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 花音は祈るような思いで待っていた、海原が真犯人を見つけ出してくれるのを、それがミシェルではない事を。だが時間が過ぎるばかりでなかなか答えは返ってこなかった。

 時は過ぎ、そろそろ梅雨の雨音が近づいてきた頃、衝撃的なニュースが花音の耳に届いた。


『またもや学園に悪魔襲撃か?』


 その見だしが一面に載った新聞を手にした瞬間、花音は膝をついて崩れ落ちた。悪魔に襲われ行方不明になった被害者は海原修三だった。


「僕のせいだ……」


 僕があんな事頼んだから、先輩は危ない橋を渡って、何か情報を掴んだ。そしてそれを真犯人に知られて殺された。

 授業も耳に入らず、ふさぎ込んだまま、寮に帰宅する。寮の入口についた時に、寮母の鞘野が花音に声をかけた。


「どうしたの? 暗い顔して」

「いえ……なんでもありません」


「そう? ならいいけど、郵便物が届いてたわよ」


 渡されたのはA4が入るぐらいの郵便パック。郵便物の宛名を見て花音はどきりとした。『海原修三』と書かれていた。先輩は僕に何かを託してくれていた。

 慌てて部屋に戻り郵便物を開封する。中からクリアファイルに入ったA4の書類の束が出てきた。

 悪魔襲撃事件の発生が5年前から起こっている事。過去5年の事件すべてを丹念に調べ上げられていた。そしてその頃に急激に対悪魔戦のみに勝率を伸ばした生徒の名と経歴が事細かに書かれていた。

 花音は思わず書類を取り落として、肩を振るわせた。信じたくない現実から目を背けるように両目を固くつむる。


「ミシェル・ロイド」


 背後から突きつけられた言葉にどきりとして花音は振り返る。凛が書類の束に目を通していた。


「まさかあの方が犯人だったなんて」

「違う。これは何かの間違いだ」


「花音がそう思うなら、好きになさったらいいわ。好きな人の事は庇いたいですものね」


 凛の言葉が突き刺さる。花音は自分の個人的な感情から、事実をねじ曲げて事件を闇に葬ろうとしていた。それは彼女の信条とは相反するものだった。

 正義の味方に憧れてたはずなのに、僕は、僕は、何をしようとしているんだ。

 花音は何度も何度も書類を見返し、一晩中悩み続けた。朝早く凛が目覚めた時、花音はまだ机に向かって書類を見ていた。


「花音……あなた、もしかして寝てないの?」


 花音は凛の問いに返事はしなかった。座ったまま、ただ顔を上げて凛の方をまっすぐにむいて言った。


「決めたよ凛。僕は告発する。例えミシェル先輩でも、間違った事をしたなら裁かれなきゃいけないんだ」


 凛は悲壮な覚悟を決めた花音の頭をかき抱き、まるで幼子をあやすようにゆっくりと撫でた。


「強いですわね。花音。あなたは立派だわ」


 凛の優しい言葉に、緊張の糸が切れたように花音の目から涙がこぼれ始める。そのまま花音は凛の胸で泣いた。それは初めて味わった恋の終わりの、苦い涙の味だった。



 放課後に花音は職員室に向かった。自分が今からする事がミシェル先輩を追い詰める。その事にまだ心を痛めながら、重い足取りを進めていた。誰に相談したらいいか? そう思い悩みながら職員室の扉を開ける。

 職員室の中でまっさきに花音の存在に気づいたのは、ミセス・イライザだった。


「あら、響さんが自分から職員室に来るなんて珍しいです事。それともまた何か問題をおこして呼び出されましたの?」

「いいえ。今日は相談したい事があってきたんです」


「わたくしが話を聞きましょう。他の先生方の手をわずらわせてはいけませんからね」


 正直花音はミセス・イライザが苦手だったので、困ったと思ったが断る事は出来そうになかった。

 そのまま職員室内の談話スペースに移動し、花音は正直にすべてを話した。特にミシェルの事を話すのはとても勇気の必要な事だったが、なんとかすべて話しきった。しかしすべてを話してミセス・イライザから帰ってきたのは、冷たい言葉だった。


「何を言うかと思ったら、馬鹿馬鹿しい。優等生のミシェル・ロイド君がそのような事をするはずがありません。自分の思い込みの激しさで、他人を貶めるなんて恥を知りなさい」

「でも、先生、ここに証拠が……」


 そう言って花音は鞄から、海原に託された書類を取り出そうとした。しかしいくら探しても見つからない。そんなばかな。確かに今日部屋を出る時に中に入れたはずなのに……。


「証拠もないのに人を犯人扱いなど、言語道断。それ以上何か言うなら、処分も考えますよ」

「待って下さい。証拠はあったはずなんです。探して持ってきますから……」


「いいですか。もしそんな根も葉もない与太話を他にも言いふらしたりしたら、本当に処分ものですからね。もうその話は終わりです」


 ミセス・イライザはただでさえ甲高い声を、より響かせて、耳が痛いぐらいの音量で花音を説教した。しかしその言葉はすべて花音の耳には入って来なかった。

 消えた証拠がどこに行ってしまったのか? 花音は今それだけを必至に考えていた。

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