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旅立ちそれは暗雲で

ひとまず材木と、友人一人を拾って村に戻った。

一定距離を離してついてくる友人を、内心苦笑いしつつ。

あー、気になるか女の子だし。

平気平気、それほどでもない、と内心思いつつ。

自分は取り急ぎ、村はずれの施設準備を整えると、バケツに銀貨一枚投入。


「湯加減はどうだねエリスさんやー」

女湯の二重衝立越しに、湯浴み中の痴ロリンに聞いてみた。


「サイコーでーす」

ちょっと熱めが好きなんですー、と江戸っ子気質な答えが帰ってくる。

それはなにより、と返答し、その場を離れて周囲を警戒。

・・・異常なし、念のため空とかも警戒しようかとも考えたが、鳥一匹飛んでいないようなので杞憂というものか。


六日間の引きこもりだもんね、汚れもニオイも気になるだろうさ・・・と、ゲームだったら心配もないようなことを思いつつ。

女湯の釜近くで材木を取り出し、自分は生産加工メニューを開いた。

網膜投射的な効果なのか、VR的に生産窓が開く。

PC的ゲームスキルは使用可能であるらしく。

外からみれば自分が鋸や鉋で看板を作っているように見えるが、実際は道具選択と材料選択を行っただけである。


「ふむー、精密生産は自分自身がやってるって感じなのに対して、簡易生産は外の人がやってる他人事って感じだよねー」

結局、現状の把握に対する判断材料を再確認できた、とでも思えばいいか。

ゲーム的な要素が地形などしか無い世界。

ゲーム的要素を使用できる外の人に入った自分。

この世界・・・に、ゲームデータをぶち込んで、混ぜた・・・?

となると、この世界そのものも、リアル系ゲームとして見ればいいのか・・・?

そしてこの場合、自分は外の人に引っ張られてオマケで此処にいる羽目になってるのか?

断言は出来ない所がアレであるので、ひとまずは思考中断。

取り急ぎ、大看板を掲示板として村の入口辺りに立てさせてもらい。

簡易生産で作った羊皮紙を貼りつけ。


「俺は・・・ここにいるっ! スケェェェェェェ・・・」

・・・ベイス。

嘘です、ちゃんとに書きました。




メリウより親愛なる友人達へ。

ひとまず首都に行ってきます。

エリスも拾いましたので、念のため同道することになりました。

何事もなければまた戻ってきますが、首都に来るか此処で待つかの判断は、お任せします。

○月○日。


P.S.

生きてろよ!




