片刃---変人
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理想を壊して現実へ帰る
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駅前で、バイト探しをしていたはずだった。
夕方の、うんざりするような人混みの中で、俺は間違いなく、バイト探しをしていたはずだ。
「あれ、おーい、聞いてますかー?」
透き通った、そのくせ慇懃無礼な印象を受ける様な、お世辞にも良いとは言えない口調の声が、前から聞こえてくる。
ため息を吐き、額に手をやる、いかにもな「疲れてますアピール」をしながら、俺はもう一度、深いため息を吐いた。
「目を開けたまま眠ってる···の?」
「いや、そんな訳ないじゃないですか···もし俺が、本当にそんな珍妙な寝方ができる人間だったとしても、こんな騒がしい場所で眠れる訳ないでしょう」
俺の返事を聞いて、そいつは満足そうな顔をする。
「あー、よかった安心した。実はぼくの知り合いにそんな人がいてね」
知らねえよ······。ていうか何その人、ひょっとして病気?
「······あの、」
「はい?」
「あなたは誰で、一体何をしているんですか?」
意を決して、俺は問う。
「はい」
俺の問いに対して、そいつは大きく、満足そうに頷いた。
「君が困ったような顔をしていたから、助けてあげようと思って」
バイト探しをしていた俺は、現在進行形で、見知らぬ男に絡まれていました。