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010 呪いの源泉

 



 気は乗らないが、ひとまずアリウムを部屋に招き入れたプリムラ。

 彼女の姿を見ると、ヘスティアはそそくさとお茶の準備を始めた。


「……座っていいよ」

「ああ……」


 重苦しい空気が部屋に満ちる。

 ちなみに、外で会話をして以降、二人が話すのはこれがはじめてである。

 はじめてで、しかもあんなことを言われておきながら、アリウムはプリムラの部屋を直接訪れたのだ。

 正直――予想外すぎて、プリムラも困惑していた。


「……」

「……」


 向かい合って座った二人は黙り込む。

 選んだ席は真正面ではなく、横に一つずつずれていて、それが心の距離を示しているようだった。


「はぁ……アリウムちゃんから来たんだから、そっちから話すのが筋ってもんじゃないの」

「……そう、だな」

「てか、話したいことあるから来たんでしょ? じゃなきゃ、あんだけ言われておいてわたしの前に顔出したりしないでしょ」

「わかっているさ、私だって………馬鹿げていると。それでも、伝えておきたいことがあったんだ」


 プリムラはあまりいい気分ではなかった。

 アリウムだって本当は来たくなかった、少なくとも自分の気持ちが落ち着くまでは。

 しかし無理をしてでも、伝えなければならないことができた。

 今の状況から言って、それが良い話であるはずがないのだから。


 二人の視線が交わることはない。

 互いに真っ平らで灰色なテーブルを見つめたまま、話は進む。


「呪われた子、という言葉を聞いたことがあるだろう?」

「うん……最近はよく言われてる。それがどうかしたの」

「プリムラにとっては最近聞くようになった言葉かもしれないが、私は以前から聞いたことがあったんだ」

「誰から?」

「……お祖父様、から」


 それを聞いたプリムラは、頬を引きつらせるように笑う。


「ははっ、要するにアリウムちゃんのお祖父さんが、わたしの妨害してるってこと? そういや政治家だっけ、案外あの事件にも絡んでたりしてね」


 彼女はわざとらしく、突き放すように言った。

 激昂してくれてもいいし、傷ついてくれてもいい。

 そんな、“心無い言葉”と自覚した上での発言だったのだが――しかしアリウムの反応は思ったものと違う。

 眉間に皺を寄せ、重苦しい表情で、ゆっくりと言葉を吐き出す。


「そうなのかもしれない……」


 プリムラの悪辣な冗談を、アリウムはあろうことか肯定する。


「なに……言ってんの? アリウムちゃん、自分が言ってることわかってる?」

「私にもよくわからないんだ! だが、一つの事実として、学園に広がっている“呪われた子”という言葉は、急に生まれてきたものじゃない。少なくとも、お祖父様は前から知っていた……」

「偶然じゃないの。あの人から見れば、わたしは自分の子供を殺した女の血を引いてるんだから。呪われてるって呼ぶには十分過ぎる動機だと思う」

「それは……そうだが」


 こじつけるにしても、いささか証拠が少なすぎる。

 今の状況で、わざわざプリムラの寮を訪れて言うような話ではないはずだ。


「……もしかしてアリウムちゃん、許してもらおうとか思ってる?」

「違う、そうじゃない」

「だったらなんでわざわざここまで来たの? 情報を与えてポイント稼いだらそのうち前みたいな関係に戻るんじゃないかとか考えてたんじゃない」

「違うっ! 私だってわかっているさ、自分が許されないことぐらいは! プリムラが……私を一番に恨んでいるのも、仕方のない話だ」


 プリムラは、ギリ――と歯を軋ませた。

 今はなにを言っても、苛立ちにしかならない。

 だから会いに来るべきではなかったのだ。


「仕方ないこと……ね。私はそうだって“理解してる”だからそれを踏まえた上で仲直りしたいって話? ごめん、無理。できるわけないじゃん」

「違うんだ……違うんだ……」

「それ以外になにがあるの? わたしが恨んでるって言ったから慌ててどうにかしなきゃって思ったんでしょ? それこそ違うよ、慌ててやったって意味なんてない。やるなら、五年前じゃないと」


