9 非力で馬鹿な女だと思った
少しひんやりとした手だ。
でも、人間味皆無な魔族だからかと思う。やはり、何かで体温も異なるのかもなどと考えてみる。
同じひんやりとした手を持つ死神とはまた違った感覚が肌に走る。
「どうして、わたしじゃないのっ」
首にそっと這わせられた両の手がギリギリと自分の手を痛めていく。
「なんで」
呪詛のように繰り返される。
「どうして」
嫉妬。
狂気を孕んだ瞳は爬虫類のような目で、周りにまるで遊びで足された鱗が散らばっている。
まじまじと見たことがなかった魔族はまるで、人間のなり損ないに僕は見えてしまった。
「わたし、わたし」
僕だって四六時中あの死神といるわけではない。というより僕が駄々っ子のようにごねり倒して得た自由時間。
こんな出来事を知られたらそれこそ僕に張り付いて離れなくなるだろうから、それだけは回避したい。
かなりの美人に、美女に首を締められながら考え倦ねる僕はやはりもう人間とはいえない。
「わたしのほうがっ」
ただ相手に僕の体温を分け与えるだけの行為に思える。
「ぐえっ」
同じような感覚で相手の首に手を添えた。ひやりとした感覚に何かが鈍い音がゆっくりと鳴る。
「死んでないよな」
嫉妬だ。
どこか不愉快で、そして羨ましい。
息が出来ず蠢くモノが僕の手を引きはがそうと暴れ出すけど、痛くも痒くもない。
「嫌だな。こんなとこ見られたら怒られちゃうよ」
見方しだいで心中しているようにさっきは見えただろうな。今なら無理心中かな。
「柔らかいね」
本当に簡単に折れちゃうな。
今なら力が有り余ってるから折ってしまえる。
「ひ弱なくせに」
僕が言えたことじゃないが、それに僕だって人間の出来損ないみたいな者だ。
歴とした人間だったのに、結局は人間になれなかった人間。人間では許されない人間。
「ゴメンナサイ」
謝るしか出来ない。
僕は魔族の救世主じゃないし、人間を絶滅させる殺戮者でもない。
少しだけ握っただけで死ぬ魔族も少し抵抗して死ぬ人間もあまり意味はないのかもしれないと諦めた。
アリと同じだ。
手を離したらドサッと重みで地に落ちる。慣れたくなかったが、僕も攻めてきたりする人間の対処はしていた。
「着替えようかな」
逃げ道はない。
僕に引かれたレールは最初からただ一つだけしかない。
あるはずがない。
それが苦しくて仕方がない。どうしようもなく悔しいような気がして嫌だ。
僕にしかわからない。
それは本当にちっぽけなプライド。