再開そして連行で
た だ い ま も ど り ま し た 。
間が空いちゃったので前回までのあらすじー。
名古屋迷宮に金品発掘しに行ったら色々あった挙げ句に顔見知りの爺ちゃんまで発掘しちゃったぜー!
発掘爺の長話に付き合う要員として皆に謀られ生け贄にされた自分ことメリウは、ゴッドハンドじみた力で自分を見捨てた連中の寝込みを襲って土壁の部屋に連行したぜー。
そして、夜が明けた。 ←イマココ
清々しい朝の気配。
騒がしい、いつもの食堂いつものテーブル。
シンプルな卵かけご飯が食べたい、とのリクエストにより、今朝のメニューはソレです。
鶏卵、作れるもんだなぁ・・・。
あ、決して自分が総排泄孔から生んだわけではありませぬので、念のため。
実際はもっとグロいしなぁ、えーっと、その、なんだ、蓮コラ的な?
「何でこんな単純なもんがこんなに美味いのかなぁ」
と、食べる度に思わされる魔性の一品、卵かけご飯。
ラーメンを食べるときより無言になる、一杯。
自分を含めた全員が、一言も喋らずに平らげた。
その後、味噌汁を啜る音がいくつか響き。
誰からともなく、ため息。
はぁ、落ち着いた。
さて、ではいい加減無言タイムを打ち破るべく話題でも振ってみますか。
「いやぁ、昨夜の土壁の部屋は大盛況でしたね。 マックスなんか泣いて喜んでくれたしね侍のくせに対痛感技能低いんじゃね?」
爪は基本、という観点から自分の爪でスケイルアーマー作れるくらい剥ごうぜ! イヤ、私怨じゃないよ! と、女の子除いて強行したわけさ。
慈悲はない。
繰り返す、慈悲はない。
「いや、流石にハイスペック外の人でもアレは辛いわ・・・訓練というラベル貼っただけの拷問だったよな? あと訓練名が「ネイルケア」って、そのセンスはどうよ?」
完全に治ってるはずなのになんかまだ剥がれてるみたいな違和感がするわー、と。
両手の指をワキワキさせたマックスが、心底イヤそうな顔をした。
ちなみに訓練名は爪剥ぐ道具が「釘」なのにもかかってたりする。
「不公平にならないように自分も同じ事して見せたじゃないかー、部分変身とか痛覚無効の恩恵とか抜きで」
痛くなければ覚えませぬ、とばかりに剥いでは治して剥いでは治して。
本当に鱗状鎧作った自分には何の不手際も御座いませぬのだ。
・・・あと、ノリで作ったこの呪われた外観の鎧、どー処分したものか。
何回拭っても、なんか血が湧き続けてちっとも綺麗にならないんだけど。
「いやいやいやいや、普通に気が狂ってるお前さんの普段の対痛感訓練と同列な事要求されたらオレとか発狂するから!」
えー。
余りといえば余りな言い分である。
もし拷問大好きな連中に捕まって爪剥がれる立場になったらどうする気だ。
大事なものを痛み怖さで売り渡すハメになったらどーすんだー。
今度から土壁の部屋を生成するときには彼も一緒に連れていってあげて修行すべきではないだろうか。
どう思う皆?
「どうでも良いがワチキ巻き込むなこのマゾヒスト」
「俺の方も見んな」
「アフターケア要員としてだけなら、ウチも行きましょうか」
「僕はもう昨夜ので技能限界値まで上がったっぽいので・・・」
「・・・あの、一応ワタシも女の子なんですが」
「昨夜頑張ってみようとしましたが、一枚剥ぐだけで正直泣きました」
うぬぅ、女の子一名については、別段やらんでも良かったのになぁ。
「自称女の子」には最低限訓練してもらわねばイカンだろうけど。
「・・・ヒドい差別を受けた気がした」
アヒルみたいな口で抗議してくるナガ公。
気のせい気のせい、ひとまず膝の上のレザードでもハグして気分直・・・ああ、すでにやってるか。
そんなこんなの朝食時心温まる会話がひと段落したあたりで。
自分の灰色の脳細胞は、ちょっと面白いことを思いついたのだった。
時間は少々巻き戻りまして。
地下都市に来て早々にタイムアタックがてら挑んだダンジョンの上げ底最奥にして主のお部屋にて自暴自棄の黒竜さんを解体した後の事。
「そういや侍組四人って、ここの<繭>持ってないんじゃね?」
黒竜の血にまみれたレザードが、何の気なしにそう呟いた。
ああ、そう言われてみれば、と、昔懐かし<希望>シリーズを思い出す。
そうだったそうだった。
初参加は、<いつものメンツ>四人で。
場所は、ここだったねぇ・・・。
「では早速、転送装置を起動させちゃいますねー。 ちょいやさー」
実に手慣れた様子で隠しスイッチを起動させるジオ。
はええよ。
控えめな音を低く響かせて現れる、転送ポータル。
鼻歌交じりに皆して空間跳躍決めてみれば。
ああ、そこは懐かしの、<希望>ステージ。
流石に今はだだっ広い空間があるだけで、ワンサカ湧いて来る敵性体の津波は、ない。
「相変わらず薄暗くてイヤなところだな」
口寂しくなったのか謎肉ジャーキー噛みつつ、不満げに声を漏らすシオン。
そんな彼に、そぉだねぇ、と同意しつつ。
じゃ、ちぃと明るくしてみようか、と。
自分は<灯火>をかけてみたりする・・・シオンに。
急な発光に、シオンが目を押さえて転がり回るという不幸な事故が発生したが、日常茶飯事である。
「んー、見た感じ、何もありませんねぇ」
元々<繭>の山があった場所には、ジオの言うように何も見あたらず。
レザードとシオンを振り返って見るも、両者とも首を左右に振っている。
ってか復帰早いねシオン。
しかし。
初めてここを訪れた侍組の目には、あら不思議。
「なんか、<繭>の山が見えるんですががが」
自身の眼前に広がる光景に、痴ロリンが壊れた。
自分達<いつものメンツ>にはまるで見えていないんで、すでに持っている<繭>は不可視に成るという実データが得られた事になる。
・・・いやまて、痴ロリンがクスリキメて白昼夢を見ているという公算もあ「ないよ! ってか最近、私の扱いが悪くないですかー! やだー!」それは普段の行いが扱いに直結してると知れ。
てなわけで。
サクッと全員が<繭>5つコンプリートを果たしたという、ちょっとした出来事があったのさ!
