表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

第20話

あれだけ有能と話されていた人、そんな人がこの国に悪影響を与えた、その事実は私にとって驚愕を隠せない事実でした。

何せそれだけの偉業を王妃様が果たしてきたことを私は今までウルベール様から告げられてきたのですから。


「そんな、王妃様がそんなミスを……」


だからこそ、気づけば私は思わずそう口から漏らしてしまいました。

それは決して返信を望んで告げた言葉ではありませんでした。


「……いえ、ミスではありません。彼女は自分が大々的に貴族を追放すれば残った貴族も口出しをやめるだろうことを分かっていました」


「えっ?」


しかし、その私の言葉に苦々しそうなウルベール様の声が返されました。

私は一瞬、まさかウルベール様に言葉を返されると思わず言葉を失いかけて、ですがその内容を飲み込んで驚くことになりました。


「ミスじゃない?」


「えぇ、彼女はただただ捨て身で強引にことを進めようとして結果的に全てが良くなっただけです」


疑問を隠しきれない様子でおうむ返しに言葉を繰り返した私にウルベール様は苦々しさを隠せない様子で言葉を続けました。


「あの時彼女があそこまで身を張る必要など無かった。確かにあの時は酷い時代でした。けれども、幾ら一番早くても、一歩間違えたら破滅しかねないあんな方法を取る必要は……」


どこか沈んだようなウルベール様の様子、それを見ながら私の頭の中にある記憶が蘇ってきました。

それはお父様に聞いたマートラスの過去でした。

もう何年も前、マートラスは腐敗しきっていたのだと。

しかし急速にその腐敗は治まっていき、他国ではそれは名君と呼ばれた国王が腰を上げたのだとそう言われていたことを。

そして今私は、その腐敗を改善した影の功労者が王妃様であるということを悟っていました。

恐らく王妃様が追放していった高位貴族達が腐敗の原因であったことを。


そしてその理由は決して権力争いだとか、そんなもののためではなかったそのことを私はウルベール様の態度に悟りました。


恐らく王妃様は腐敗する自国を見ていることができずに、行動を起こしたのだろうと、私はそう思いかけて……


「……彼女が将才を明らかにしたと言われる戦争、それは彼女にとってはじめての戦でした。自身が戦で勝てるかどうか、それさえも度外視して彼女はあの時戦場に出て行きました」


「えっ?」


……ですが、次なるウルベール様の言葉に思わず言葉を失うことになりました。








◇◆◇








ウルベール様の告げた言葉、それは明らかに異常でした。

確かにその戦いで王妃様の将才が明らかになり、勝利したかもしれません。

ですが、それでもいきなり勝てるかどうかも知らない戦場に赴くそんな行動は明らかに異常でした。

そしてその事実に驚愕を隠しきれない私の耳に、ウルベール様の言葉が入ってきました。


「………戦場に素人がいきなり赴く、それは普通ならばあり得ないことでしょう。けれどもその時すでに彼女は自分の命を捨てるかのような、そんな行動をとるようになっていました」


「命を捨てる……」


そう告げるウルベール様の言葉に浮かぶのは隠しきれない悔恨でした。

何故、そんな明らかに異常な行動に王妃様が出たのか、その理由は一切分かりません。

けれども、その理由をウルベール様が知り、その上で心を痛めているのだということをその時私は悟りました。


その時私の頭に浮かんだのは、王妃様が家族を追放したという、その言葉でした。

恐らく王妃様の家は腐敗の中枢だったのでしょう。

そしてだからこそ、王妃様は真っ先にこの国から追い出した。

それはこの国を思うものとしては当然の行動でしょう。


けれども、それが家族を追放することと同義だったとしたらそんな風に私は思い切れるでしょうか?


いえ、私にはできないでしょう。

そしてその時から王妃様は心を病んでおられれのだとしたら、家族であるウルベール様が王妃様が病んでいる理由を悟っていてもおかしくありません。


「それが私のお願いの理由です。恐らく彼女はあまりにも今、自分を軽く見ている。彼女が居なくなれば心を痛める、そんな存在があると思いもせずに。だから私は彼女の行動を教えていただける人間が欲しいのです」


「っ!」


真っ直ぐに目を向けたウルベール様、その自分の方に向けられた目に、思わず私は息を呑みました。

そしてどれだけウルベール様が、王妃様のことを思って居て、どれだけ必死に行動を起こそうとしているのか、それを分かった私に許された返答は一つだけでした。


「………はい。分かりました。気は進みませんが、私が王妃様の行動をきちんとウルベール様に御報告させていただきます!」


そしてこの日、私はウルベール様のスパイというそんな裏の役目を背負いながらも、王妃様に出会うこととなりました……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=313140937&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