 もう手遅れだ――と、プリムラは言う。

 それでも彼女の言葉は優しいほうかもしれない。

 いきなりこの家を訪れてきたアリウムを、追い出しもせずに話を聞いたのだから。

 だがもう、それも限界だ。


「帰って、アリウムちゃん」

「わ、私は……その……っ」

「帰って」

「事件にお祖父様も関係しているかもしれないんだっ、だからっ!」

「帰れっつってんだよ!」

「ひっ……」


 テーブルに拳を叩きつける音が鳴り響いた。

 だが殴られたそれが破壊されなかったのは、まだプリムラに理性が残っているからだろう。

 アリウムの頬は引きつり、目が潤む。

 彼女は肺を震わせながら息を吐き出すと、ゆっくりと顔を伏せ、立ち上がった。

 そのまま無言で部屋を出ていく。

 お茶を用意したまま、結局出せずにいたヘスティアは、おろおろとその様子を見ていることしかできなかった。




 ◇◇◇




「あ、あのっ! ちょっと待って!」


 アリウムが部屋から出たあと――寮から出る直前、誰かの声が彼女を呼び止めた。

 振り向くと、駆け寄ってくるヘスティアの姿があった。


「ザッシュの……いや、今はプリムラのアニマ。ヘスティアだったか」


 アリウムは力ない声で言う。


「そう、ヘスティア。覚えててくれてありがとう」

「何の用だ、私に構うと主に怒られるぞ」

「プリムラはなにも言わなかった、止めたりもしなかったわ。きっと、あの子だって本当は言いたくないのよ」

「……だろうな。プリムラは強くて優しい子だ。本当はもっと……穏やかに、生きていけたはずなんだ。私があんなことをしなければ」


 唇を噛むアリウム。

 目を閉じると、一筋の涙が頬を伝った。

 後悔は日々積もっていく。

 五年前のことも、そして今日のことも。


「プリムラの言う通りなんだよ。私は、あの“呪われた子”という言葉が広まっているのを知った時、反射的に『これをプリムラに伝えなければ』と思った。まともな情報なんてないくせに、これであの子と話せるって舞い上がって、気づいたら体が動いてたんだ」

「それは……それだけ、プリムラのことを想ってるってことでしょう? 悪いことじゃ無いわ……たぶん」

「いや、悪いさ。今日まで放置してきたんだぞ? 一番恨まれてるって知ったから、慌てて取り繕おうとしたんだぞ? なんて醜く……なんて愚かなんだ……」

「アリウム……」


 彼女は顔を手で覆う。

 締め付ける胸の痛みのせいで、際限なく雫が溢れ出してくる。

 アリウムはそれが、自分が被害者ぶっているようで、嫌でしょうがなかった。


「その……でも、呪われた子って言葉に、お祖父さんが関わってるのは事実なのよね?」

「同じようなことを言っていただけだ。プリムラが言っていたように、おそらく偶然だろう」

「そんなのわからないじゃない! 偶然じゃなかったら、必ずそこに手がかりがあるはずだわ。調べてみる価値はあると思うの」

「励ましてくれているのか?」

「それもあるけど、私だってあの言葉が気持ち悪くて仕方ないのよ。せっかくプリムラが力を手に入れて、快進撃が始まって、“事件”ってやつの真相にたどり着けるかもしれないのに……それを邪魔するように、いきなり降って湧いてきたから。しかも、根拠だってないのに、みんなそれを信じてるわ」