そんなこんなで日数経過。

予告通りに迎えが来た。

今回は流石に単騎ではなく、程々に重装の騎士が二名程お供に。


「おまたせしました」

綺麗に礼を送ってくるモノさん。

おおお、なんかカコイイー、と腐エンジンをギュンギュン回すエリスにチョップびし。


「で、そちらのお嬢さんはメリウさんのお仲間ですか?」

はぐれた仲間の一人か、との問いである。


「はい、仲間の一人と言うか、妹的存在と言うか」

間違っても腐っていることは悟られてはならぬ。

自分は心に誓った。

具体的にはモノさんを、汚染から守るために。


「ほう。 ではこの方も、と思ってよいのでしょうか?」

モノさんが言外にエリスも魔法を使えるのか、と聞いてくる。


自分は小さく頷き、ひとまず自己紹介させようとエリスを背後から引っ張り出す。


「エリスと申します。 道中よろしくお願いします」

ぺこり、と頭をさげ、ボロが出ないレベルでの自己紹介は終了。

ほっと胸を撫で下ろし、エリスを再び背後に戻す。


「では、行きましょう」

馬車を用意しましたのでこちらへ、と促される。

自分だけならともかく、多人数移動で徒歩は勘弁願いたかった為、渡りに船で正直助かる。


「乗り心地は良くないのですがね」

申し訳ありません、と、頭を掻くモノさん。

四人乗りの屋根付き馬車の扉を開くと、どうぞ、とばかりにエリスに手を差し伸べた。

おおジェントリー、と感心したが、


「馬車ってはじめてー」

と、差し出された手に気づかなかった痴ロリンがズカズカと乗り込み。


モノさんと自分、男二人で苦笑い。

すいません、天真爛漫な奴でして、と一応フォローじみた事は言っておく。

苦笑いのまま、お気になさらず、と御者席へ行くモノさんの背中を見送りつつ、自分も馬車へと乗り込んだ。

さて、のんびりと馬車旅の始まり、始まり。




しばし時間は戻り、自分とエリスと合流して飯風呂済ませて一応の用心としてハウス地下に引きこもって一息ついた頃。

自分と彼女は現状把握のため、この世界(仮定)についてから今までのことを語り合った。

自分の話は掻い摘めば扉開けたら落っこちて川流れの末に空飛んで、道見つけたから一晩歩いて此処にいる、というだけなので詳細までは語らずにサクッと報告。


対してエリスの話は。

自室にて課題のレポートそっちのけで東京タワー×通天閣×嫉妬に狂うエッフェル塔のコピー本原稿を描いていたところ、一瞬の停電。

気がつけば見知らぬ密室に外の人エリス姿で放置プレイ。

恐る恐る1つだけある扉を開けてみたらあらビックリ。

鬱蒼と生い茂る、緑緑緑。

閉めて開けて閉めて、を数度繰り返し景色が変わらぬ事を確認すると、エリスはひとまず、引き篭もって眠りについたそうな。

地味に二徹してたそうで、夢でなくても幻覚とかかなぁ、とか、きっと原稿描きながら寝落ちしたんだ、的に思っていたフシがある。

で、目覚めればそこには一つ扉。

うあああ、夢じゃなかった、夢じゃなかった、と、空腹に耐えかねて手持ちの袋から懐かし外見の携帯食料を発見し齧り付き、味の凄まじさに悶絶したそうだ。


「なんというか、肉の香りの微かにする高野豆腐を、戻さずに齧ったみたいな感じ」

味気なかったんで捨てようと思ったけど、いつ新しい食料にありつけるかも分からなかったのでひとまずキープしておいた、らしい。

で、その後は部屋の中でふて寝したり、コソコソ外に出て花を摘んだりしたらしい。

正直、風呂に一週間近く入れなかったのはコミケ前の修羅場以来で厳しかったです、とエリスは語った。

記憶が確かなら・・・こっちに飛ばされた日が、そのコミケだった気がするけど・・・うん、女の子に聞いちゃいけない事柄な気がしたのでスルーしておいた。

自分にもそれくらいの情が、あった。

で、日は過ぎて喉の渇きに刀の露をすすり、食料が尽きて仕方なしに草でも食むか、と覚悟を決めて外出し、目を回して行き倒れた所を自分とエンカウント、らしい。


「一週間ぶりのパンとかベーコンとか、泣くかと思いました」

ぶっちゃけ、食べながら泣いてた。


「そか、ひとまず無事でなにより、だったね。 もう少しだけアクティブに動いてたらあっさり村発見できたんだろうけど」

で、普通に宿に泊まったり温かい食事を摂ったり出来たんだろうけど。


「いやいやいやいや、さすがにそれは結果論ですよぅ。 私都会っ子なんでこんな緑なす場所に放置されたらヘタに動けませんよぅ」

半泣きのエリスを宥めつつ、まぁ、そんなもんなのかね、と適当に頷いておいた。


