4 私の心を盗んだそなたが悪い
私は何者にも興味がなかった。
神が代替わりしようと、誰が堕天使になろうと、世界がどう変わろうと、私には何の意味もなさない。
否、なさなかった。
「私を愛して欲しいなど」
一度となり思ったことなどなかった。
見て欲しいなど、愛して欲しいなど、そんな欲は持ち合わせてなどいなかったはずだった。
「あの姿を愛してなどくれまい?」
「僕は」
その声も仕草も顔も引き吊る筋肉も、私は何もかもが愛おしい。同じ声の主を見つけて囀りを聞いても気分が悪くなるだけ。
「私は考えた。なら、遥か昔に私が形ある時の姿にと考えた」
それでイチヤに近付けると僅かながらに抱いたが、そう言う問題ではないと考えた。
「そなたに愛されたいと思った瞬間から私は達観することも傍観することもしなくなったのだ。私はただただ」
そう、ただただ。
「願った」
私を見ろ、聴け、触れろ。
「また私を認識して欲しかった」
私を見る者は少なからずいた。
だが、興味も持たず私はただ通り過ぎる。
「声を聴き、微笑んで欲しいと願った」
ただ一度の奇跡。
「私はイチヤを。市夜、を、愛してしまった」
もう戻れない。
「手に入れるまで、私は諦めない」
「…どうして」
「そなたは自分の価値を知るべきだ。不思議には思わなかったか、自分がどれほど危険な目にあったか、覚えていないか?」
幼すぎれば形は崩れる。
「寿命が来るまで私は待ちたかった。輪廻の輪に還ることも出来ないほど疲弊させるはずだった」
「えっ…」
「本来ならもっと早く市夜は死に、輪廻の輪に入り休むはずだった。私は市夜の死を刈り続けた」
死なせる筈がなかった。
「私はこのようなことが起きなかったら。私は」
人間として市夜を生かすことはしなかった、その言葉を聞いてか、これまでの話を聞いてか市夜は酷く困惑し、そして怒り狂ったように私に掴み掛かってきた。
「…なんだよ、それ。何なんだよー!」
瞳から零れる大粒の涙。
綺麗だと、神聖ささえ思わせるのは相手が市夜だからだ。
私が心を惹かれるのは市夜だけだ。
「なんで、僕が…」
惹かれた。
私を見ることも出来ない、小さな子。
私の声だけ聴いた哀れな子。
「そなたが私を惑わせた」
「…そんなっ」
「幼い頃だ。些細なことでもう忘れてしまったかも知れないが」
「僕が何したってんだよ。お前みたいな骸骨とか美形なんて欠片も見たことないぞ!」
どういう認識をしているのだ。
「私を見れなかったのだ。声を聴いただろう?」
「はぁ、声?」
「私に話しかけただろう」
こんなにも忘れられていると流石の私も傷つくのだが。