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第15話

国王の発言、それはただの脅しでした。

王子との婚約を認めなければ私に冤罪を自身が被せるという、そんなあまりにも理不尽な言葉。


「わかっただろう!私に逆らうことはできないのだ!だから大人しく従え!」


しかし、その国王の言葉に私が感じたのは怒りでも、呆れでもなく、疑問でした。

国王の愚かさ、それは今回の面会の時間だけで私は嫌という程思い知らされることとなりました。

ですがその愚かさを踏まえたとしても今の国王の態度は明らかに異常でした。

たしかに王族同士の婚約となればリオールとマートラスの結びつきはさらに強固となるでしょう。

けれどもそれだけの理由で国王がこんなにもしつこく王子との婚約を私に臨む理由がわかりません。

それにこんなことがリオールに伝われば逆に関係が悪くなるのは自明の理なのですから。

国王のやけにしつこい態度、その理由が一切わからないそのせいか、私の背に悪寒が走りました。

その瞬間、私はこの場を早々に誤魔化して去るべきだと判断して口を開きました。


「……国王様、貴方が私に冤罪を被せようとしてもそれは無駄です」


「はっ?」


「私は転校

に関してウルベール様に許可を貰って国王様に手紙を出させて頂いておりますから」

ウルベール様に転校の件を確認して貰っている、それは勿論嘘でした。

何せ私とウルベール様は昨日が初対面なのです。


「……またウルベールか!」


ですがそんなことを知るよしもない国王は怒りを隠そうともせずそう怒鳴り声をあげました。

一瞬その姿を目にして、私の胸にウルベール様に対する心配が過ぎります。

ま、まぁ、ウルベール様ですから恐らく大丈夫でしょう……

ただ今回の件でもしかしたらウルベール様が私への国王の干渉を止められなくなる可能性が……

……いえ、後のことはまた次に考えましょう。

今はとにかくこの場から立ち去りたいです。


「ということですので、私はここで」


そして私は早足で今度こそ、この場から離れるべく歩き出しました。

もう国王が自分に冤罪をかけるという宣言をしたということなど今はきにする余裕もありませんでした。

なので、本来ならば国王に退室の許可を貰うのが礼儀ですが、それも無視して私は扉へと早足で急ぎました。

そうして何とか私は扉の前まで辿り着くことが出来ましたが……


「待て!まだだ!」


「……何でしょうか」


ですが、今度も国王の声に阻まれその場を後にせることはできませんでした。

一瞬思わず私は不平を顔に浮かべてしまいそうになって、必死に感情を抑え込みます。


「どうしてもカルトスと婚約を結ぶのが嫌なら、追加で条件をつけてやる!そうだ!私がお前を愛人にしてやる!」


「きゃっ!?」


ですが次の瞬間その私の平静は、そんな言葉と共に勢いよく私へと掴みかかってきた国王の姿に吹き飛ぶこととなりました。


……いや、どういう思考回路を持っていればそんな条件を私が喜ぶと思えるんですか!?







◇◆◇







「私はそんなことを求めてはいません!」


私はその言葉と共に、国王を退かそうとして……


「何を言おうが私は気にしない。私が折角誘ってやっても殆どの女は照れ隠しで邪険にするからな!」


「えっ?」


ですが、国王の身体は一切動くことはありませんでした。


そしてその国王に今自分が襲われかねない状況にいることに気づき、私の胸に恐怖が溢れ出しました。


「っ!シリア様!」


そしてその国王の態度に流石にロミルも堪えかね、国王へと手を伸ばしますが……


「貴様!無礼だぞ!」


「なっ!」


ですがロミルが国王を私から引き離そうとする前に、ロミルの声を聞きつけたのか扉の前にいた国王の護衛達が雪崩れ込んできました。

そしてその光景に一瞬ロミルは言葉を失いましたが、直ぐに部屋の中に入り込んできた護衛達をにらんで叫びました。


「どちらが無礼だ!」


そのロミルの声に刺激され、護衛達が殺気立った表情を浮かべ、部屋の中に殺気立った空気が流れました。

そして両者の間に今にも交戦に発展しそうな緊張感が漂い……


「ロミル!」


しかし戦闘が始まる前に私は叫び声をあげていました。

恐らく今戦闘が始まれば事態は取り返しのつかないことになります。

例え護衛であれ、この場でロミルが危害を与えれば国王はどういう態度をとるのか想像もつきません。

正直悪いのは明らかに全て相手ですが、マートラスの中ならばその理屈は通用しない可能性があります。


「……分かりました」


そしてそのことをロミルは分かっていたのか、私の言葉に苦々しそうな顔を浮かべながらも従い後ろに下がりました。

そのロミルの態度に私は安堵の息を吐きかけて……


「やはり、私の愛人になるというのはそこまで嬉しいか!」


その前に耳に入った国王の言葉に未だ全く危機が去っていなかったことを悟りました。

ロミルの反応のお陰で、いざという時は守ってくれるという安心感を抱き、今私はある程度冷静さを取り戻していました。

ですが、私へと欲望のこもった視線を寄越す国王をどうすればいいのか私は分かりませんでした。

通常ならば、ここはリオールの名前を出して国王の態度を咎めるべきなのでしょうが、それは考えられる限り最悪の悪手でしょう。

というのも、ウルベール様曰くリオールの話は国王を逆に刺激してしまう可能性があるのです。

つまりこの状況であれば国王が私にどんな危害を与えようとするのか、考えたくもありません……


「国王様……」


そして悩んだ末に私はウルベール様から託された最後の手段を使うことにしました。


耳元で私に囁かれた国王の顔は何を想像したのか、緩んでいきます。

私はその顔に嫌悪感を抱きながらも、それでも耳元で口を開きました。


「ーーー 父との約束、覚えていますか?」


「っーーー!」


そしてその私の声に、国王の緩みきった顔から次の瞬間血の気が引いてゆきました……

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