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第28話

「見つかってないよな……」


草陰に隠れ、私ロミルはそうあたりを伺いながら呟いた。

そしてあたりに人影がないことを確かめて安堵するが、その時でも変わらず私の胸には罪悪感がへばりついていた。


「……かなりの騒ぎになっていたな」


そう呟く私の頭に浮かぶのは先ほどの出来事。

それはリオールの商人が私を探して騒ぎ立てていた様子だった。


そう、現在私はリオールに帰国するために乗せられていた商人達から逃亡しているのだ。


頭に顔を蒼白に品がら私を探し回っていた商人の様子が浮かぶ。

本当に可哀想なくらい商人達は焦っていて、だが私は何故彼らがそんなに焦っているのか分かっていた。

何せ私の身分は騎士だ。

それも国王から直々にシリア様のことを頼まれた人間である。

そんな人間が行方不明になった、なんて状況になれば商人達が焦るのも当然だ。


「……申し訳ない」


だからこそ、私はその光景にひどい罪悪感を抱く。


「……出来るだけすぐに戻る!」


けれども、罪悪感を抱きながらも私の中には戻るという選択肢はなかった。

何故なら私は絶対にここで素直に帰国するわけにはいかないのだ。

いや、最終的ここで帰国することになるかもしれない。

しかし、それでもその前に絶対にやっておかなければならないことがあるのだから。

だから私は歩き出した。


「シリア様……」


そして王宮へと向かいながら、無意識に私はその人の名前を呟いていた……








◇◆◇








恐らくシリア様は幼い頃、私のそばにいたことをただ一緒に遊んでいた程度にしか考えていないだろう。


しかし、私には違った。


幼い頃、私は孤独だった。

決して両親が愛を注いでくれていないわけではなかった。

いや、寧ろよく注いでくれていたように思う。

けれども、私を見つめる両親の目の奥には隠しきれない悲しみが浮かんでいた。

それは何に対する悲しみだったのか私にはわからない。

襲われてできた私を見て、その時の悔しさを考えているのか、それとも私を憐れんでいたのか、幼かった私には判断することはできなかった。

いや、成長した今でさえその答えは分からないままだ。

けれども、その時私は自然と悟ったのだ。


……私は、この世に生まれてきてはならなかった人間だったのだと。


そしてそれからだった。

両親から与えられる無償の愛に苦痛を感じ始めたのは。

その苦痛が酷く見当違いなものであることをその時の私は悟っていた。

だからこそ、さらに私は自分を責めた。


無償の愛を受け取れない自分は何て卑しい存在なのだと。

思い出したくない記憶の証明である自分を大切に育ててくれる人間に対して何で苦しみを感じるのかと。


その内、僕は自分が周囲とは違う異質な存在だと考えるようになっていた。

何処か距離がある同年代の人間の態度もその思いに拍車をかけていった。


「ロミル、遊びましょう!」


そして、そんな私が自分を認められるようになったのはシリア様がいたからだった。


いつ頃だったか、突然現れた貴族の令嬢らしからぬ活発な少女。

私は当初その存在に手を焼いていたのを覚えている。

同年代の人間と私はあそんだことなんてなくて、だから最初私は反射的にその少女から距離を置こうとしたのだ。

けれども、彼女はその私のあからさまな態度を見ても私から離れようとはしなかった。

追い払おうとしても、ついてきて離れない厄介な少女。

彼女はこちらが嫌がって逃げようとしているのにもかかわらず、無視して距離を詰めてくる酷く面倒くさい人間で……


ーーー けれどもシリア様と関わっていうちに私は自分を認められるようになっていた。


それがどれだけ私にとって大切なことだったか、シリア様は知らない。

どうせ、小さい頃ロミルとは一緒に遊んだ程度の認識しか無いのだろう。


けれども、間違いなくその時私はシリア様に救われた。


自分の存在をどうしようもないものだと決めつけて、勝手に絶望していた僕にシリア様は笑いかけてくれた。


「だからいつか恩返しすると決めた」


そう呟いた私の頭に浮かんでくるのは最後に見たシリア様の姿。

どうしようもなく追い詰められた、かつての自分を思い出すそんな顔。


そして今、明らかに追い詰められている彼女を置いてリオールになど戻れるわけがなかった。

本当にシリア様が私を嫌いで、絶対に側に置いておきたくないと思っているのならば私はすぐにリオールに戻ろう。

例えその時に商隊がもう無くても徒歩でリオールまで戻る。

けれどもシリア様が何かを抱えているならば私はその解決のために力を注ごう。

政略結婚をやめたいと言うならば私がリオールの国王様に直々に抗議する。

マートラスの王子に脅されていると言うならば今度こそあの馬鹿の首を切る。


「それが私の恩返し……いや、騎士が愛する人間のためにしなければならないことのはずだから……」


そしてその時私が呟いた言葉は誰の耳に入ることもなく、空中に霧散していった……

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