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人形王子はお転婆令嬢に愛される

掲載日:2015/08/20

「お前のようなお転婆を人形王子が貰ってくれるらしい。側姫が産んだ17歳の第4王子だ」


 え、第4王子様? ああ、あの人形のように美しく動かない王子様の事ね。

 ---私がお父様に呼ばれて執務室に勢いよく走り込むと、いきなりそう告げられた。

 13歳になるまで婚約者が決まらなかった私を、何と王子様が貰ってくださるというのだ。


 ちょっと額に指を当てて考えてみる。

 んー? 確かこの前のお茶会でちょっとだけお話ししたような。

 ………あ、思い出した。お人形とお話ししてるみたいで楽しかったわ。


「嬉しいわ、お父様。縁談を決めて下さってありがとう」


 執務机の後ろに素早く回りこんで、硬い顔をしているお父様に抱きつく。

 けれど、すぐ軽く振り払われた。


「リーエルネ伯爵家で婚約者が決まっていないのはお前だけだ。王族が貰ってくれて厄介払いできる」

「そうですね。上のお兄様とお姉さまが決まっているのに私だけ決まってなくてちょっぴり恥ずかしかったです」


 えへへ、と笑ってお父様を見上げる。

 お父様は執務室の窓から外の鳥をご覧になった。


「お前のようなお転婆は末娘だし、ずっとずっと家にいるしかないと思っていたのだが。王族の命令だ」


 お父様は呟くようにいうと、引き続き外の鳥を食い入るように見ている。

 目元が赤くなっているように見えた。


 どうしたのだろう。

 あっ、そっか。


「食べたいのですか? 私、捕ってきましょうか?」


 鳩だからパイにするとおいしいかもしれない。

 お父様がさっきから硬いお顔をしているのはお腹が空いているからね。


「え?」


 お父様が目を剥いてこちらを見る。

 私が捕ってくれるなんて! って驚きかしら。


「婚約承りました。待ってて下さい! 鳩捕まえてきます!」


 お父様に貴族の娘らしくドレスの裾を摘んで礼をすると、外に向かって走り出す。

 鳩が行ってしまわない内に行かなくては。

 執務室の窓は飾り格子がはまってるから出られないのよね。


「え、おい。このお転婆。ちょっと待て! ミケーレ!!」


 お父様の焦ったような私を呼ぶ声が後ろに聞こえる。

 お父様も鳩が食べたいから焦っているのね。

 美味しそうな鳩とお人形みたいな王子様と縁談と今日はいい日だわ!


