10 何を想いそなたはいるのか
わからない。
イチヤが何を考えているのか。
私は愛している。
だからこそ、私にはわからない。
「ちょっといいかな」
酷いことを言ったという自覚は私にだってある。酷いこともしたと私はわかっている。
わかっていたが、私は自分を止められなかった。否、止めなかった。
自制などしてなどやらない。私は初めて願ったものを何としてもこの手に、私の手中に収めるべきだと考えた。
欲を抱いた。
「全然、これがわかんないんだけどさ」
普段通りだ。
あの告白から何かを吹っ切れたような雰囲気を持つようになったイチヤはとても上機嫌でいることも多く。
「サラサラだよな」
などとイチヤから私に触れるようになったのだが、これはそんな思うほどに甘くなどないのだ。
「イチヤ」
「何?」
恋人のような触れ合いなどというよりも、まるで気の知れた友に近い。
イチヤと離れているときは出来るだけの情報をかき集めている。私としてはあのまま気まずくならずによかったが、これではあんまりだ。
一番初めに接触した魔族に話をしてまたみたのだが、アレはなかなか言う。
忠誠心も厚くなかなか利口で私のイチヤに色目も使わず、私に必要以上に恐縮せずものを言う生き物は少ない。
「なんでもない。それよりこれだが」
色気ない話になってしまう。
嫌っていないと断言したあの魔族はイチヤが私を必要として大切にしているとも言った。
そう言う根拠が私にはわからないが、そう見えているのか。
「そっか、ありがとう」
選択肢を与える気のない私を必要とするのは何故か、大切にするのは何故か。
支えなどという言葉は違う気がする。
憎まれていないが、愛されてもいない?
人間は繕うのが上手い。
イチヤは何を考えているかわからない。まったく私にはわからない。
心を詠めないわけではないが、私はそうしたくない。
「いつも思うんだけど、顔に穴開きそうなほど僕を凝視するの止めてくんないかな」
かすかに頬を赤らめて私に苦い顔を浮かべるイチヤは前よりも私に気さくだ。
「ああ、すまない。だが、私はイチヤをいつまでも見つめていたいのだ」
明らかに後退るイチヤの顔は引き吊っている。これは完全に引かれているのではないだろうか。
「気持ち悪いことサラッと言うなよ」
私もそこまで言われると傷つくぞ?
一つため息を吐いたイチヤは苦笑いをしながら優しく言った。
「取りあえず見るなとは言わないんだけど、自重してくんない」
嫌われてはいない。
だが、好かれている自信がない。
「ああ、努力する」
そなたの心がわからない。
いつか、話してくれるだろうか。私をどう思っているかを、話してくれないだろうか。
そんな日が来るときにわかるはずだ。
そなたが何を考え、何を思っていたか。