第19話
「それは、王妃様がウルベール様に対して敵対する可能性があると言うことでしょうか?」
突然のウルベール様の王妃野行動を教えてくれと言う言葉、その言葉を私はそう認識して震える声を出しました。
つまりウルベール様が王妃様を私の協力者とした理由、それは王妃様がウルベール様と決して良い関係を結んでいないからだと私は考えたのです。
そしてその王妃様の動向を探るために私をスパイとして……
「いえ、違いますよ」
「そう、なのですか?」
しかしその私の思考はウルベール様の声に遮られることとなりました。
ですが、ウルベール様に否定されてもなお、私の中からその疑惑が消えることはありませんでした。
それ程私にとっては、動向を調べろなんて言う言葉が想定外だったのです。
仮にも王妃である相手にそんなことをいうなんて明らかに何かがあるとしか思えません。
「家族の動向を教えてほしい、それだけですよ」
「えっ?」
だが、その時私が抱いた不信感は次のウルベール様の言葉に吹き飛ぶことになりました。
え、家族?
ウルベール様と王妃様が?
「えぇぇぇぇえ!?」
そしてそのあまりにも突然に明かされた衝撃の事実に、ロミルと私の叫び声が合わさりました……
◇◆◇
「言ってませんでしか。妹です」
衝撃の事実に思わず声を上げて、叫んでしまった私とロミル。
その声はかなりの音量だったように感じまでいるのですが、ぽつりと付け加えたウルベール様の様子は今までと一切変わっていませんでした。
そしてその様子に私達も冷静さを取り戻しかけ……
「聞いてません!」
「シリア様の言う通りです。そして何故そんなになんでもないことのように言われるんですか……」
……ませんでした。
いや、それは当たり前のことです。
それが事実だとすればウルベール様はかなりの高位の貴族の出身であることになるのです。
私はお父様からウルベール様はかの戦争で成り上がったと聞かされていたので、なおさらウルベール様の出身は貴族か、または下級貴族だと思い込んでいました。
なのに本当は高位貴族であったとは……
確かに高位貴族であった時よりはあの戦争でウルベール様の地位も向上してはいるでしょうが、紛らわしくはないでしょうかお父様?
そう私は頭の中のお父様に対しても文句を言ってしまうほどには驚いていましたが、それでもウルベール様の反応は変わりませんでした。
「まぁ、そう言うことで王妃様の行動を報告願います」
というか、無視されました。
一瞬、私はそのウルベール様の態度にそれは無いだろうと怒りを覚えかけて……
「あれ?」
そしてどこかウルベール様が焦っているように感じて目を見開きました。
その私の感じた感覚、それは決してウルベール様の態度が明らかに変わっていたというわけではありませんでした。
それどころか、ウルベール様の態度には一切今までと変わった様子が見られなくて……
「では、お願いできますね」
……しかし、明らかに執拗に王妃様の行動を報告する件に関してウルベール様は言及してきました。
そのウルベール様の態度に私は疑問を覚えつつも、それでもことがことだけにあっさりと引き受けることができるわけがなく、断ろうと口を開きました。
「……しかし、そんなこと私には。王妃様は優秀だとウルベール様も仰っていたではないですか!だったらそんなに気にしないでも……」
「いえ、それは出来ない」
「えっ?」
ですが、その私の言葉はかつてなく強い口調のウルベール様の言葉で中断させられることになりました。
私、いえ、ロミルもかつて見たことないウルベール様のその強引な様子に思わず動揺を隠しきれませんでしたが、そのことをウルベール様が気づくことはありませんでした。
「彼女は確かに有能だ。だが、あまりにも捨て身すぎる……」
そしていつのまにかウルベール様は王妃様を親しく彼女と呼んでいました。
けれども、その時私の耳にはそれよりももっと気になった言葉がありました。
「捨て身……?」
「ええ」
途中、私が言葉を挟んだせいか、いつのまにかウルベール様の口調には少し冷静さが戻っていました。
けれども、ウルベール様の語調が和らいだと同義ではなく、さらにウルベール様は言葉を重ねました。
「そもそも、王妃の身で高位貴族と政権争いをしたことが異常でした。確かに彼女は自身の家を許せない、そう思うだけの理由がありました。それに最終的には不正をし、この国の腐敗に繋がっていた高位貴族を一新することはできました。けれども、彼女ならば時間はかかったかもしれないが、それでも確実にこの国をもっとうまく変えれた」
そう言葉を重ねるウルベール様の声には複雑すぎて読みきれない感情が込められていました。
それが何か、私には検討はつきませんでしたが、それを私が考える間も無くウルベール様は次の言葉を口にしました。
「シリア様は目にしましたか?あの王子の言葉に文句を言えず、不満があっても口を貝のように閉ざしている貴族の姿を」
「え、ええ」
それは私が目にした、貴族のあまりにも異常な姿でした。
貴族は王族に次ぐ権力を持っていて、なのにそのはずなのにあの広場では王子の目に留まることを恐れ、貴族はほとんど口を開こうとはしていませんでした。
確かにあの時の王子は馬鹿で、目をつけられたくないとそう思う気持ちはわかりますが、それでもあの時のあの状態は明らかに異常で……
「その原因は、王妃様です」
「えっ?」
そしてだからこそ私は、優秀だと聞かされていた王妃様の思わぬ失態に言葉を失うことになりました……