7 私のモノになってしまえばいい
人間の国を1つ滅ぼした辺りからイチヤは私を頼ってくれるようになった。主に力の加減だが、あまり私が相手では意味をなさないということは黙殺した。
しばらくすると魔族が集まりイチヤは前の罪悪感からか住むことは容認した。
前よりも人間に襲撃に遭うようになり私はイチヤの為に排除をする。縋られるのは悪くないがあんな真っ青な顔は見たくはない。
「大丈夫か、イチヤ」
沢山の書類に囲まれているイチヤは魔王として頑張っている。私も姿を現せば良いのだろうが生きた者に見られるというのはあまり心地良くはない。
それは死を司る私だからこそなのかも知れぬが見られるということには慣れていない。
「うん、まあ…手伝って貰ってゴメンナサイ」
半分抜け殻のようにへばる姿も愛らしく思わず口元が弛む。
まだ若くあまりこういった経験などするはずないだろうにイチヤは良く頑張る。
「気にするな」
私は好きでやっているのだ。イチヤに気遣うことは私は少ないだろうから、私はこういった事しか出来ぬ。
長く生きながらえていた分に私は知識は持っている。
「…人間を撃退してるの、お前だろ」
ポツリとそう言ったイチヤは真っ直ぐと私を射抜く。色々な感情が入り混じり複雑な色をした何ともいえない瞳。
「僕を憐れんでか?」
あざ笑うように笑う。はっきりと表れた不安に揺れるような、怒りに揺れるような瞳。
「気遣ってるのは僕にだってわかる。肉はずっと食べれなかったし、正直僕以外の人間は恐ろしい。魔族だっていつ僕が人間だと気づくか分からない」
だが、イチヤは後悔はしていない。
「間違ったことはしたくない。でも、きっと護られてぬくぬくするより、護られないくらいに僕は強くなりたい」
イチヤは私に護られるべき人間だ。人の心は酷く臆病で脆く壊れやすい。
「あまり頼りすぎちゃいけないんだ」
「イチヤ」
「これからは止めてくれ。僕だって出来るから、それに僕だけ手を汚さないなんて、嫌なんだ」
美しいままでいて欲しい。
出来るなら、醜いモノに触れて壊れないように、世界の不条理を出来るだけ知らずに、人の死を嘆かないようにしたい。
私以外に心を砕かないように。
「そ、それに」
不意に目を逸らし頬を染めたイチヤはもごもごと口を動かす。
「その、ね。あー」
「なんだ?」
みるみると血を被ったかのように真っ赤に染まった。
「お前に守られてばっかだと、なんか、あー、くそっ」
自棄になったのかキッと私を鋭く睨み付けてズカズカと此方にやってくる。
「僕もお前を守りたいんだよ、馬鹿!」
精一杯に私を見上げる姿は想像以上に愛らしく見えて、気を引き締めなければだらしなく筋肉が弛んでいた。
膝を付き目線を合わせればイチヤはうーうーと唸りながら唇を噛み締めて眉間に皺を寄せる。
不意に皺がとれてゆっくりと顔が近づく。
「イチヤ」
目を閉じたわけではないが真っ暗になり、意識が浮上する。
「おい、起きろ」
「ん…イチヤ?」
不機嫌なのか眉間に皺が寄っている。
「1人だけ寝るなよ。僕がどれだけ大変な思いで…って何すんだ!」
ガスっと頭を殴られた。
夢だったか。ああ、あんなに脚色された夢を見るなど欲求不満か?
今度、寝込みを襲ってみるか。
「お前、今、碌なこと考えてないだろ!」
イチヤは過去を振り返らない。だが、決して忘れたりはしない。
「愛してるが故だ」
早く私のモノになってしまえばいいのだ。
こんなにも私を狂わせておいて、そなたは狡い人だ。