+++++


 日を改めて後日、私は書面での婚約をしてから初の王子様との顔合わせに向かっていた。


 二人でお茶会をしようとの事だ。招待の手紙が来た。

 王宮から派遣された馬車に侍女と一緒に乗り込む。

 まあまあな時間揺られて着くと、お茶にはちょうどよい時間だった。

 自分の荷物を侍女二人に持たせて女官の案内で第4王子の応接室へ向かう。


「ミケーレお嬢様。このお荷物は何でしょう?」

「とても重たいです」


 侍女二人が持っているトランクに疑いの視線を向けた。


「ふふっ、良い物よ。王子様への贈り物も入っているの」


 私は侍女にそう返しながら、招待の手紙の文面を思い出していた。


『ミケーレ嬢へ

 前回のお茶会で約束したとおり二人で好きな事をして過ごそう

 今度の休みの日待っている

 アレン』


 そうでした。王子様のお名前はアレンでしたね。忘れないようにしなくては。

 人形の王子様と呼ばれている割にはお手紙は普通に書けるのですよね。


 ………んー、代筆なのかしら。


+++++


「ようこそ」


 応接室に入ると、部屋の中央のテーブルの向こうに椅子に座ったアレン様がいた。

 銀色の髪に緑色の目。人形や彫刻のように整った顔をして、ニコリとも笑わない。


 だけど、4文字だけは喋って私を迎えてくれた。


 口だけが動いて、本当に人形みたい。

 お顔の他の筋肉を一切動かさないのよね。


「この度は私と婚約してくださってありがとうございました」


 私はテーブルの前まで行って、ドレスの裾を摘んで礼をする。


「こちらこそありがとう。掛けて下さい」


 パチパチと瞬きをしながら王子様が喋る。

 瞬きも何かぎこちない人形のような動きで面白かった。

 王子の許しがあって、王子のお付きの従者が椅子を引いてくれたので私も正面に座る。


「皆下がって」


 アレン様が私の方を見たまま、そう命令すると応接室の中は私たち二人だけになった。

 テーブルには既にお茶とお菓子がセットされていて、色とりどりのマカロンと紅茶がある。


「食べても良いでしょうか?」


 馬車に揺られたもので、まあまあお腹が空いていた。

 私の質問に王子様がこっくりと深く頷く。

 それがまた機械仕掛けの人形のような動きで、私は思わず噴出してしまう。


「ふふっ、本当にアレン様って楽しい方ですね。私、アレン様と縁談が決まって嬉しいです」


 王子様で綺麗で楽しい方。

 嬉しくて楽しくて、アレン様への感謝で一杯だ。

 私はニコニコしながら、紅茶とマカロンを頂いていく。


 そんな私の様子をアレン様がガラス玉のような瞳でジッと見ている。


 しばらくすると、紅茶もマカロンもあらかた私が食べ終わって一息ついた。

 アレン様は私が食べている間中、ずっと微動だにせず私を眺めていた。


 さて、と私は立ち上がる。

 立ち上がった私を追ってアレン様の視線が上がった。


「今日は人形遊びをしたいです」


 私の発言にアレン様は表情を変えない。

 こっくりと頷いた。


「私、今まで人形遊びをした事がなかったのですが、アレン様を見ているとしたくなりまして」


 アレン様はこっくりと頷く。


「無礼を承知で申し上げますが、アレン様で人形遊びをしても宜しいでしょうか? 宜しかったら『許す』とおっしゃってください」


 もしかしたら許されないかもしれない。

 無表情のままアレン様が止まる。

 少し間があった。


「許す」


 アレン様はこっくりと頷いた。

 私はその言葉を聞くや否や、アレン様にトランクを持って飛び掛った。


 色とりどりのドレスやリボンを屋敷から持ってきていた。

 アレン様の肩まで伸ばされたサラサラの銀髪をツインテールにしたりお団子に結い上げたり三つ編みにしたりする。

 赤やピンクや青のドレスをアレン様にスーツの上からとっかえひっかえ着せてみる。


 私に色々いじられてもアレン様は少しも動かなかった。

 そのガラス玉のような緑の目でジッと私を見ている。


 楽しくてたまらない。


 櫛を存分に使ってポニーテールに結い上げた所で、アレン様がふと口を開いた。


「あなただけだ。楽しそうにするのは。離れないで下さい」

「もちろんです」


 アレン様は長文をぎこちなく喋った。

 私の返事を聞いて先ほどより幾分か深くこっくりと頷くと、以後は何も喋らなかった。


 いつも私のやる事は誰も彼もに叱られたり止められたりする。

 でも、アレン様は私を受け入れてくれるように感じた。


「アレン様、大好きです。ずっと一緒に居ましょうね」


 私は人形遊びをたっぷり楽しんだ後、アレン様に抱きついて頬にキスをしたのだった。

 何せ、婚約者だ。

 こんな綺麗な人が私の婚約者。

 私は今までになく浮かれていたのだった。

 そんな浮かれている私をアレン様はジッと眺めていた。


+++++


「馬鹿者ー!!」


 私はお父様の大声に思わず耳を塞いだ。

 王宮から帰った次の日、お父様に執務室で昨日あった事を報告したのだ。

 そしたら、大きく息を吸って怒鳴られたのだ。


「アレン様は『許す』と仰いました。私なりに婚約者のアレン様と楽しく過ごしたのです」


 私は頬を膨らませてお父様を見る。


 お父様は執務机から身を乗り出して、私の頬を両側から挟み圧縮した。

 ふー! と私は強く息を吐かされる。


 婚約者だから多少の強引さも許される………だめ?


