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遭遇それは幸運で

護衛二騎に緊張が走る。

即座に馬車と一団の間に割って入り、鞍から槍を引き抜き警戒態勢。

道を遮るように一塊になっているその一団は、長い流浪を思わせるボロボロの外套姿で統一された、とてもとても怪しげな集団だった。


「何者ですか?」

御者台の上からモノさんが一団に問う。

そこから動かないところを見るに、最悪の場合は轢き逃げアタックしてでも走り去る算段か。

ソロ活動で死にかけてた辺りといい、結構武闘派なのかもしれぬ。

モノさんの問いに、怪しげな一団の先頭にいた男が答える。


「助けて欲しい。 子供が魔物に襲われて大怪我をした」

どうか、この通り、と、目深にかぶっていたフードを取り払い、頭を下げつつ答えた男の顔を見るなり、護衛二人が驚きの声を上げた。


「魔族・・・」

「もう、こんなところまで・・・」


嫌な予感しかしないフリをありがとう。

最悪の気分だ。


「とまぁ、このままグダグダやってても気分悪い流れしか見えないのでサクっと状況を進めてみる」

自分は気軽に扉を開くと友人の格闘家の真似をして音もなく跳躍、着地。

あ、ちょっと・・・と制止するモノさんたちをガン無視して、一団へと近づいた。


「怪我した子供って、どこです?」

大怪我と言ってたね、時間が惜しい。

答えが返ってこず、もう面倒だから一団を「見る」。

集団の真ん中、守られるような布陣で・・・すぐさま消えそうな小さな気配が「目に止まった」。


「え、あ・・・?」

「はいはい、失礼しますよーっと」

先頭の男を華麗にスルーして一団を掻き分け。

集団の真ん中。

母親らしき人に抱えられた、ソレ。

どす黒く固まったボロ布を包帯替わりに巻きつけられた小さな小さな塊。

微かに、ほんの微かに呼吸しているように、見える。

赤子、といっても差し支えない幼子だった。


「間に合った。 よく頑張ったね」

<白銀癒手>。

必要以上の気合を入れた回復魔法が幼子を撫でるように包みこむ。

すると・・・なんという事でしょう。

弱々しかった呼吸は穏やかでしっかりした寝息に。

あからさまに足りなかった体の欠損部位も、瑞々しい肌の張りをもった、まっさら状態に再生したではありませんか。

そんな状況に驚きを隠し切れない周囲をよそに、ココで匠の粋な計らいが。


「あー、皆さんも結構、体傷んでますねぇ・・・」

スキャンがてらに気配視覚で体表をみた感じ、結構痛そうな方々が多い・・・<全究回復>。

光の雨が、流浪で削れた一団に降り注ぐ。

痛みを押し流す鮮やかな光雨に、一団は誰からともなく天を仰ぎ見る。

「神よ・・・」

あー、まぁ、偉大なる自由神様にでも祈るがいいさフハハハハー。

と言うところで、ミッションコンプリート! なんかくれ。


「では、これで失礼をば。 お大事に」

まだ呆然と、全快した幼子を抱きしめている母親的な人(不確定名)に笑顔で別れを告げ、行き掛けの駄賃に寝てる子供の頭を撫でて報酬とさせて頂く。

あー、間に合ってほんと良かったわさ。

助けられるガキンチョに死なれてたまるか、しかも目の前で。

自分は来た時同様に一団を掻き分け、先頭にいた<魔族>呼ばわりされてた男の人に軽く会釈して。


何事もなかったかのように、馬車の中へ。

あー、なんか喉乾いたー。


「おかえりー、どうだったー?」

流石痴ロリン、毛皮に横たわって我関せずで聞いてきよるわ・・・。


「んー、子供瀕死ー、助けたー。 大人も怪我人ばかりー、助けたー」

無限袋から売り物以外の安酒(要は失敗作的なもので、普段飲みなら充分な味だった)の一升瓶を取り出した。

そして栓を親指で弾いて引き抜くと、ラッパで三口程流しこむ。

っかー、んまー。


「た、隊長! 私も欲しいであります!」

やけに美味そうに見えたのか、痴ロリンが物欲しげにバクシーシバクシーシ騒ぎ出す。


「あっれ、飲んでもいいと思ってるの未成年?」

お酒は二十歳になってから。


「うっうー! ワ、ワタクシ何を隠そうコミケ前日に二十歳にっ・・・」

取ってつけたように自己申告してくるが・・・とても、疑わしい。

ちと聴き込んでみるとする。


「えー、んじゃ西暦何年生まれか即答せよー」


「○○○○年であります!」


