容疑で協会送りだ。君達も同じ容疑が掛かることになるだろうがね」
「僕達あいつらとは仲間じゃありません。あいつらからトナカイを盗られないように隠そうとしただけです」
ルビーは言った。
「家の主は君達がトナカイを盗んだと言っている。君達の言うことが本当だとしても一度取り調べを受けてもらうために協会に来てもらう」
「協会に行く⁉冗談じゃない‼」
「お前らまだ抵抗できると思っているのか?さっきの見ただろう。あれに当たれば一発でお陀仏さ」
サジャーカントは言った。
「協会に戻ったらシャクシャクも調べないとな。あいつもブラックサンタクロースの可能性が出てきた」
「協会に行けばお爺ちゃんに会えるんだね?」
薫はアンザルヘンショに言った。
「そうなるな」
「行くよ。行ってお爺ちゃんに会えるなら、僕は抵抗せずに行くよ」
「冗談じゃないよ。薫はよくても俺は親に呼び出しされてこっ酷く叱られるんだぞ!」
「まっ、何も悪さしてないなら親も怒らないと思うがな」
ヘルドポボフはルビーに言った。
「家の親はそれでも怒るんだよ。人様に迷惑かけるなーとかで」
「これに懲りたら普段から大人しくしていることだな」
二匹のトナカイは協会の人に引き渡すことになった。後に家の主に引き渡されることとなる。薫とルビーはサンタクロース協会本部から要請されたチームに捕らえられ共に歩いて協会に行くことになった。
薫はルビーと違って困り果てた顔をしていなかった。落ち着いた表情と共に安心感を抱いていた。
お爺ちゃんに会える。俺もルビーと同じように酷く怒られるはず。さて、何から話せばいいのやら。何にせよこれでようやく家に帰れる。
もう異世界だのサンタクロースだのこりごりだよ。