第28話:失った。
「ミ・・・・・・ヨナ・・・・・・。」
純太が立ち止まった。
「ミヨナちゃんだ。久しぶり。」
「久しぶり。」
ミヨナの笑顔にあたしは顔をそらす。
「痲緒梨?」
「ってか、純太君ってぇ・・・・・・まだ痲緒梨なんかと付き合ってるんだ?」
「・・・・・・え?」
「アハハッなんでもないよ。そうだ、痲緒梨?あんた、悟夢にこのこと言っておくから。」
にやりと笑う顔がゾクリとする。
「言えばいいじゃない!」
売り言葉に買い言葉を発してしまったけど、このときは良く考えてなかった。
「言ったわね?」
そのままふふっと笑ってミヨナは消えた。
「悟夢?って誰?」
「なんでもない。」
いや、駄目。
言わないで。
あたしは・・・・・・悟夢がまだ・・・・・・。
でも、あたしにはもう・・・・・・純太がいるし。
悟夢に未練なんて・・・・・・。
ないし・・・・・・。
「痲緒梨?」
「ごめんっ!先かえらせて!!」
走って逃げるようにあたしはいなくなった。
その日はケータイの電源も切って、バイトもやすんだ。
もうそろそろ進級できるか考えなきゃ・・・・・・。
そう、だから悟夢のことは頭から消えて。
お願いだから消えて・・・・・・。
そして次の日、また校門のところに純太がいた。
あたしの姿をすぐに見つけて近づいてくる。
「や・・・・・・ぁ・・・・・・。」
逃げようと思った。
でももう遅い・・・・・・。
もう逃げられない・・・・・・。
「まてよ!」
気づけば後ろから手を握られていた。
「なんで逃げようとするんだ!?」
「え・・・・・・その、別に。」
今は会いたくなかった。
しばらく会いたくなかった。
悟夢、その一言だけでここまで感情がおかしくなるなんて・・・・・・思っても見なかった。
「逃げようとしてるだろ!」
「純太・・・・・・放して・・・・・・あたし・・・・・・あたし、ちょっと考えたいことがあって・・・・・・その、ミヨナともいろいろあって・・・・・・。」
しどろもどろになりながらどうして自分がココまでなにかに動揺しているのかが分からなかった。
ただ、もうしばらく一人でいたいだけだった。
「俺に言ってくれ。力になる。だから俺から逃げようとしないでくれ。」
「・・・・・・うん・・・・・・わかった。」
素直にうなずいている自分に驚いてしまう。
話せといわれたって何から話せばいいのかなんてわからない。
校門を出たところでまたあたしは逃げたくなった。
もう嫌だ。
どうしているの?
なんでまたいるの?
「悟夢・・・・・・。」
「あいつから聞いた。そうか。そういうことだったか。だから俺はもう必要ないってことだよな。記憶も・・・・・・ないもんな。」
「さっとむぅ!あれぇ?むかえにきてくれたのぉ?嬉しいなぁ。あれ、痲緒梨と純太君じゃぁん?なにしてぇんのぉ?」
わざとらしく語尾を延ばすミヨナ。
そういいながら悟夢の腕に腕や手を絡み付けている。
すこし、吐き気がする。
もうだめ・・・・・・。
「っ・・・・・・ぅ・・・・・・オェェエエ・・・・・・。」
「っげぇ!きったねぇ〜!!」
「痲緒梨!!」
「じゅ・・・・・・た・・・・・・ごめ・・・・・・ごめん・・・・・・。」
すると、純太は何を思ったか、堂々と悟夢の前に立ち、啖呵をきった。
「てめぇが痲緒梨の元彼氏だかなんだかしらねぇけど!好きな女振り回して何が楽しいんだ!未練がないなら二度と痲緒梨の前にあらわれんな!!」
「こわぁい。」
ミヨナの手を振り払い、悟夢は何も言わずにきびすを返していった。
「大丈夫?痲緒梨。」
「純太・・・・・・どうして・・・・・・むかってったの?」
「痲緒梨見てたら耐えられなくなった・・・・・・ごめん。でも、こわいより、守りたいと思ったんだ。」
本当にすまなさそうなしょぼんとした顔つきになる。
ごめんね・・・・・・ごめんね・・・・・・。
あたしのせいだよね。
純太をここまで無理やり替えちゃったのも。
ありのままの純太を受け入れてあげられなかったのも・・・・・・。
「ごめんね・・・・・・純太・・・・・・ごめんね・・・・・・。」
純太は困惑した顔になった。
そしてすぐ、傷ついた顔になった。
「そんなにアイツのことが・・・・・・好きかよ・・・・・・?」
あたしは黙ってうなづいた。
「どうして俺じゃ駄目なんだよ?」
どうして・・・・・・どうして?
でも、暖かい家庭じゃなかったからこそあたしと悟夢は通じ合えたんだと思うんだ。
それに・・・・・・あたしじゃなくて、ミヨナを選んだのは悟夢じゃん。
なのにどうしていまさらこんな風にあたしの目の前に立つの?
どうしてあたしを責めるようなことを言うの?
記憶なら戻ったよ。
戻った。
全部・・・・・・病院で悟夢がミヨナを抱こうとしてたことも。
悟夢があたしを睨みつけたことも。
記憶が戻ってないのはむしろ悟夢なんじゃないの?
なのにどうして現れるの?
どうしてあのところのようにその口で、同じ姿、声であたしの名前を呼ぶの?
あたしが狂ってるくらいあなたが好きなのに・・・・・・。
あなたが・・・・・・好きなのにミヨナを選んだんじゃない。
再び戻しそうになる。
我慢しなきゃ。
「ごめん・・・・・・純太・・・・・・でも、ありがとう。純太のこと、あたし・・・・・・好きだよ。だけど・・・・・・。ごめん・・・・・・あたしは・・・・・・純太に今は会いたくなかった。悟夢に会う前に出会いたかった・・・・・・。ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・。」
「わかった・・・・・・もういい。せめて家までおくらせて。」
あたしはしずかにうなづいた。
それからの毎日、地獄のようだった。
永遠の地獄、失った。
あたしは・・・・・・すべて失った。