「プリムラが置かれた環境は、一種の同調圧力によって作られたものだ。彼女を汚らわしいものだと思わなければ、今度は自分がターゲットになるかもしれないのだから」

「だから、プリムラを貶めるためなら、根拠なんて必要ないってこと?」


 アリウムはうなずいた。

 拳を強く握りしめ、唇を噛むヘスティア。

 人の醜さは、神話の時代から変わってはいない。

 昔だってそういうことはあった。

 だが――規模が違う。

 数十万人の人々が、疑いもせずに一人の少女を虐げる。

 そんな残酷な仕打ち、あっていいはずがないのだ。


「コロニーという閉鎖的な環境がそうさせたのかもしれない。ああ、でも……あの時、私一人だけでもプリムラの味方でいたのなら、きっと……こうは、ならなかったんだろう」


 仮定の話だ。

 しかしアリウムの言う通り、一人でも味方がいたら、間違いなく状況は変わっていた。

 一人、また一人と別の誰かが声をあげて、プリムラを守ろうとしたはずだ。

 ヘスティアもそれがなんとなく想像できてしまって、なにも言えなかった。


「私が悪いんだ。ああ、でも私が悪いと思い、罪悪感を覚えること自体も間違っている。痛みは私を赦そうとする。違うんだ、全ては私が引き起こしたことなんだ! だから……だから……どうしたらいいのか、私にはわからない。なにもかも」


 いや、アリウムの選択とて、決して責められるべきものではないのだ。

 十歳の少女が、これから面倒を見てもらう祖父に逆らうことなど、そうそうできるはずがない。

 プリムラが親戚の家であまりいい扱いを受けていないのを知っているのだからなおさらである。


「……ごめんなさい」

「どうしてヘスティアが謝るんだ」

「考えなしに首を突っ込んでしまったから。少しぐらいはどうにかできるかも、なんて……うぬぼれだったわね」

「いいさ、気持ちだけでもありがたい。だがその優しさはプリムラに向けてやってくれ。彼女は、味方のいない世界でずっと生きてきたんだ。どんなに強くなっても、傷が消えるわけじゃないからな」


