執行部署第二課5
「執行部署第三課の川原巡査部長補佐が何者かに殺害された、きっちりナノマシンを抜き取られてね」
会議室に再度集められた第二課の面々の前で沢口は、普段よりも語気を強くして言った。
「てことは」
先の会議のときよりも少し目が開いているユリカの言葉を遮るように、ああそうだ、と沢村は眉間に力を入れて言った。
「今回の事件、開放者達の犯行の可能性が高い」
やっぱりか、とユリカはため息をついた。
(まあ、ナノマシンを異常警報シグナル無しで抜き取るなんてことできるのそいつらぐらいだし)
犯行手口を聞いておおよそ全員が察してはいた。しかし、改めて開放者達の名前が口に出されると、緊張感が室内に訪れた。
「んで、俺たちはどうするんだ?」
加賀が静寂を切るように、沢口に向かって言った。
「それがな・・・」
沢口は、いつになく丁寧に資料をファイルから取り出して全員に配布した。
「全員の職務用携帯機にも送信しておいたが、一応な」
少し嫌悪したように沢村が言うと続けざまに加賀が珍しく怒気が混じった声で「なんだよこれ」と小さな声で呟いた。
資料には、最初に長ったらしく事件の概要が記載されていた。しかし、皆の目を引いたのはその概要の下部に記載されている「今事件に関する執行部署第二課に所属する隊員の動向について」と書かれている欄である。
そこには、一文だけこう書かれていた。
事件の隠蔽工作の実行を本事件に対する最終決定とする、本事件に関する一切の無断捜査は認められない。
「おい、仮にも警察官が死んでんだぞ。無断捜査禁止はともかく隠蔽工作の命令だと」
加賀が、語気を荒げると沢村はなだめるように
「加賀執行官」
とだけ言うとため息交じりにこう言った。
「我々の今事件に関する指示は以上だ。これは、上の決定だ」
「上?」
南が怪訝そうに言うと
「ああ、文字通りシステム管理庁だ」
「お偉方どもはこの事件がどうも隠したいらしいな」
「発言には気を付けろ加賀執行官」
沢村は「以上だ」とだけ言うと事件隠蔽工作に関する資料を配布して会議室を後にした。
配布資料の裏には、「明日 15:00 第三倉庫にて」とだけ添えられていた。