ドグラ・マグラ
2038年、カリフォルニア工科大学教授である川口快蔵によって提案されたナノマシン“ドグラ・マグラ”の開発によって人類は新たな時代を迎えた。
ドグラ・マグラは人の体内に注入されることで、その人間のあらゆる情報を管理システムに送り続けるナノマシンである。2041年5月時点で世界の普及率は92%、日本だけでは99%と言われている。
ドグラ・マグラによって基本的な個人情報や現在地、体温、心拍数、外傷や内臓疾患、果ては精神状態に至るまでの情報が管理システムに送られ続ける。
人々はもう人間ドッグを必要としない、体の異常はすべて即座に見つかる。人々はもう嘘はつけない、情報を管理されている。人々はみな悪事を働けない、常にシステムに覗かれている。
そして、人々はどこで死んでもすぐ管理システムに見つかる。
ドグラ・マグラの普及によって警察の地位は底に落ちた。
たとえ殺人事件があろうとも、管理システムによって即座に死の情報のキャッチ及び近隣の防犯カメラや衛星写真による加害者の特定が可能だからである。
もはや警察に残された仕事は、加害者を捕まえるための管理システムの手足になることだけだった。