 そう言って、アリウムは寮を去っていった。


「ままならないわね。二人とも、こんな関係望んでないはずなのに」


 ヘスティアは物憂げにつぶやくと、軽くため息をついて、部屋に戻っていく。

 一人で残っていたプリムラは、アリウムのことなど特に気にしていない様子で、平然とお茶を飲んでいた。


「おかえり」

「ただい……ま」


 本当に、平然と。

 少しでも無理をしているような仕草が見えたのならまだ救いはあったが、まったくそんな様子はない。

 強い決意が、そうさせているのだろう。

 アリウムの話していた通り、おそらくプリムラは元から心が強い。

 でなければ、今日まで心も病まず、自ら命も絶たずに生き残れるはずがない。

 そしてガラテアを受け入れた今は、その強さを別の向きへと変えた。


「お茶、余ってるけどヘスティアに飲んでもらっていいかな? さすがに二杯も飲めないから」


 でも、そんなプリムラを見ても、人々は『化物が生まれた』程度にしか考えない。

 自分たちがやってきた結果だという事実から目を背けて、全ての責任をまた彼女に覆いかぶせる。

 “呪い”という言葉は、よっぽど都合がよかったのだろう。

 なにせ、人格の急変を、“自分たちの行い”のせいではなく、“得体の知れないオカルト”のせいにできてしまうのだから。




 ◇◇◇




 翌日、プリムラは休み時間にとある人物を訪ねた。

 学園の中庭で寝っ転がっている彼は、カズキ・オーガス。

 卒業を間近に控えた三年生で、クラスBの序列八位。

 操者としてのピークを十八歳から二十歳頃で迎える人間もいるが、だとしても現時点でかなりの使い手であることに間違いはない。

 プリムラは、彼と面識があるわけではなかった。

 だが彼女が知る限り、アリウムを除いて有力な政治家を親に持つ生徒は、カズキぐらいしかいなかったのだ。


『なんだかんだ言って、アリウムの言葉は参考にするのね』


 プリムラは軽く唇を噛みつつもヘスティアの言葉を無視して、カズキのすぐ近くで立ち止まる。

 すると彼は目を開け、微笑みながら言った。


「珍しいお客さんだ。でも残念だったね、告白は受け付けてないんだ」

「気味の悪いことを言わないで欲しいな。カズキ先輩みたいな人種、わたし一番苦手だから」

「こらこら、先輩には敬語を使わないと。僕は優しいから許してあげるけどね」


 体を起こすと、カズキはニヒルに笑った。

 プリムラは寒気を感じ、露骨に不機嫌な表情になる。


「うーん、他人にそういう顔をされるのは久しぶりで新鮮だ。いや、そもそも君に話しかけられること自体、とても新鮮だね。どういう風の吹き回しだい?」

「そっちこそ、わたしと普通に受け答えするなんて、本当に変人なんだね」

「あぁ、あの呪いがどうとかって話? 生憎、僕はあの手の根拠のないオカルトが嫌いでね。ほら、高い地位を得た人間って占いとか信じたがるだろう? ああいうの見てきたからさ」

