確信タラシ
「もう~!吉村くんったらぁ!」
ここは2-3組、私の教室。
「やだあ!そんなことばっかり言って。」
聞こえてくるのは教室の後ろの扉当たり。
私は前から三列目の窓際なので、それらを見ようとすれば振りむかなければならない。
が、しない。
昼休みももうすぐ終わる。
五時間目はなんだったっけなぁとぼんやり頬杖をつき前を見る。
「奈都!」
「理恵。」
さっきまでトイレに行っていた友達の理恵が帰って来て私の前の近藤くんの席に座る。
「あれ。」
顎で後ろのドアの方をしゃくる理恵。
「あれ、とは?」
「あ・れ・だよ!」
もうなんだよ~!知ってるよ!
嫌々ながらも後ろのドアに視線をチラリと流せば。
甘々な雰囲気を垂れ流しにしながらいちゃつくカップル。
男子は身長180㎝まではいかないけど、手足が長くてすらりとしている。大きなアーモンド型の目をすっと細めて微笑む。髪は黒だが柔らかそうな感じでセットされている。所謂イケメンで、うちのクラスの吉村仁だ。
女子は確か隣のクラスだったかな?小さくて栗色の髪をふわふわとさせている。目は大きく外野パーツは全て小さい。the女子!つて感じが可愛い。名前はーー確か三池さん、だったと思う。
ハイハイ、ゴチソウサマデス。
ムネヤケスル。
「奈都いいの?」
「なにがさ?」
「いや、だって、また?吉村仁って奈都の?」
「彼氏ですね。」
もう慣れすぎてて日常でヤキモキもせんわ。
呆れた瞳をしないでおくれよ、理恵。
私だって分かってるよ。
「あいつ、またか。」
理恵の隣に来た
「瀬戸」
陸上部で黒く日焼けした私の隣の席の瀬戸昇平。
スポーツマンらしくがっちりした爽やか好青年だ。
吉村とも友達。
呆れているのか憐れんでいるのかわからない表情を私に向ける。
「私に言わないで。」
「元気出せよ。」
にかっと笑って私の頭を撫でる。というか掴む。
いや、わしゃわしゃしないでってば!
「触んないでくれる?」
あ、来た。
声のする方みるとさっきまでドアのところでキャッキャウフフしていた吉村が立っていた。そしてさっきまで私の髪をわしゃわしゃしてた瀬戸の腕をつかんでいた。
瞬間移動か、怖いな。
「奈都は俺んだから触んないで。」
「吉村だってさっきまでイチャイチャしてたでしょーが!」
あ、余計なこと言わないで、理恵さん。
「イチャイチャ?俺が?」
「さっきドアのとこ!」
あ~、と頷いた吉村。
そしてのたまうのだ。
「あれはイチャイチャじゃない。これがイチャイチャ。」
そういうと私を椅子から立たせてぎゅっと抱きしめ、旋毛にチュッとキスをする。
教室からキャーと悲鳴が騰がる。
「ちょっとやめて!ここ教室!!」
一刻も早く離してもらわないと、と胸を押してみても逆に余計に締まる。
「あー、吉村ってこういう奴だったわ。」
「理恵、助けてよ。」
「私には無理。」
「瀬戸ぉ!」
「俺も無理。」
「奈都、そんな可愛い声で昇平呼んじゃだめでしょう?」
何をいってるんですか?
「もう、いーから離して!」
「可愛い」
吉村は最後にほっぺたにチュッと唇を落としてやっと私を解放した。
「ほんと奈都は可愛いなぁ。」
そう言って私の手を握る。
あぁほらまた、その笑顔でいられると、やっぱり私は吉村が好きなんだなぁって思ってしまう。
「ね、奈都?たまには嫉妬もしてね。」
「‥‥」
確信犯なんだろうか‥‥。
そうして私は振り回されるんだろうなぁって。
外を見ればそこにはもうすぐ夏休みだ。