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★決勝トーナメントと魂の在処

 俺たち秀和高校バスケ部の勢いは止まらない。


 予選を勝ちあがった俺たちは、勢いそのままに、決勝トーナメントの一、二回戦を勝ち上がった。決勝トーナメントの一回戦はトリプルスコアで楽勝だったが、二回戦は相手の猛攻に苦しむこととなった。


 しかし椎葉先輩のディフェンスとリバウンドが光り、辛くも四点差で相手を撃破するに至った。


「今回はヒヤヒヤする展開だった」


 吉本先輩は着替えのロッカールームで、珍しく本音を零した。それくらいにギリギリで競り勝った試合だった。部員の奴らも競り勝てたことに安堵している。


 しかし俺は、そんな勝利を分かち合う輪のなかに入れずにいた。敵チームの一番の姿が、眼に焼き付いていた。敵チームの選手の一人が、勝負が決した瞬間、その場に崩れ落ちた。そいつは泣いていた。俺と同じ二年だった。


 敵の三年たちが試合終了の整列の為に立たせようとしたが、そいつは腰が砕けて立ち上がれなかった。


「せんぱい。すいません、すいま…せん」


 そのとき、俺の横に並んでいた吉本先輩の眼は揺らいでいた。きっと去年の自分と重ねるところがあったのだ。


             ★


「決勝までちゃんと勝ちあがってくれよ、有給休暇、もう取っちまったんだから」


「任せとけ」


 裕にぃの車のなかで、心地よくもだるい体の俺は、そう約束した。裕にぃは仕事終わりに俺の会場まで迎えに来てくれていたのだ。だが残念ながら、試合の応援のためにとれた休みは決勝の日だけだった。


「バスケが上手いのは聞いていたが、まさかここまでとはなぁ。流石は俺の弟だ」


 裕にぃは誇らしそうだ。


「素直に受け取るよ。俺がここまで来られたのは、裕にぃのおかげだ」


 偽りのない本音だ。裕にぃは無言になる。鼻をすする音だけが車内に響く。車がボロのバスケットゴールが置いてある公園を通り過ぎる。以前、誠と練習していた公園だ。俺は自然と、自分自身と向き合っていた。


 昔から体を動かすのが好きだった。


 体を動かすと、頭はなにも考えられずに真っ白になる。そのあいだだけ、自分に親がいないことや、自分は生まれてこなければよかったという後悔を忘れていられた。自分は駄目だと弱さに溺れそうなときは、いつだって体を動かした。そうすれば吹き出る汗が、俺の体をなぞって生きていることを実感できた。


 自分の存在とか、生きる意味とか、考えたら答えが出ないようなことも、汗が俺自身の輪郭を浮きあがらせて教えてくれる。大丈夫、俺はここにいる。生きていていいんだ。


 そうしてがむしゃらに走っていたら、色んな奴に出会った。誠とかバスケの先輩とか木室さんとか。皆笑って俺のことを受け入れてくれた。それだけで大きく息が吸えた。バスケをやっている皆が、仲間が、俺を支えてくれている。だからこれは恩返しだ。仲間のためにも、俺という存在に掛けて負けられない。


「待っていろよ、颯太。もうすぐだからな」


 俺は小声で呟く、颯太の分まで走り続ける。それがもうすぐ優勝の形に変わる。

 それは、お前が俺にくれた、俺の生きている意味だ。

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