12 私の手を掴みさえすればいい
愛している。
イチヤを、市夜を愛している。
あの瞬間に生を受けたと言ってもいい。
私は初めて死を少し恐ろしいと思ったのだ。
市夜が死に、また生を受けても、それは市夜ではない。
魂が一緒なだけで様々なことが変わり果てていく。
だから、市夜を死なせたくはなかった。
私が愛したが故に、市夜は本当に死を失ったようなモノだ。
新たな生ではない。
一生、市夜として生き続ける。
死は等しくやってくるが、市夜の死の概念は私によって狂わされていた。
長く生きて、魂の強化を。
幼い魂は脆くて壊れやすい。
だからこそ、市夜は生きなければならなかった。
だから疲弊させてでも強くしなければならない。耐性をつけなければならなかった。
「あっ…ねぇ死神、これ意味わかんないんだけど、どういうことかな?」
魔族の為に働くことは気に食わないが、そうすることで私は市夜に頼られ必要とされる。
それは酷く甘美だ。
「どれだ」
市夜には私の他などいらない。
必要などない。だが、市夜には必要だ。
いなければならない。私以外の生き物がいなければ市夜は落ち着かないだろう。
人間である市夜は平凡で平和な世界で生きていた。当然だが人を殺すことは禁じられているのだ。やってはいけないと知っている。
ここでは人を殺してはいけないなどと決められてはいない。人が道端で死んでいても人は騒がない。
生きていくのに精一杯なのだ。他人の世話までしようとするのは偽善者くらいだろう。
精神面が弱い。幼い。
この世界では生きていくには稚拙すぎる。
不確かな市夜には私が必要で、また他の生き物も生きていることも必要なのだ。全てが死んでいないという事実、まだ何かをしてやれるという事実。
力の加減すら必要ない私は唯一のゆとりであるだろうし、魔族は罪悪感からくる贖罪。
最後に私の手を掴むのならそれでいい。
今は必要なのだ。乗り越えるまで待てばいい。
市夜は私の手を掴むことしかできないのだから。
最後には必ず私の手を取る。