「まだ18歳の計算じゃねぇか。 嘘つきには罰として一生BLに関われない呪いをプレゼント」


「げぇ、それだけは・・・それだけはご勘弁をお代官様」


「隊長なのか代官なのかはっきりさせろ」


「すいません」


「「ここまで、テンプレ」」


漫才してしまった。

エリスも満足気に、かいてもいない汗を拭う仕草をする。

しゃーない、別に自分も二十歳前にはゴニョゴニョー、だったし。


「ミンナニハ、ナイショダヨ」

たまには甘やかしてやろう、と、袋から取出しますは。

ストック数、10本の最上級。

過去オークションで200白銀貨を叩き出した一品(ちなみに、飲めば能力値が上がる等のデマが流れてた時期での過剰熱を帯びた結果だったので通常だったらケタ一つ低かった)、称して<神話級>。


「わーいわーい、メリっさんゴチになりまー・・・・うっまぁ」

ハイテンション維持は、一口飲むまでだったようで。

素にかえった口調で呟いたあとは、ただ黙々と、ちびちびと、飲み進めている。

・・・いい舌してんなー、よく味わってお飲みー。

真剣に<神話級>を味わうエリスの希少な真顔を肴がわりに眺めつつ、自分は安酒を思うさま腹に流し込んだ。

いやぁ、仕事の後の一杯は格別じゃぁ~旨すぎて小便チビリそうじゃぁ。

もう今日はこのまま終わりでいいよね、おやすみ・・・。


コンコンコン、ガチャ。


「あの、その、ひとまず宜しいでしょうか・・・?」

困った顔でモノさんが馬車の扉を開け放った。

背後には魔族呼ばわりされていた一団の代表格っぽかった男性も控えていて。

更にその後ろには、状況理解が追いつかぬ体の騎士二人。


「こちらの方が、せめて礼と・・・出来ればお名前を、と」

毒気を抜かれたモノさんが、魔族男性をズズッと前へ押し出す。

あっれ、自分酒飲んでるから絡まれるとでも思ったんかな。

ひとまず一升瓶片手に首だけ動かして様子を伺う。

この時の自分、若干目が据わっていたのかもしれず。

外の客人衆が怯えた気配を出した気もしたが。


・・・うん、堅苦しいのも面倒なのも、省こう。


「夜も近いし、野営準備しちゃいましょう」

さ、動ける人は手伝ってー、と、真面目に飲んでるエリスを馬車内に放置して表に出た。




開け開けよ無限袋、溜め込んだ物を出してみせいー、と、若干酔っぱらいモードでシャランラしてみんとす。

生産系の素材は地味に備蓄があるでよー、とばかりに、簡易・詳細の両生産もあわせてハッチャケてしまった。

結果、家、とは行かないまでも風雨を弾く全面形大型テントが完成した・・・頑張りました。

・・・レシピに落としておこう。


「もう訳がわからないよ」

モノさんがQBって頭を抱えてしゃがみ込み。


「・・・・」

目をぱちくりさせて言葉もない様子の魔族な人に、ひとまず皆呼んでおいで、と促し。


「ご馳走様でした隊長。 私に出来ることがあればご命令を」

<神話級>を飲み干したのか、馬車から出てきて、いつになく凛々しい様子で聞いてくるエリスに、夕食準備や一団の女性や子供の取りまとめ他、幾つかの指示を出し。


・・・ちなみに翌日「昨日はご苦労様、真面目になるとカッコいいね」と言ったら「え?」と返答が帰ってきた所を見ると、この時純粋に記憶なくなるくらいに酔った状態で軍人ロールプレイしてた模様。

閑話休題。


「さて、では楽しい楽しいキャンプの始まりですよー?」

林間学校の引率気分を楽しみながら、ひとまず場をカオスにしてみた。




魔族、と言う種族が現れたのは、年代も定かでない大いなる過去の話、なのだとか。

大昔、天使と悪魔の争いがあり。

地上に地獄へ続く大穴が開き。

悪魔と共に這いでてきた種族を指して<魔族>とした、らしい。

で、外見的には人と悪魔を足して、悪魔っぽさを薄くした感じなのが彼ら、と言う印象。

肌が若干黒めで、額あたりに角っぽい突起があるかなー? くらいがその外観。

身体頑健にして異貌をもち、古代の言葉を操り・・・人を喰う、とされている、らしい。


「で、そこら辺どうなんですかい、本当?」

ひとまず安酒を樽単位で開放して皆に配り、酒盛りしつつ、魔族の代表的な人である所のお名前テトラさんに聞いてみる。


「いえ、基本的に我々は人間と大差はありません・・・人も食べません。 地獄・・・いわゆる古代文明時代の地表に取り残され、悪魔兵器の雑兵を喰らって生き延びたのが我らの祖先だ、と代々伝わっています」

