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「よくやった。いいコンビネーションだったな」


 花音と凛の依頼を担当した、オペレーターの藤代アスナはそう言って二人をねぎらった。クールビューテーな彼女にしては珍しく温かい微笑を湛えている。ボブカットの艶やかな黒髪と猫のようなシャープなつり目が印象的な藤代は、普段はもっと冷たい印象を与える人物だった。

 たった今花音と凛は撃退士としての依頼を完了させた。鮮やかといってもいい手並みだった。それを藤代は珍しく素直に褒めていた。


「初めの頃はハラハラするコンビだったのに、最近急激に力を付けてきたな。二人の相性もいいみたいだし」


「やっぱり一緒に生活してるから、互いの呼吸がわかってきたのかな」

「そうですわね。花音もわたくしを信頼して任せてくれるようになりましたし」


 二人の成長を温かく見守っていた藤代は、ふいに表情を強ばらせた。


「そうか……ん? ちょっと待て」


 藤代は表情を厳しくして、イヤホンから流れてくる音に集中した。


「わかった。すぐこちらで対処する。二人とものんびりしていられないようだ。またディアボロが出現して人々を襲っている。位置的にみて君達が一番近い。すぐに向かってくれ」


「「はい!」」


 花音と凛の声がハモる。二人の神経が張り詰められ、緊張感を帯びてくる。


「どれぐらいの規模の敵か未確認だ。深追いはするな。援軍が到着するまで持ちこたえればいい」


 藤代は特に花音の方をじっくり見て言った。二人の中では花音の方が突撃癖があって危険だったからだ。花音がその視線に反論しようとしたが、凛が袖を掴んで引き留めた。

 つべこべ言ってる暇も惜しい。花音は素直に引いて凛と二人、飛ぶように目的地に向かった。



 二人が目的地に到着した頃には、すでに結界が形成されて時間が経っていた。中にいた人々がわけもなく暴れ初め、危険な暴走地帯となっている。

 撃退士の力を使って結界の中に進入すると、適度な距離を保ったまま、二人は手分けして悪魔の姿を探した。


「花音! いましたわ」


 凛が指し示すそこには、コウモリのような羽をはやした、トカゲの魔物がいた。ディアボロだ。花音はすぐさま地を蹴って、左手の甲に光の盾を構えてぶつかりにいった。しかし相手は軽やかに空を飛び花音の体当たりをかわす。

 すぐさま凛も光を纏わせたナイフを投げるが、それもまた当たらなかった。


「手強いな」


 花音は素早い相手の動きに舌打ちをうつ。フェイントをかけたり、色々な角度から攻撃を仕掛けてみたりしたが、かするばかりであまりダメージを与えられていない。

 花音のイライラが募る中、近くで子供の泣き声が聞こえてきた。魂を抜かれ暴れ出した男が子供に向かって襲いかかっていたのだ。

 花音はすぐさまかけよって子供の体を攫う。そのまま安全な所まで連れ出して、子供にむかって笑顔で話しかけた。


「もう大丈夫だよ。僕が守るから」


 その時、泣き顔をしていた子供がいきなり凶悪な表情を浮かべ、花音の足にしがみついた。子供もまたディアボロ化していて悪魔に操られていたのだ。子供に足をとられ身動きが取れない状況で、先ほどのトカゲのディアボロが花音を襲った。


「花音!」


 凛の悲鳴が聞こえ、まずい! そう花音が思った刹那、黒い人影が視界を遮った。花音よりずっと背が高い、黒髪の男が花音の前に飛び出して、ディアボロの攻撃を食い止めた。


「お嬢さん。よくここを守った。後は僕に任せて」


 背中越しにかけられた言葉は、花音の古い記憶を強く揺さぶった。あの時よりもずっと背が高くて、声も低くて、髪も伸びてて、だけど……似ている。あの人に似ている気がする。

 男は二人を手こずらせたディアボロをあっさりと切り倒した。他にも撃退士が到着していたのか、みるまにゲートが消え、結界もとかれた。

 花音はその変化を座ったまま、ただ呆然と眺めていた。花音を助けた男は振り向いて花音を見下ろし、手を差し出した。


「大丈夫かな? お嬢さん」


 アメジスト色した美しい瞳がきらめいている。大人の男の色気を漂わせながら、麗しいといえるほどの美貌がそこにあった。花音は差し出された大きな手に手を重ねただけで、胸の鼓動が高鳴るのを感じる。

 男は花音の体をゆっくりと引き上げて悠然と微笑んでいた。


「あ、あの。お名前は……」

「ミシェル・ロイドだ」


 花音はその簡潔な言葉さえも甘美なものであるかのように、うっとりと聞いて、何度も口の中で繰り返し名前をよんだ。ミシェル・ロイド、ミシェル・ロイド……まるで呪文のように繰り返す。

 その花音の様子はいつもの少年らしい凛々しさなどみじんもなく、ただただ恋する乙女のように甘くとろけるような表情だった。

 凛はそんな女の匂いを漂わせ始めた花音の姿を、離れた所から冷たく見つめていた。その凛の暗い表情に花音が気づくことはなかった。

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