「お前だけが一方的に楽しんだのだろうが。無礼な事をしてよく我が家にお咎めなしだったものだ」

「だから許可を取りました」


 私の答えを聞いてお父様が更に頬を強く挟んでくる。

 もう私は蛸の口みたいになっていた。


「お前はよく考えろ」


 お父様のキツイ黒い目が私を見つめる。

 頬を抑えられたまま、私はよく考えてみる事にした。


 ………そうね。

 アレン様は笑っていなかった。ずっと無表情だった。

 確かにちょっとお父様の言うとおりかもしれない。


「考えにゃしでごめんなひゃい」


 頬が圧迫されているので変な声しか出ない。

 お父様が、


「ああ、そうだ。本来なら謝る位ではすまなかった」


 と頷く。

 後は、私が一方的に楽しんでしまったことも悪いのだろう。


「アレン様にお詫びのお手紙書きます。後、こちらの屋敷に招待しても宜しいですか」

「よし、いいだろう。お前にしては良い発想だ」


 お父様が珍しく褒めてくれる。

 私もやればできると言う事ね。

 私は嬉しくなってきて手を打ち合わせた。


「招待して私、アレン様を一生懸命おもてなしして楽しんで貰います!」


 王族であるアレン様をおもてなしする良い方法が色々浮かんでくる。

 これはすぐに思いついた事を書き付けて準備しなくては。

 手紙も書かないと。

 ああ、忙しい。

 うずうずしてきた。


「そうだ。王族に失礼にならないようお前が楽しませるんだ」

「はい! じゃあね、お父様!」

「あ、おいまだ話は終わっていない。ミケーレ! 屋敷内は走るな! おいー!」


 お父様が何事か叫んでいる気はしたが、思いついた事を書かないと忘れてしまう。

 後で謝ることにして、廊下を走って自分の部屋に急ぐのだった。


+++++


「今日はありがとう」


 ライトグレーのスーツを着たアレン様が短く礼を仰った。

 アレン様が立っているからびっくりしてしまった。


 考えてみると私はアレン様が座った所しか見ないまま婚約していた。

 アレン様が用意された席に腰掛ける。

 無表情で動かないいつものアレン様に戻った。

 

+++++


 今日はリーエルネ伯爵家にアレン様を招いてのお茶会だ。

 ウチの屋敷自慢の庭にて、様々なお菓子やお茶がテーブルに並んでいる。

 シェフが心を込めて焼いた洋ナシのタルトなんかオススメの一品だ。


 ---お父様に怒られた一件があってから、急いでお詫びの手紙を書いた。

 ついでに、我が屋敷への招待もした。


『ミケーレ嬢へ

 この間は楽しい時間を過ごせた

 招待ありがとう

 必ず伺う

 アレン』


 という手紙への返事も頂き、今回のお茶会となった。


 

 リーエルネ伯爵家の庭はこう言っては何だけれど見事だ。

 秋の色とりどりの花が咲き乱れ、小さいながらも噴水があり柔らかい陽にきらめいている。

 私たちはたわわに実った梨の木の近くで優雅なひと時を過ごしていた。


「本日は本当に来てくださってありがとうございます。アレン様とゆっくりとした一時を過ごせる事、嬉しく思っています」


 私はとっておきのドレスを着て、お澄まししながら紅茶を飲んでみせる。


 アレン様もこっくりと頷いた。

 どこかぎこちない仕草だけれど、お茶に手を伸ばして飲んでくださった。

 お茶を一口飲んでから、またこっくりと頷く。

 美味しいと思ってくださったのだろう。

 私はそんな気がした。


「手紙でも申し上げましたけれど、先日は申し訳ありませんでした」


 私はアレン様に頭を下げた。

 ここら辺で私たちが和やかにしている事に安心したメイド達が気を利かせて下がっていく。


 アレン様が首を左右に振る。


 私たちは少し沈黙して、庭を一緒に眺めた。


「あの、私、自分でも時々突飛な行動を取ってるって分かるのです。けれど、思いつと実行するのが自分でも止められないというかなんというか」


 私は沈黙を破って、思い切ってアレン様に告白する。


 自分でも少しは分かっていた。

 お兄様やお姉さまと違っていつまでも決まらない縁談。

 私の行動におろおろする家の者達。

 他のご令嬢の方とのお茶会では友達以外は私を見て笑う。


「アレン様が変な顔をせず、ありのままの私と接して下さって嬉しいです。アレン様も私の前では遠慮せずにありのままで居てください。私たち夫婦になるのですから」


 私の感謝が伝われば良い、その一心でアレン様に笑顔を向けた。


 そうすると、驚くことにアレン様の表情に少し変化があった。

 わずかばかりだが目を見開いて、こっくりと頷いた。


 私はアレン様の別の表情が見れたことがとても嬉しかった。


「よし! では、少し待っていてください!」


 私は勢いをつけて立ち上がる。

 今日のクライマックスの準備のために私は腕まくりをした。


 アレン様の視線があがり、ジッと私を見る。


「もぎたての梨を召し上がって頂きます!」


 私は近くの梨の木に駆け寄り、登り始める。

 ドレスを着ていても、木に登れるのは私の特技だ。

 全てはアレン様へのおもてなしの為に!


