執行部署第二課4
-高知県郊外の山中-
「こりゃあひでえな…」
会議で加賀執行官と呼ばれた男が煙草をくわえた口を少し歪ませながら呟いた。
「死後経過時間は?」
「丁度の時間はわかりません。生きたままナノマシンを体内から抉り出されたようでして」
「ではその時間は?」
沢口が検察部署の巡査に尋ねた。巡査は少し神妙な面持ちで
「今から1時間8分前です。ナノマシン摘出前に拷問を受けたような記録があり、はっきり言ってそのすぐ後に殺されたのかどうかすらまだわかりません」
「そうか…」
会議で、南執行官と呼ばれた女はその会話を聞いて少し顔を歪めた。普段は平静とした装いの彼女でもいささか凄惨な事件現場、ましてや拷問された後に焼かれ死んだ死体を前にしては不快感を隠しきれなかった。
「被害者の身元は、あのあの川原眞美で間違いないのね?」
「はい、川原巡査部長補佐で間違いありません」
沢口はちっ、と舌打ちをした。
(いくら犯罪検挙率が99%近くあるとはいえ、ここまで悲惨な事件は民衆にパニックを引き起こしかねない、ましてやガイシャは執行機関の人間。ったく、面倒な事件を寄越してくれるわ。)
「わかっていると思うけど、メディアは絶対に通すな。嗅ぎつけられないように付近を封鎖して。」
「加賀執行官、南執行官。」
沢口は現場の職員に指示をし、2人の執行官を呼び戻して現場を後にした。
「こりゃあ、9割がた決まったようなもんだな」
支部に戻る道中、車を運転していた加賀が助手席の沢口の方に目をやりながら言った。
「ええ、大方あの開放者達の仕業で間違いなさそうね」
「おい、仮にも女がクソって」
「うるさい中年、前見て運転しなさい」
はあ、と加賀はため息をついた。何度注意しても言葉遣いが良くならない上司に少し脱力しながらバックミラーにちらりと目をやると、後部座席で南はうたた寝していた。
「あの現場見て不快感丸出しの顔したからちったあ人間味があると思ったが…」
「なんであれ見てから10分もたってねえのに寝れんだよ」
呆れたような表情で加賀は呟いた。
「ったく、どいつもこいつも」
沢口も同じくバックミラーに目をやりながらしかめっ面で呟いた。そして、脳裏には湊ユリカを思い浮かべながら呆れるようにはあ、とため息をついた。
「上司ってのは大変だねえ」
加賀がからかうように言うと
「うるさい」
沢口は、眉間をより一層短くしながらため息交じりに言った。