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真打ち

 集めた家財道具や妻と娘の遺品を質屋で換金し、娘が嫁入りする時のために密かに溜めていた金、その他手元にある有り金全てを持ち出し、イアンはルータスフラワーまで足を運んだ。

「マダム、シーヴァを今すぐにでも身請けしたいんだが」

 開口一番、イアンはマダムにそう告げると、金を入れた袋を机の上に叩きつけるように置く。

 マダムは袋の中身を覗き込んだのち、鼻で笑いながらイアンに投げ返してきた。

「イアンさん、これっぽっちでシーヴァを身請けしようだなんて、ふざけているのかい??」

「ふざけてなんかいません」

「この金額じゃ、まるで話にならないね」

「分かっています。だから……、何年かかるかは分かりませんが、足りない分を少しずつ支払っていく……と言う形で身請け金を払うのは駄目でしょうか??」

「何馬鹿な事言ってるんだい!駄目に決まってるだろう!!」

「必ず、全額払いますから!」

「駄目だよ!一括で払ってくれなきゃ。でないと、身請けなんかさせないよ!!」

「そこを何とか……」

「えぇいっ、しつこい!!ちょいと、ビル!ビルはいないかい!!」

 マダムの呼び出しを受けた用心棒が、イアンの胸倉を掴む。

「こいつを追っ払っておくれ!」

「マダム!まだ話は終わっ……」

「お客さん、悪ぃが今日は帰ってくれ。でないと痛い目みるぜ」

「くっ……!」

 男はイアンよりも背が低いものの屈強な体格をしているので、イアンを後ろから羽交い絞めにすると、いとも軽々と担ぎ上げる。

「おい、放せ!!放せよ!!」

 イアンは必死で抵抗するが、力では圧倒的に敵わない。

 あの中年男と同様に、このまま玄関から放り出されてしまうのか。

 ガタガタガタ、ズズズズズーー!ゴトンゴトン!ゴゴゴゴゴゴーーーー!!

 突如、二階から激しい物音が聞こえてきた。かと思うとーー。

 ガタンガタンガタン!!ガタガタガターーン!!

 今度は階段から、けたたましい音を立てて何かが転がり落ちてきたのだ。

 一階、二階と場所は問わず、店に残っていた娼婦達は元より、マダムやイアンを追い出そうとしていた用心棒の動きも止まり、音の正体を探ろうと皆が一斉に階段付近に集まった。

「ミランダ!!お前、何をやっているんだいっ!!」

 階段の一番下には大きな黒いトランクが落ちていた。その傍にはミランダが店中の人々からの奇異の視線を一切ものともせず、一、二、二、五とダイヤルを回し、トランクの蓋を開けようとしているところだった。

「マダム、イアンさんにシーヴァを渡せないなら、私にシーヴァを頂戴」

「お前、何を言い出すかと思ったら……。娼婦が娼婦を身請けするなんて、そんな馬鹿な話があるかい!!」

「この金額を目にしても、そう言えるかしら」

 ミランダは、ニヤリと妖しくも不敵な笑顔を浮かべると、トランクの中から札束を乱雑な動きで床に放り出していく。一つ、二つ、五つ、八つ……、床に投げ出された札束はどんどん増えて行き、一つの山を形作っていった。集まった周りの人々は、どんどん頂が高くなっていく様子を呆然と眺める。

 最終的に、札束の数は五十をゆうに超えていた。

「これでも、私にシーヴァを売ってくれないと言うの??」

 腰を抜かしているマダムを見下ろす形でミランダが問う。

「……そ、それは……」

「多分、これ以上の金額を払ってくれる人は後にも先にも現れないと思うけど」

 マダムは、札束の山を見てごくりと唾を飲み込む、

「わ、わかったよ……。ミランダ、お前さんにシーヴァを売る」

娼婦が娼婦を身請けするーー、前代未聞の事態に人々は呆気に取られ、混乱に陥った。

 そんな騒ぎもどこ吹く風、と言わんばかりに、ミランダはいつものように表情を変えず、二階の自室へ戻ろうと階段を昇っていった。

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