 気合を入れてするすると登っていく。

 目をつけておいた天辺の方の梨をアレン様にプレゼントしたい。


「あっ、ちょ………」


 慌てたような声に木に登りながら振り向くと、アレン様が目を見開いて木の下に来ていた。

 登ろうかどうか迷って、でも登らないで木の真下で私をジッと見つめている。


 アレン様に見守られながら順調に木に登った。

 天辺の熟れた梨に手を伸ばして引っ張ると、良い匂いのする実が私の手に収まった。


「アレン様! 取れました! 剥いてあげますね!」


 嬉しくて嬉しくて、実を掲げてアレン様に見せる。

 アレン様が焦ったような顔をした。

 珍しい表情でよく見ようと身を乗り出した瞬間、


「あっ!」

「危ない!」


 アレン様の注意に思わず身を引いたが、間に合わず木から前のめりに落ちる。

 衝撃に備えて頭を抱えてぎゅっと目を瞑った。

 落下した私は何かにぶつかり…

 …

 ……

 ……・・・

 あれ、痛くない。


 恐る恐る目を開けると、そこには焦った顔のアレン様が居た。

 私を覗き込んでいる。


「アレン様?」

「ミケーレ嬢。危ない事はやめて」


 私はアレン様の腕の中にいた。

 アレン様は軽々と私を受け止めてくれている。


「あなたが落ちる時心臓が潰れそうに痛かった」


 アレン様は少し青ざめて悲しいお顔をしていた。


「ごめんなさい」


 私は心配させてしまったことにショックを受ける。

 アレン様に抱きかかえられたまま見詰め合った。


「おーい! 今のは何だ! ミケーレ、怪我は無いのか!」


 振り返ると、必死の形相でこちらに走ってくるお父様がいた。


「下がるのではありませんでした。申し訳ありません!」

「大丈夫か、ミケーレ!」


 メイドや執事、お兄様が屋敷から飛び出してくる。


「皆、あなたが大事で心配している」


 アレン様は走ってくる皆を振り返り、それから私を地面に降ろしてくれた。

 私はこっくりと深く頷いた。


「愛しい人。末永くありのままの夫婦でいよう」


 そう愛の言葉を囁いて、アレン様が小さく微笑んだ。

 いつものガラス玉のような眼差しではなく、柔らかくその緑の目で見つめてくれる。

 私はアレン様の美しい笑顔に、真っ赤になるのだった。

 

+++++

 

 アレン様は何故人形王子などと呼ばれていたのか、私を受け止められるだけの筋力はどこからきたのだろう。


 仮にも夫になる人の事だ。

 アレン様の色々な事が知りたくなった。

 後々、アレン様とよくよく話し合ったり周りの人に聞いて見たりした。


 すると、意外な事が分かった。

 アレン様は王族の財務関係の事務総括や第4王子でも済む外交等を行っていた。

 そして、座っているだけでなく仕事では控えめであるがきちんと動いていたらしい。


 ただ、王様にべったりしていてアレン様を省みないと思われていた側妃様、つまりアレン様のお母様が、


『目立たないように邪魔にならないように喋らないように動かないようにしなさい』


 と繰り返しアレン様に言い聞かせていた。

 だから、仕事や稽古など以外ではなるべく動かない喋らないを心掛けていた結果、「人形王子」と呼ばれるようになった。

 そういう事だった。


 アレン様のお母様ともお話しする機会はあったが、私とアレン様に、


「正妃でない私が産んだ子だから目立つと殺されたりするかもしれないと思いましたの。ごめんなさい。アレン、あなたは私と王の大事な子よ」


 と仰られ涙を浮かべていた。


「私が側妃として王の機嫌を取り興味を引き続け、あなたは目立たないように穏やかに生きていけば良いとそう考えていたの」


 側妃様はアレン様を抱きしめ、何度も謝っていた。


 アレン様は、まだ時々人形の癖が抜けないのか、ぎこちなくこっくりと頷いた。

 アレン様のお母様は私が言うのもなんだけれど、明後日の方向に天然な人だ。


+++++


 そして、今日この日に私とアレン様の結婚式が行われる。


 婚約してから私が16歳になるのを待って、国の大聖堂で式を挙げた。

 赤い絨毯が引かれた荘厳な雰囲気の聖堂を進むと、アレン様が待ってくれている。


 私はお父様の手を離し、アレン様の差し出された手をとった。

 嬉しそうに微笑むアレン様は、白いタキシードを着て美しい人形のようだった。

 長めの銀髪は綺麗に撫で付けられ、その白い肌は艶々としている。

 緑のガラス玉のような目がスッと細められて愛しそうに私を見つめる。


「………愛してます」


 思わず小声でアレン様にそう告げると、アレン様は小さく頷いた。


「私もだ。愛している」


 人形のように美しく、もう人形のようではなく表情豊かなアレン様と微笑みあった。

 ・・・・・・・・・そう、私はずっとずっとアレン様を愛してるわ。

ポイント感想ブックマーク大変ありがとうございます。とても嬉しいです。

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