執行部署第二課3
「以上だ。質問は?」
長い髪を少し揺らしながら沢口眞美はそう言った。数秒間沈黙が訪れると、
「では、加賀執行官と南執行官は私に同行。湊巡査と北川巡査は指示があるまで待機。以上」
ピシャリとそう言って、モニターを消してホワイトボードを元の位置に返した。
やれやれ…、とばかりに40代の無精ひげを生やした男がゆっくり立ち上がった。
対照的に眉一つ動かさずにもう一人の20代前半にも見える若い女がさっさと会議室を沢口とともに出た。
「んじゃちょっと行ってくるわ」
そういって男はユリカともう一人の茶髪の少女に声をかけて会議室を後にした。
「私たち待機だって~。ラッキー!」
ユリカの方を向いて北川春は心底うれしそうに、にんまりとした表情で話しかけるように言った。
「食堂でも行こうよユリカちゃん」
春は立ち上がっていった。満面の笑みで細くなった春の目の奥は茶色く、鈍く光っていた。
「いいよ」
春の吸い込まれそうな瞳に一瞬釘付けになりながらも、ユリカは少し脱力した声で言った。
外はシトシトと言った表現がぴったりな雨が降っていた。
エアコンの効いた会議室から出ると、不快な湿気が服と皮膚にまとわりついた。
部隊服で来ればよかった。ユリカは心底思った。
歩くたびに少し水気帯びたを太ももとスーツのズボンが当たる感覚にげんなりしつつもユリカは春と並んで食堂に向かっていった。
食堂は、営業はしているが閑散としていた。
「空いてるね」
「まあまだ11時だしね」
短い会話を交えつつ二人は各々の注文を済ませ、トレーに乗った料理を持って席に着いた。
「ユリカちゃん、絶対部長の話聞いてなかったでしょ」
「うん」
素っ気なくユリカは答えた。
「むしろあの人の話に集中できる春が凄いんだと思うよ」
「いや、私だけじゃなくて加賀さんや南さんもちゃんと聞いてると思うけど…」
「まああのおじさんも南ちゃんも真面目だしね」
「あはは…」
まったく悪びれもなく、それどころか注文したカレーライスに夢中のユリカに半ば当惑しながらも春は話を続けた。
「今度のホシ、もしかしたら開放者達の関係者かもしれないらしいよ」
ピクッとユリカの眉が動いた。
「うわあ…、尋問の手伝いとかで残業になんなきゃいいけど」
ユリカは食べる手を休めたかと思うと眉間にしわを寄せながら言った。
「えぇ…」
春は自分が感じたことよりも遥かにずれた返答がきて困惑しつつも、少しおかしそうに
「ユリカちゃんらしいね」
とクスクス笑った。