第11話
「付け足させて頂きますと、国王様は王子との婚約を無理やり結んでも何の問題もないと思っている、と言うのが正確なところですね」
名君だと信じていた存在が、実は全く違う存在だったと知り、思わず呆然とする私達にウルベール様はそう言葉を続けました。
その言葉は今までと一切抑揚が変わっていないながらも、隠しきれない疲れが滲み出ていて、私はウルベール様の言葉が真実であることを悟ります。
しかしそれでも一つ分からないことがあって、私は声をあげました。
「何故、そんなにも国王様は私と王子との婚約を強制しようとするのですか!」
マートラスとリオールの関係を強化するのに至って、消して王族同士の結婚が必要である訳ではありません。
リオールが一番に望んでいるのはマートラスの優秀な人材と親交を深めることで、そしてその為には必ずしも王族と婚約し、国同士の関係を強化する必要はないのです。
つまり、何が何でも王子と私との婚約を推し進めようとする国王の態度は明らかに異常なのです。
だから私はその疑問を解消しようとウルベール様に尋ねて……
「それは私も詳細は分かりません。けれども恐らくリオールの国王様、つまり貴方のお父上が関わっていると思われます」
「えっ?」
………そして予想外の答えに思わず言葉を失いました。
何故ここでお父様が出てくるのでしょうか?
お父様は今回の婚約については、マートラス主導だから関われないだろうといっておられたはずなのに……
「実は王令でかなり前からリオールに送る手紙に制限が付いますので」
「えぇ!?」
そして次のウルベール様の言葉に私はさらにおかしくなって行く話の方向に目を見開きました。
何でこんな方向に話が向かって行くんですか……
ですがウルベール様の言葉はそこで終わりではありませんでした。
「それにどうやら国王様はリオールに向かって王子の自慢話、いえ、王子が好青年であるかのような捏造を広めようとしていましたので」
「っ!」
そしてその言葉でようやく私は悟ります。
恐らく今私はリオールとの連絡を断たれ孤立化しているのではないのかと。
しかも私が王子と結ばれても誰一人として異常に思わないような状況で。
「まぁ、あの聡明なリオールの国王様であるので、流石に連絡を断たれたらすぐに気づくと……」
私の驚愕の表情に気づいたウルベール様は、気を使いそう言葉を続けます。
しかし、そのウルベール様の言葉に私はさらに顔を歪めました。
「……気づかないと思います」
何故なら、そんな未来が来ないことを私は知っていだのですから……
「どうして?」
「……お父様は恐らく王子が好青年だというマートラスの国王様の言葉を信じていましたから」
「は?」
私の頭にやけに満面の笑みで、婚約が決まれば教えろよと告げてきたお父様の顔が思い浮かびます。
恐らくお父様が関われないと言っていたのは連絡が制限されることをあらかじめマートラスの国王に偽りの理由で教えられて知っていたからでしょう。
……いや、あれだけマートラスの国王様のことを嫌そうにしていたのに、言っていることを何であっさりと信じちゃうですかぁ!
そう私は心の中で叫びながら、動きを止めたウルベール様に一からお父様の言葉を説明する羽目になりました……
◇◆◇
「大体事情は分かりました」
それからしばらくして、今までと一切変わらない表情のウルベール様がそう告げました。
その表情も声の抑揚も今までと一切変わっていませんでしたが、何処か怒っているような気がして私は顔を青ざめました。
やけにウルベール様が恐ろしく見えるのは、罪悪感を感じているだけだと私は自分に言い聞かせます。
「でしたら、今からの国王様との面会でも過剰にリオールの存在をチラつかせるわけにはいきませんね。最悪、監禁されます」
「……何でそんなに物騒に」
ウルベール様の言葉に私はいつの間にやらどんどん酷くなって行く状況に頭を抱えました。
「欠席とかの選択肢は……」
「その場合、次からは私が外されて国王様の行動がエスカレートするでしょうね。今まで必死に私が面会を抑えてきたので、毎日のように婚約を迫られると思いますよ」
「……そうか、その国王を殺せば」
ウルベール様の言葉を聞いて、ロミルの目から光が消えました。
そして武芸など一切やっていない私でも分かる殺意がその場に蔓延して、私は思わず息を呑みます。
しかし、直ぐにロミルを制止しなければならないことに気づいて口を開いて……
「その程度の実力では無理です」
「っ!」
その前に冷ややかなウルベール様の声がその場に響きました。
そのダメ出しにロミルが驚愕に目を見開きます。
決してその冷ややかな声に驚いたわけではなく、初めて見せたウルベール様の真剣味なようなものにロミルは驚いたことを私は悟ります。
「ですが、そんなことをしなくてもこの場を乗り切る方法ならあります」
ウルベール様には一切、ロミルに注意を払うことなく私だけを見て言葉を続けました。
「シリア様非常に不本意ですが、国王様の元に行くまでの時間で貴女がこの状況から乗り切る術をお教えいたします」
そう告げたウルベール様は一切表情を変えていないはずなのに、凄い威圧感を私は感じて……
「は、はい……」
そして私はそう返すことしかできませんでした……