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「初等部からの進級組もいるとは思いますが、まだ撃退士として天魔と戦った経験の無い者は手を挙げてください」


 担任のクリストファー・L・神崎がそう言うと、花音を含むクラスの生徒何人かが手を挙げた。神崎は亜麻色の髪をゆるく結んで、サファイア色の瞳を細めて生徒達を見ていた。


「近くでサーヴァントの目撃情報があったので、放課後に引率付きで撃退士訓練の課外授業を行います。希望者はいますか? できればまだ戦闘経験の無い人を優先します」


「はい! 僕行きたいです!」


 花音は真っ先に立ち上がって、元気いっぱいに返事した。そして窓際まで走って凛の手をとった。


「凛も一緒に行こう」

「え……。あの、その。私戦闘経験ありますがいいのでしょうか……?」


「斉さんもそれほど多くはないでしょうからいいでしょう。他にもいますか?」


 神崎は男性にしては柔らかな口調で生徒に問いかける。何人かがぱらぱらと手を挙げた。


「それでは参加する人は、放課後この教室に残って下さいね。武器・防具も忘れずに持ってくること。以上です」


 花音は戦いに行くのだというのに、まるで遠足の前の子供のようにはしゃいでいた。


「凛。君は僕が守るから安心してついてきて」

「ありがとう。花音。でも私も撃退士だから大丈夫ですわ」


 そう言っても花音から見れば、凛はあまりに華奢で儚げでか弱い存在だった。やっぱり僕が守らなきゃと強い決意を心に秘めたのだった。



 そして放課後。サーヴァントが目撃されたエリアで、そう時間もかからず敵と出くわした。狼の形をしたサーヴァントを目撃し、すぐに花音達数名の生徒は臨戦態勢に入った。

 しかし戦闘経験の浅い者達ばかりで手こずっている。教師の神崎はまだ彼らの腕に任せて見守るだけだ。


「花音。私の射程に入ってますわ。一度引いてくださいなの」


 先ほどから凛は、後方からナイフを投げようと機会を狙っていたが、前衛の花音に阻まれ投げることが出来なかった。


「大丈夫。僕が倒すから、凛は見てて」

「でも……」


 花音は久遠ヶ原学園に来る前から、ずっと剣道を習っていた。だがそれは両手で剣を持って戦う型であり、盾を持つ事に慣れていなかった。だから花音の剣の動きも盾の使い方もどこかぎこちなく上手くかみ合わない。

 狼の頭が花音の盾にぶつかる。まともにぶつかられて受け止めきれず、横に受け流す形になった。いけない! ここで横に逃げられたら回り込まれて後方の凛が危険になる。

 花音はとっさにそう思って横に飛んだ。一歩の跳躍で狼の目の前までやってきた花音は、背中に鈍い傷みを感じた!


「うっ!」


 予想外の傷みに花音はわずかに意識を失った。


「花音! ごめんなさい。大丈夫?」


 気がつけば目の前に凛がいて、他の生徒達が敵にとどめを刺すところだった。どうやら凛が敵に向かって投げたナイフに、自分から飛び込んで当たってしまったようだ。

 凛は今にも泣きそうなほど目を潤ませながら、何度も謝っていた。


「凛が悪いんじゃない……」

「そうだな。今のは後方の支援を信じずに前に出すぎた響の責任だ。しかし斉も投げる前に声をかけるなど、コンビとしての戦いかたを覚える事」


 いつのまにか神崎が花音の側まできて、怪我の具合を確認していた。簡単な手当を済ませて他の生徒の状態も確認する。


「一番の重症は響ですか。まあこれも休めば回復するでしょう。斉、今日は響を送ってあげなさい」

「はい。わかりました」


 凛は花音を支えようとするが、身長差がありすぎて、まるで支えになっていなかった。


「凛。無理しなくても、側に付き添ってくれるだけでいいから」

「そうですわね。わたくしは身長低すぎますわね。本当に役立たずで……」


 身長が低い事と今日の怪我の事を大分気にしているようで、凛はひどく落ち込んでいた。いつも優等生で問題などおこさない凛だから、よけいに落ち込んでいるようだ。


「そんな事ないよ。凛がいてくれるだけで、僕も頑張ろうと思えるし、勇気がでるんだ。怪我だって大したこと無いから」


 花音の言葉は底抜けに明るくて、元気で、中身が空っぽでも不思議と説得力があった。


「ありがとう。花音」


 ほんの少しだけ凛が微笑んだ。それが嬉しくて花音は思わず飛び跳ねる。すると背中の傷がずきっと痛んだ。思わず顔をしかめると、今度は凛がクスクスと笑った。


「無茶しすぎですわ。でも本当に元気みたいで良かった」

「凛が笑った! 僕それだけで嬉しいよ。だからもっと笑って」


 そんな事を言い合いながら、日も暮れた夜道を二人で歩いていた。二人が話している間にあっという間に花音の住む寮についた。


「ありがとう凛。なんか付き合わせちゃってごめんね」

「いいえ。楽しかったですわ。花音」


「凛の寮ってここから遠いの? 夜一人で大丈夫?」

「私の寮は……」


 凛がそう言いながら指さしたのは、ここから離れたところにある、かなりくたびれた建物の寮だった。


「え! あそこに? 女の子があんなに古い寮で大丈夫なの?」

「古い分家賃も安いし、それに昔の先輩が置いていった設備とかがあって、案外居心地いいですわよ」


「そうなんだ……」

「それにわたくし、ひっそりと人に気づかれずに行動するの得意ですから、夜道も大丈夫ですわ」


 それはそれでいいのだろうか? と首を傾げたくなったが、花音はその事には触れずに別れを告げた。

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