ちなみに自分は山育ちなんで、ぶっちゃけ樹海に放置されても鼻歌交じりで脱出できたりする。

くそっ、役に立たねぇ中の人技能だなオイ。


「さて、で、現状の不可思議な点としては・・・何でゲームキャラの中に入ってるのん、って事ですかね」

自分の手を開いて閉じて、と動かしつつエリスが言う。


「だね。 まずは昔のゲームで作成したキャラの技能そのままに、ソレになってしまっている事」

自分は言いながら、人差し指を立てる。


「次は、ゲームの地形そのままの場所に、放り出された」

人差し指に引き続き、隣の中指を立てた。


「シンプルに、ゲームの世界に入っちゃったー、とかなんでしょうかね」

ああもうメルヘンだなぁ、とエリスが憤慨。

こういうのは二次元だけでお腹いっぱいですよぅ、と、頬をふくらませている。


「んー、たしかに単純に考えるならソレでいいのだろうけど。 実際問題として、ゲームにあったものでここにないもの、とかも多々ある」

ぴっと、薬指を立てつつ。

強いて言うならコミュニケーションツールなどがソレにあたる。

メールに掲示板、ギルドなどの組織も怪しそうで。

あとは神様との交信も出来なかった。


「え、神様ダメだったんですか!」

くそぅ、地味にポイント貯めてたのに!

地団駄踏むエリスさんたら、見てて飽きないリアクション芸人。


「うん、自分も欲しい魔法とかあったんで試したんだけど。 ダメだった」

つまり、神様経由の授かりものパワーアップが、禁じられている。


「だから、新しい魔法とかは・・・可能性の問題だけど、PC間なら、もしくは・・・と期待してたりするよ」

訓練ポイントとかはどういう扱いになるか分からないけどね、と続ける自分。

たしか、コンセプト的には<訓練にひと月費やす>という単位だった気もするので、みっちり一月師事しないとダメなのかもしれない。


「うー。 なんというか、世は不思議に満ちてますね」

早く帰って原稿の続き描きたいー、と、整えた寝床にダイブするエリス。

もう考えたくなーい、ねたーい、とか騒ぎ出す始末で。


「はいはい、んじゃおやすみ。 自分は廊下に出て右手法で進んだ先の2つ目の部屋にいるから、何かあったら諦めて死ね」

にこやかにエリスを見捨て、即ダッシュで去る自分。


「はーい・・・え、最後なんて・・・Zzzz」

ツッコミ途中で力尽きたのか、エリスの漢らしい寝息が聞こえてきた。




場面戻って馬車の中。

往復三日の時間で行き来可能ということは、一日半未満の旅路ということかー、などと考えながら、揺れの激しい車内で尻を叩かれつつ。


「うわぁ、思ってたより早いんですね、馬車って」

満喫しているエリスの楽しげな姿に、少し心がなごむ。


「まぁねぇ。 車レベルは出ないけど立派な移動手段として確立された物だしね・・・はしゃぎすぎて落ちるなよぅ娘っ子」

クッションになるものないかなぁと無限袋を漁りつつ、窓を開けて風に髪を踊らせてはしゃいでるエリスに落ちないよう注意を促す。


「はーい。 メリっさんってウチのサブリーダーみたいだねー」

引率の先生みたい、と言ってくるエリスに、


「大学生にもなってそのはしゃぎ様だから、過去は推して知るべし、だよね。 エイジの苦労が忍ばれますわヨヨヨ」

同士は今何やってるかねぇ、と、物思いにふける。

あとは、ひとまずクッションがわりに昔討伐した四足獣の毛皮を丸めて尻の下に引く。

おお、案外いいクッション性能。


「あー、メリっさんだけズルイー。 私にもプリィーズ!」

歴史書に残るようなプリーズを吐きよるわ・・・などと笑い合いつつ、自分は竜の鱗を差し出した。


「わーい、このハードな感触と若干の粗さが私の尻を削りーってコラぁ!」

べちっと、と、叩き返された鱗を仕舞い込み、仕方なしに同じような毛皮を投げて渡す。


「さんくすー、うわーい、モフモフだー」

座るどころか寝転がり、毛皮にじゃれ出すエリス。


「ダメな大学生がおるわ・・・」

最近の子はこんなに幼いのだろうか・・・と、我が国の教育について頭を悩ませる。

ひとまず日○組潰そうぜ。


「ふーんだ、今の私は一五歳のエリスだもーん。 歳相応だもーん」

もーんとか言わない、と突っ込みつつ。

ガタガタドッカン馬車は進む。


そして、その数時間後。

夜の帳が下りるか否かの、明るい闇の中。


その一団は、現れた。

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