テトラさんは一息に言うと、丼に注いだ安酒をカパッと煽った。

いい飲みっぷりすぎる。


「どこかで聞いた記憶がある話になってまいりましたデジャヴ。 ってか、テトラさん達って<悪魔喰い>の子孫だったんだねぇ」

きゅきゅーっとマイ一升瓶の中身を減らしつつ、昔のゲームを思い出す。

一目見てスルー決定した、いわゆる<希望>シリーズクエスト。

ぶっちゃけると古代文明を滅ぼした天使と悪魔の抗争系歴史発見クエストだった訳なんだが、流れ的に天使に味方して悪魔と戦い、本拠地の地獄へ侵攻し・・・な流れとなったときに<悪魔喰い>という新種族開放がなされたわけだが。

歴史的背景はまんまテトラさんが語った通り。

で、種族性能は身体的能力が高く、外見が悪魔寄りってだけ。

・・・ああ、魔族と呼ばれればそうかなぁ、という外見ではある。

確かあの時は、えーっとなんて名前だっけ。


「あーっと、えーっと、ボイドじゃなくてレイじゃなくてー・・・ヌル、か」

NULL、だっけかね<悪魔喰い>を纏めてた人にして、新種族開放クエストくれた人。

そんなことを口にした途端、テトラさんが驚きの声を上げたりした。

超絶語りだしたので、箇条書きでお送りします。


・何で<悪魔喰い>の事知ってるの?

・ヌルって1000年前のウチら伝説の長老様なんだが。

・ってか本当にアンタ一体なんなのさ?


うん、要らん情報が増えた。

酒が入ってるんで推理も後回しにする。

でも、ひとまず覚えておくべきは。


時代的に<希望>シリーズの千年後が、今。


・・・ってことは、<塔>、1000年経っても大丈夫、なんだ!?

すげぇぜウチらフリーメ○ソン、超石工過ぎて逆にヒく。

そして我が家ェ・・・流石に1000年は越えられなんだか・・・頑張ったんだろうなぁ合掌。

さて、そろそろテトラさんが酔っ払って絡み始めてきたので、退散するかのぅ。


「えーっと、酒入っちゃってるので細かい話はまた後日、ということで」

細かく分身して体の像をずらし、掴みかかってくるテトラさんから逃走。

お待ちをー、と追いすがろうとする彼に周囲の死角をつき、えい当身。

キュッと悲鳴上げ、毛皮ひいた地面に突っ伏すテトラさん。


ひとまず一人になった自分は、酒盛りサバトを観察・・・騎士二人は魔族さん達と肩くんで歌うたってますが・・・善きかな善きかな。

モノさんはどうしてるか・・・あ、いた。

外で周囲警戒とかしてる辺り、真面目だなぁ・・・。

結界張ってることとかは言ってなかったっけ。

つまり自分のせいか。


「お勤めご苦労様です」

一応酒も勧めてみるが、仕事中ですので、と固辞される。


「世情も分からないのでひとまず酒入れてみましたけど・・・結構適当に差別偏見はあるんですねぇ」

げぇ魔族! 的な反応だったんでどんな確執が!? と思ってたんですけどね、と続けてみる。


「ええ、詳しくは私が語るより歴史書辺りを参照なさったほうがいいでしょう」

それなりには色々あったんですよ? と、意味ありげに言うモノさん。

まぁ、単純時間換算で言うならそうだろうねぇ・・・ってか、よく国が千年保ったねぇ。


「恐らく、私の国はあなたの知る国とはまた別のものだと思いますよ?」

それ程歴史はありませんしね、と続ける。

ああ、そうかー、我が鉄の国は滅んだかー。


「ん、色々と情報入ってきて混乱してきました。 ひとまず仮眠取ります」

何かあったら起こしてくださいな、と言い置いて、モノさんの近くに横になる。

きっとこの人のことだから、夜通し頑張ってしまう気もするので。

ひとまず時間指定の<覚醒>魔法を自分にかけて、数時間後に起きることにする。


ではではひとまず、酒盛りの喧騒を子守唄にして。

ガキンチョ一人も助けられたし、いくらか現状に対する情報も増えた幸運な日に、サヨナラ。


おやすみなさい。

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