1 もう本当にゴメンナサイ
僕の名前を言っていなかった。
僕は溝端市夜なんて言うんだけど、多分こっちじゃ珍しい名前なんだろうな。
現実逃避をしたいけど出来ない。
僕は黒髪に黒目、黄色の肌、のっぺりな顔。可もなく不可もない標準的な体系で顔つきだ。ちょっと童顔。
まさに以前のままと言いたいが僕はこんなにちびっ子じゃないし、こんなデタラメじゃなかった。
力加減が出来なくてパキッとボキと破壊に破壊しまくり、魔物はやはり僕を襲う。大した知能がないらしく、きっと魔族がいるからそっちなんだろう。数が少なく人間に迫害されているそうだ。
僕も人間だし魔族にはきっと良く思われないだろうな。決して僕は人間を辞めたわけではないから。
間違っても化け物や怪物ではない。ちょっと力も強くて色々アレなだけだからね。勘違いしないでよね。
「何をしている、イチヤ」
「現実逃避を少々嗜んでます」
無駄に美声の死神だ。いや、今は骸骨ではない。真っ白な染み一つない肌にやっぱり真っ白な綺麗に輝く髪、銀に輝く瞳を縁取る長い睫が肌に影が落ちている。一言で表すならすごい色気がにじみ出ていて目に毒だ。
首根っこ掴んで僕を持ち上げた。死んでいたにも関わらず窒息死するのではないかと思えるくらいに苦しかった。ちょっとした恐怖の対象だが見た目がアレな分で和らいでいるような増したような。
「馬鹿なことをしている」
「僕が世界を不幸に」
いや、多分きっと首根っこを捕まれてなきゃこんなことにはならなかった。というか、普通の人生を用意してくれないかな?
なんでこんな非凡な人生を送らないといけないのだろうかと常々と思う。近頃は魔王の噂で賑わっている。
「イチヤ、貴様はどう足掻いても逃れようはないのだ」
諦めろ、と盛大に色気ある美声がのたまう。ニヤリと不適な笑みが最高に似合っているし様になる。もう流石に綺麗なだけはある。
きっと僕はまた恋人が出来ずに勇者に殺されるんだ。だって悪の末路なんて決まったようなものじゃないか。いくら、チートだからってそうは問屋が卸さないはずだ。
さらなるチートが来るに違いない。あの神様ならどうせまたミスるに違いない。ラッキーガール、またはラッキーボーイがなだれ込むに違いない。
ちょっとした手違いで国一つ滅ぼしてその跡地に住んでいる僕が言うのは何だが、本当にゴメンナサイ。
いや、もう生贄とかいらないからね。
人間の生娘とか捧げたり、犯罪亜人の離し場じゃないんだからね。もう、色々と大変なんだよ、本当に。
魔族の方々が集まるし、もうどうしろってさ?
慕われても困るし、僕は人間だからね。化けてる訳でもないんだよ。
本当に騒動起こしてゴメンナサイ。
全部僕のせいです。