馬鹿王子2
2話目。
結局、来ました戦地へ。
「ほう、北はやはり寒いのだな」
当たり前だ。元々ランド王国は大陸の北にあるが、王都は国土の南に位置する。比較的あたたかい土地なのだ。
「ラン兄、初陣の感想はどうだ!!使命感に燃えるだろ!!」
「うむ、ここまでの道のりの長さ、兵士たちの負担を考えると、戦など無駄だな」
当たり前だ(2回目)戦など、しないにこしたことはないだろう。
銀髪をなびかせ、毛皮のコートを纏い、マフラーを巻き、手袋をして立つ総大将。絵にならない。
「まあ、いつもの小競り合いだ。数日でお互いが引いて終わりだろう」
「そうですね」
副団長をしている兄、ミカエルの言葉に同感である。
我が国の北に位置するノーシュラ帝国とは、はじめの原因が分からなくなるほど長くいがみ合っている。緊張が緩みそうな所で、小競り合いを起こし、お互いがいがみ合っていることを思い出させてくれるのだ。
「いつもの小競り合い。だが、人は死ぬのだろう?」
「・・・・それは、そうですが」
小さなものとはいえ、戦は戦だ。お互いが無傷で終わるはずはない。ローランド王子の言葉は、耳にいたい。
「ローランド、お前は何を知りに来たんだい?」
長兄、レオナルド王子の言葉に、みなの視線がローランド王子に集まる。と、いっても、我が主は戦にしか興味が無いのか、剣を握ったまま戦況を見つめている。
「人の死を。俺は、人の生死に疎いらしい。そうだろ、アールヴ?」
「・・・まあ、そうですね」
「「!!!」」
ローランド王子の影から聞こえてきた声に、私と兄はとっさに構える。投剣を数本抜いたところで声の主が現れた。
「森の民!!」
私の言葉に、彼女ははっきりと顔を顰めてみせた。
森の民、大陸各地に点在する深い森に住む民。瞳か髪の色に必ず緑を宿しており、高い運動能力と危機察知能力をもつ。そして、とがった耳をもっているために、亜人として人々から恐れ、疎まれる存在。
森の民も、そんな人間を毛嫌いしているため、めったに森から出てこない。その姿を見る機会など、一生に一度も無いのが当たり前の存在である。
「先日、アールヴに言われたのだ。俺は人間として欠陥品だと」
「だから、そうじゃなくて・・・・」
「要約すれば、そういうことだ」
ローランド王子の言葉に、頭が痛いという感じで額を押さえる森の民。盛大につかれたため息と良い、あまりにも人間くさい行動に全員の動きが止まる。
「ローラ、とりあえず怪我人の治療をしたらどうです?知識を実践する良い機会では?」
「おお、そうだな!!城にある医学書は全部読破したのだ!!知識は十分だ、あとは実践だな!!」
キラキラ、と輝きだした瞳。その反対にどんよりと曇る森の民の瞳。ああ、どこも仕える者は苦労が絶えないのかも知れない。
「行くぞ、アールヴ!!怪我人が待っている!!」
「怪我人が待っているのは医者です。王子じゃありませんよ」
王子の後を、森の民が行く。
「おお、ラン兄もついに戦場にたつ決意をされたのだな!!エル、こうしちゃおれん!!俺も行ってくるぞ!!」
「・・・カイン様。あなたは護衛ですから、って聞いてないな。兄様」
「分かってる」
走り出した背には、おそらくなにも聞こえていないだろう――――――――。
楽しんでいただければ幸いです。