第4話
「そんなことあるはずないじゃない!これは私が必死に忍び込んで破いた一つなのよ!」
エリーナの問題発言に驚き思わず私が漏らしてしまった言葉に、そうエリーナは噛みつかんばかりの形相でまくし立てました。
「そんなこと言われても私は………」
「はぁ!?」
そしてその剣幕に思わず私は普通に言葉を続けていましたが………明らかに話の流れがおかしくなっていることには気づいていました。
あれ?なんでエリーナが虐められたという前提で話が始まったはずなのに私が虐められた話になっているんでしょうか?
「そんなこと有るわけがないでしょうが!貴方がいなかったとしたら毎日必死に忍び込んでものを壊していた私の苦労はどうなるのよ!」
ですがエリーナは全くそのことを気にするようすもなく喚き続けます。
その様子に一瞬自分の方が間違っているんじゃないかと私は思いかけて………
私と同じく呆然としているマートラスの貴族達の姿に、危うく納得してしまいそうだった自分を戒めました。
うん、明らかおかしいですよね?というかエリーナ、さらっと未遂かもしれませんが隣国の王女を虐めようとしたって自白しましたよね?
しかもその上虐めていた私の苦労はどうなるなんて叫ばれても、普通に牢屋に帰ってくださいとしか………
「貴様が何故その服を持っている?」
「っ!」
そしてそんな広場が困惑に満ちたその時、隠しきれない怒気に満ちたそんな声がエリーナへと投げかけられました。
その声の主は今までどれだけ王子がおかしな発言をしても口をつぐんでいたはずの高位貴族でした。
その貴族はどんな争いが起きても中立の立場を崩そうとはしなかったはずの一族で………
ーーー ですが今、その貴族は王子とエリーナに隠す気もなしに敵意を向けていました。
尋常ではないその貴族の様子に今までエリーナの問題発言に騒がしかったはずの広場が静まりかえり、そしてその中を貴族の怒声が響きわたりました。
「答えろ!貴様等が何故、娘が無くしたといっていた服手にしているっ!」
◇◆◇
「っ!エリーナ!だから私は自分の服を破けと………」
「で、でもそんなことをしたら私のドレスが………」
貴族の怒声に広場に沈黙が落ち、そしてその中に丸聞こえだと露ほども思っていなさそうな馬鹿二人の声が響いて………
そして私は今回の顛末だいたいを悟りました………
おそらくエリーナが虐められていたという話だいたい分かっていましたがあれは嘘なのでしょう。
本当はエリーナが私を虐めようと思って先ほど怒鳴っていた高位貴族の部屋に入り込んで荒らしていたというところでしょうか………
明らかに私の身体とサイズが違うのにどうして間違えられたのでしょうか。あっているのは膨らんでいる胸元のサイズ位です。
ですが一番お粗末な場所はその後の行動でしょう。
なにがあったのか詳しくはしりませんが、おそらく全く私に相手をされなくて逆恨みしていた王子と謎の敵意を私にもつエリーナがくんで私をおとしめようと考えた、それがおそらく今回の騒動の動機。
それ自体が馬鹿の発想としかいえませんが、もっともどうしようもないことはその計画の中で自身のドレスを破るのをおしみエリーナが自身が虐めていた令嬢の服を盗みすべての悪事を殆どカミングアウトしたことです。
………なにがしたいんでしょう、この二人は。
そもそもどうしてばれないと思えたのか………
その貧相なものでは胸元のサイズが明らか余るでしょうに。
「はぁ………」
そこまで悟って思わず私は溜息を漏らしました。
先ほどの王子達の会話で私以外にもその事実に思い当たった人間がかなりいるらしく、今までエリーナの言葉に呆然としていた貴族達の王子に対する態度が再度冷たいものとなっています。
………本当にこの二人は馬鹿なんでしょうか?いえ、馬鹿でしたね。
エリーナも王子も二人してどれだけ墓穴を掘れば気が済むんでしょう?
滅多に動じないロミルもあまりの愚かさに王子に剣を突きつけるのを忘れるくらい呆然としています。
そんなに穴を掘るのが好きならばどこか人目に付かない山にでも行って穴を掘っていればまだ救いはあったでしょうに………
「貴様王子であるわた………」
だが未だ王子が反省することはありませんでした。
王子は懲りずにお決まりの言葉を愚かにも激怒している貴族にかけようとして………
「ひぃっ!」
………怒りがこもった貴族の視線に腰を抜かしました。
そのあまりの情けなさに広場から失笑が漏れ、プライドだけは一人前の王子の顔が怒りで朱に染まりました、が………
「貴様等が私の娘を虐めていたのか?」
「ひっ!」
王子が何かを告げようとするその前に抑えられない怒りが漏れる高位貴族の声が響きました。
そしてその瞬間恐怖の声を王子とエリーナは上げ助けを求めるように周囲を見渡して………
「っ!貴様等!」
ーーー ようやく失望の目で見つめてくるマートラスの貴族の存在に気づいて怒りの声を上げました。
ここで怒りの声を上げる王子達に器がしれると私は溜息をつきながら口を開きました。
どこかで溜息をつくと幸せが逃げるなんて聞いたことがあるのですがだとすれば今日だけでどれだけの幸せが私から逃げていったのでしょうか………
「どうしてそんな目で見られているのかまだ分からないのです………」
しかし私はそんなことを考えながらそれでも諭すように優しく声をかけました。
確かに王子は嫌いでエリーナも嫌いですがそれでも分かってくれれば少しは恩情をかけてあげよう、そう最後の情けとしてかけた私の言葉は………
「そんな目で私を見るな!私はなにも悪くない!これは全部シリアのたくらんだことに違いない!あいつは婚約されただけで調子に乗りよって!」
「そうよ!あの性悪女がこの私に嫉妬して企んだことなのよ!」
………罪をすべて擦り付けようとマートラスの貴族に向かって叫ぶ二人の声にかき消されました。
本当に性格が腐りきってます。
というか、あれだけ詳細にカミングアウトしておいてどうして今更誤魔化せると思っているのでしょうか?
ーーー そして私が爆発寸前になったその時でした
「愚かだと思ってはいましたがここまでとは………」
突然広場に何者かの呆れを隠せない声が響きました。
それは消して大きくはない声でしたがその声がした瞬間、広場にいた全員が口を閉じました。
そのことを確認した男は満足げに頷くと再度口を開き………
「そもそも王子、貴方とシリア様は婚約など結ばれていませんよ………今日この場でそれを決める予定でしたのになんという騒ぎを起こされているのですか………」
「なっ!」
そしてその声の主が発した次の言葉に広場に衝撃が走りました。
全てを自白した馬鹿ふたり……
次回は明日の朝更新させて頂きます!
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