馬鹿王子3
3話目。
戦場、というのは、もちろん敵味方に分かれて戦う場所である。敵と味方、わかりやすく勢力に線引きがされ、お互いがお互いを憎みあう。
「アールヴ、こいつはまだ死なん、後回しだ」
「ローラ、そういう場合は軽傷というんです」
一心不乱に怪我人にとりつく王子。もう一度言いたいが、ここは戦場である。医療行為を全くしないわけではないが、それが主になる場所ではない。
――――――――それにしても。
「アールヴ、こいつはやばいぞ!!すぐに手術をしなければ!!」
「ローラ、手術をして生存率はどのくらいです?というか、それは敵兵です」
嬉々とした表情で手術にとりかかる王子。もう一度言うがここは戦場である。戦のまっただ中で、手術をする馬鹿はいない。普通は。しかも敵兵だし。
そして、普通じゃないのが森の民。飛んでくる矢やナイフを見ないで鞭で一閃。叩き落としていく。隙あらばと背後から近づく敵兵も同じ。正面から堂々とくる敵兵には、鉈のようなもので応戦。淡々としているだけに、恐ろしい。しっかり王子を守っている。
そして、もう一人、普通じゃないやつがいる。
「我が国を脅かすものに、俺は容赦はしない」
右手に大剣。左手には小ぶりの斧。陽炎のように殺気が体から発せられているように見えるのは、目の錯覚だと思いたい。敵兵は、既にその姿に恐怖している。
「で、出た。戦狂いの狂王子!!」
「血塗られた王子!!」
「残虐の鬼王子!!」
不名誉きわまりない浮き名に、思わずぴくりと眉が動く。ついで、引く弦に力がこもるのは仕方の無いことだろう。
「相変わらずの腕だな」
「・・・・お褒めにあずかり、光栄です」
第2王子が前線に出てしまったため、指揮官として第1王子が後衛についた。と、いっても、普通は後衛も後衛、テントが張ってある拠点で指揮をとるのだが、この王子は違う。剣を片手に、戦場に立ちながら指揮をとる。戦う指揮官なのだ。
その横で、私は弓を引く。主の助けとなるよう、敵兵の肩や足を射貫いていく。そのすきに、主がとどめをさしていく。
――――――人が死ぬのだろう?
ローランド王子の言葉は本当に痛かった。戦場を知らぬボンボンが何を言うか。そう言えれば、楽かも知れない。不敬罪で私の首も飛ぶが。
その一瞬、いやな気配に体が動いた。
敵兵に紛れるように何かが居る。
直感だった。足が動いたのは、無意識。主めがけて走る。
―――――――間に合うか!!
視線の端に、きらりと光る何か。主はそれに背を向けている。
「ラファエル!!」
私の姿に気づいた兄。その声に、主も振り返る。
その瞳が大きく開かれるのが、とてもゆっくり感じた。
「エル?」
間に合え!!
光とを結ぶ、直線。それを断ち切るように自分の体を割り込ませる。
振り返る主の腕の中に飛び込むように、私は体を投げ出す。
そして――――――――。
高い金属音が響いた―――――――――――。
もう完結しているので、毎日更新していきます。