で、今更なぜこんな話を持ち出したかと言えば。
「爺ちゃん、<光武似>に<繭>移植しちゃおうぜー」
・・・と、自分が思いつきをぶつけたせいである。
そんなわけで。
現在、迷宮第九層を爆進中。
ちょいと迷宮潜るときに爺ちゃんの迷宮入場許可云々の騒ぎになったけど。
「あ、この人(の身体能力)、自分達の中でダントツ一番です」と、普通に真実を告げたら、青い顔した衛兵さんが事務所まで走っていって速攻許可証発行してくれました。
自分的には「バカな、そんなの信じられん」とか言って爺ちゃんに無理矢理試験受けさせて、試験官が爺ちゃんに素手で解体される光景を見るのも一興だったのであるが。
「いやいやいやいや、一般の方に改造人間ぶつけるのはどうかと思うぞ?」
気のいい兄ちゃんことマックスが自分のバカ話にツッコミをくれた。
「外の人的には戦闘技能ほとんど持ってないくせに、恐ろしいことに中の人が技術持ってるからね、先生」
流石、戦争行って生きて帰ってきた男は格が違った、と、エイジ。
「実際問題、単純な力が強いってだけで純暴力ですしねー。 それにガチ技術が加わるとか、勝てる道理はないでしょうねぇ」
体術系のジオが、同じ土俵で勝てぬ、と言い切る。
まぁ、自分たちの不思議不可思議マジカルパワーでも使えばその限りではないかもしれないけど。
「いや、そもそもの大前提として、儂はジェントルメェンであるからして素手で人を解体なんぞせんのだが」
外野のあまりの殺伐とした会話内容に慌てて、儂そんなことしないもん、とばかりに言う爺ちゃんの声は。
案の定外道どもに聞き取られずに、儚く消えた。
さぁて、速攻黒竜さんを腑分けして、博士のパワードスーツをさらに洒落にならなくしてやるのだ・・・、と、文字通りの「魔」改造に向けて鼻息を荒くして先頭を行く自分に博士から待ったが掛かった。
「あー、ちょいとワシが掘った穴の先、というか、こっち側に来たときのスタート地点に用があるんじゃが、先にそちらに寄らせてもらえんかな?」
博士が言うには、この世界に来た初期位置たる扉一つの部屋を、研究施設に作り変えていたそうで。
研究資料を残したままこちらに合流して迷宮を出てしまったので、それらを回収しておきたい、との事だ。
「先生、そういうことは昨夜にでも話しておけばよかったのでは? ・・・同士に」
速攻エスケープした義息子が、義父に向かってそんな事をホザいた。
いや、エイジよ・・・出来ればお前さんも爺ちゃんの長話に付き合うべきだったんじゃ「家と職場だけで十分です」さいですか。
「あー、昨日はそんなことすっかり忘れててな。 久方ぶりの酒と、話し相手がいる幸運に二重に酔ったせいじゃな」
カカカ、と笑って爺ちゃんが答える。
ああ、その、なんだ。
流石にこっちに来た瞬間から訳の分からん閉鎖空間に隔離スタートという高難易度ミッションを繰り広げていた人からそんなこと言われると、少々の事は許せてしまう気にもなる。
で。
特に目立った障害もなく(ワンダリングモンスターに対する傷害は発生したが)。
辿り着きましたるは九層から迷宮外へと伸びる、きっちりエッジの効いたトンネル前。
「爺ちゃん、持ち出す荷物は多め? 無限袋がなかったら上げるけど」
最近迷宮に篭りすぎたため、もはや無限袋がコンビニのビニールくらい溜まって困ってたりする。
「いやいや、そこまで大荷物はないんで大丈夫じゃ。 ケーブル数本とメモ書き数点というところじゃ」
ちょいと行ってくるから待っとってな~、と、トンネル内に消える博士。
そして待つこと、5分ほど。
「戻ったぞいー」
そんな呑気な声とともに博士は。
何故か吸血鬼さんと竜人化黒竜さんに両脇を固められた状態で連行されてきたのだった。
・・・ナニが、あったん?