「つまり先輩の親は、その手のオカルトに通じていると」

「……ん? もしかして、あの噂が広がった原因が僕だと思ってる?」

「政治家が絡んでる可能性があるって情報を手に入れたから」

「ははぁん、なるほどね」


 カズキは苦笑とも不敵な笑みとも取れるような微妙な表情で言った。


「それで僕のところに来たわけだ。でも残念だったね、仮にうちの親が怪しげな宗教なんかにはまり込んでいたとしても、僕には関係がない」

「どうして?」

「ケミカルベイビーだからさ」


 プリムラは彼の親が政治家だということを知っているだけで、家庭環境まで知っていたわけではない。

 だがその一言で、なんとなく事情を察した。


『ケミカルベイビーってなんなの?』


 ヘスティアは意外にも聞いたことがなかったらしく、プリムラは不自然にならないよう説明を交えながら会話を続ける。


「優秀な人間の遺伝子を使って作られた、人口調整のための子供……」


 コロニーでは、人口が増えすぎないよう、六十歳になると意識をデータ化し、安楽死するよう定められている。

 だが、病や事故で命を落とす人間がいないわけではないし、必ずしも出生率が一定の値をキープするわけでもない。

 つまり安楽死とは逆に――人工的に子供を作り出し、人口を調整する必要が出てくる場合もあるのだ。

 そうやって生み出された人間を、通称ケミカルベイビーと呼ぶ。

 もっともこの呼び方は蔑む意味合いも含まれているので、おそらくカズキの発言は自虐だったのだと思われる。


「親とうまく行ってないんだ」

「あれが親かどうかも怪しいもんだよ、血の繋がりなんてないんだから。あぁ、そういえば君も人工子宮で生まれたんだっけ?」

「うちの場合はなかなか子供ができなかったから」

「そうは言っても、君を産んだときの両親はまだ二十代のはずだろう?」

「待てなかったんじゃない? 知らないけど」

「いやあ、もしかしたら呪われた子って呼ばれてる理由にはそこら辺に原因があるのかもよ?」

「どうしてそうなるの」

「なんたって、“子”だからね。産まれに原因があるって考えるのは自然じゃないかな」

『そう言われてみればそうね』


 それが今のプリムラを指す言葉なら、“呪われた少女”と呼べばいいはずなのだが。

 だがなぜか、周囲の人々は揃って“呪われた子”と呼ぶ。

 もっとも、単純に母であるアヤメ・シフォーディという殺人鬼の血を引いているから、そう呼ばれている可能性はあるのだが。


「血の繋がった親を持ってるっていうのも、それはそれで大変みたいだね」

「……わたしはお父さんとお母さんがいてくれたことを後悔したことはないよ」

「好きなんだ、今でも」

「優しい両親だったから」


 残忍な人殺しのイメージは、あくまで事件によって後付されたものに過ぎない。

 本当の二人は暖かくて、優しくて、いつも大きな愛情でプリムラを包んでくれた――そういう、立派な親だったのだ。

 だからこそ、あの事件が誰かの手によって引き起こされたものなら、罪を晴らしたいと思う。


「ふむふむ、それは意外ですねぇ。普通、親が人殺しになったら尊敬してるなんて言えませんから、よっぽど好きだったんですね」


 プリムラの背後で、誰かが言った。

 その声を聞いた途端にカズキの頬がぴくりと引きつる。


「おやカズキ先輩、どうしたんですかその顔は。大丈夫ですよ、今日はカズキ先輩の女癖の悪さを取材しにきたわけではありませんから!」

「それはよかった……じゃ、僕はそろそろ行くから」

「あ、待ってよカズキ先輩! まだ聞きたいことが――」


 止めようとするプリムラだったが、カズキは飛び跳ねるように起き上がると、そのまま地面を蹴って校舎の屋上までジャンプし消えてしまった。

 いくら操者といえかなりの身体能力だ。

 さすがクラスB――と感心したいところだが、今はそれよりも、現れた女性の正体の方が重要だ。


「逃げられてしまいましたね。どうも私はカズキ先輩に嫌われているようで。どうしてですかねえ、浮気現場をすっぱ抜いたからでしょうか。それとも街でナンパしているところを撮影したから? はたまた行きつけのホテルに隠しカメラを仕掛けたからなのか――」


 おそらくその全てが原因だろう。

 プリムラは、首からカメラを下げた茶髪の彼女に声をかけた。


「新聞部の……セイカ先輩」

「イエース! 覚えててくださったんですね、プリムラさんっ」


 ぴょこぴょこと人懐っこく近づいてくる彼女は、セイカ・オースマントゥス。

 二年生のクラスC、序列は12位。

 やたらゴツいカメラが示すように、新聞部の部長である。

 ちなみに学園に部活という制度は存在しないため、勝手に新聞部を名乗っている。


「あれだけ好き放題に記事を書かれたら嫌でも覚えるよ」

「そうですかねぇ、案外記者名ってみなさん気にしないものですが」

「いつか復讐してやろうって思ってたので」

「おおう、怖い怖い……言っておきますけど私、少なくともプリムラさんに関しては違法な手段は使ってませんからね? 堂々と隠し撮りしただけですから!」


 それが違法だ――という突っ込みはおそらく彼女には通用しないのだろう。

 なにはともあれ、こうして話しかけてきたということは、プリムラに何らかの用事があるに違いない。


「今までその隠し撮りばっかりだったのに、どうして急に話しかけてきたの? うかつに近づくと呪いが伝染るかもしれないのに」

「あっはは、馬鹿らしいですよねあの噂。呪いなんてオカルト、この世に存在するはずがないじゃないですかぁ」


 そう言って、セイカはコロニーに蔓延する噂を笑い飛ばした。

 プリムラは拍子抜けし、気の抜けた表情になる。

 新聞部というぐらいなのだから、てっきりその手の噂が大好きだと思っていたのだが。


「いいですか、私は現実を写し取るのが好きなんです。確かにオカルト記事を扱うこともありますが、重要なのはその原因がなんなのか、その現実的な答えを探せるかどうかにあります」

「じゃあ、呪いは根拠もへったくれもない話だから興味はないってこと?」

「いいえ、逆です」


 ピンッ、と人差し指を立てて、どこか得意げに言うセイカ。


「呪いに根拠らしきものがあるので、あなたに話を聞きたいと思いました」

「根拠って、なんのこと?」

「これを見てください」


 そう言うと、セイカが広げた手のひらの上に、一枚の画像が映し出される。

 それは街中の人混みを撮影した、何気ない風景だった。


「これが、どうしたっていうの?」

「よく見てください。ここですよ、ここ」


 彼女は画像のある部分を指差す。

 プリムラが目を凝らしてそこを見てみると――黒い髪の、見覚えのある女性が後ろ向きで立っていた。

 一度気づいてしまえば、今までなぜ気づかなかったのかと笑ってしまうほど不自然だ。


「そんな……これって……」


 目を見開き、戦慄するプリムラ。

 ヘスティアは『どうしたの? なにが見えたの?』と困惑し、セイカはなにやら納得した様子で頷いている。


「プリムラさんがその反応を見せるということは間違いないんでしょうね。まだ目撃情報が少ないため騒ぎにはなっていませんが――」


 そしてセイカは、これまでで一番真剣な表情をして言った。


「現在このコロニー内に、あなたの母親と同じ姿をしたなにかが現れています」




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