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訪問者それはまたしても身内がご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません

朝の来る直前の時間帯。

お呼びのかかった自分達が眠い目をこすりつつ向かった先は、迷宮であった。


先導する彼に誘われるがまま、たどり着いたのは迷宮第9層の、行き止まり。

構造的に言うなら、外周に当たる壁面部の隅っこ、とでも言えばいいか。

そんな壁際、何の変哲もなさそうな袋小路にたどり着いた先導者が、音もなく振り返る。

そして、男にしてはやや高めの(だからといって実は女性とかのアリガチな設定はない模様)声で、こう、切り出してきた。


「本来破壊出来ぬはずの迷宮外壁に、亀裂が発見されたのです」

漆黒のマント姿の先導者が指さした、その先。

チラッと一見してみただけでは他と大差なく感じる、迷宮の壁。

しかして。

じっと凝視してみたならば。

確かに、昔懐かし忌々しい砂漠の英雄像的に破壊不可能オブジェクトなはずの壁面に、縦横無尽に節操なく走る、細かな、しかし決して短くはない亀裂が、見て取れた。


「この壁の先から不可思議な音が聞こえてきたのが、今から数ヶ月前。 その音はだんだんと大きくなっていき・・・あたかもこちらへ近づいてくるように感じられ・・・そして、つい先日。 そう、あなた方がこの迷宮にいらっしゃるのと時を同じくして、このような亀裂が発生したのです」

その後も、音は徐々に迷宮側へ近づき。

そして発生した亀裂もそれに比例して大きくなって行っているとのこと。


「・・・で、これをどうしろ、と?」

時期がかち合っただけでワチキ等のせいとかにされてるってことかね、と。

朝一番・・・というより丑三つ時位に叩き起こされ、充分な説明も成されぬまま連れ出された一行を代表し、シオンが先導者に尋ねた。

薄笑いを浮かべているように見えるが、笑っているのは口だけである。

魔力の見えるレベルの者がいたなら、彼の周囲を乱舞する雷精達の姿が確認できたことであろう。

・・・自分やジオ、エイジあたりは見えてたりするので、ぶっちゃけると巻き込まれたくないのでさっさと宿に帰って寝たい。


そんなシオンの様子に恐怖を感じたのか、チラッと自分の方に目配せをくれる彼を、にこやかにシカト。

何せ自分だって細かなことなどなにも聞いてねーのだ。

どうフォローせよと言うのか。

そもそも、出会ったのだって皆を集める10分前程度であるのに。


元々青白い顔色をさらに青くさせながらシドロモドロに説明し出す彼を後目に。

自分は彼と遭遇した昨夜(といっても、ついさっきな辺りがワケワカメ)の出来事を思い出すのだった。




シオンに頭を握り潰され、仲良くテーブル下で転がっていた、野郎三名。(含む自分)

ついうっかりテーブル下から生えていた足に気がつき覗き込んでしまい、グロいもん見つけてしまったウェイトレスさんが悲鳴を上げるか否か、というタイミングで。

自分は逆再生的に自己回復。


「あ、後は片付けておくので」

と、もう顔見知りな彼女をその場から遠ざけ。(「なぁんだ、いつもの小芝居だったんですねびっくりしたぁ」と言われた。 毎回死にかけてる自分に謝・・・あ、イヤ、スイマセン毎回グロい出し物しちゃって)

脇に転がるその他二名の、えーと、その、幕府さんと改良さんをペチィ、ペチィっとこんにゃくで叩いて応急処置(完治)。


その後、頭潰された三人で「潰れトマト同盟」を組む運びとなり。(酔っぱらいの戯言)

手前味噌な、こんにゃくと川魚の練り物のおでんをツツきながら焼酎片手に色々話し合い(こんにゃく隠滅)、嘘とか非現実とか妄想とか曖昧な夢を織り込んだ0.003%位の真実(主にレザードの告白とか。 あのストレートさは見ていて清々しかったものである・・・それまで色々画策しては自爆して泣いていたナガ吉の「え、まさかのそっちから告白キター!?」的な狼狽えっぷりはとても可愛かった記憶がある・・・どうして今現在の有様に成り下がっちゃったのかなぁ)を含んだ身内話で自分達がおかれている苦境を涙ながらに捏造演説。

「そんなわけで、自分達は他の集団に所属できないんですよー」と、技能<説得>を試みたわけで。


「「イイハナシダナー」」


よし、技能成功チョロいもんだぜゲハハハハ・・・げふふん。


人間、誠意を持って話せば大抵通じるよね!(イイ笑顔)


そんなこんなで。

ワリと友人的なノリになってくれた二人が、自分達にまとわりつこうとする集団との緩衝役を買って出てくれることになったりした。

すわ、シオンに(比喩なしに)頭潰された君ら、実は有力冒険者なノン?

と、疑問に思い聞いてみると。

二人とも、すでに10年を越える迷宮探索経験者らしく。

鉄火場を生き抜いたベテランさんなのだそうで。


「あんな切ない話聞かされたんじゃ、そりゃ協力もするわ。 ガッツリ稼いで、早く帰れるといいな!」

所属人数最大手、な団の長。

ある意味地下都市内優良企業社長・・・のような改良さんが、焼酎片手に赤ら顔でこちらの背中をバンバン叩きつつ励ましてくれたり。


「ですね。 それに、事情を知らぬとはいえ野次馬気分でチョッカイ出して頭割られる被害者が出ない方が好ましいですからね。 いやほんと」

地元出身の馴染みを集め組織された少数精鋭(と、言ってもメンバー数は十人を越えるそうで)の長な幕府さんは、苦笑い浮かべながらも双方の被害軽減に協力してくれるそうで。


「ありがとうございます」

自分は、そんなお二人に頭を下げつつ。

素直に。

その善意に感謝。


そんなこんなであとは意気投合して飲め食え歌え踊れ、な、ただの迷惑な酔っぱらい大暴れ・・・までは行かなかったが。

度数の強い焼酎を浴びるように飲み、サクッと潰れた改良さんは、帰りが遅く心配してやってきた団員さんに担がれて退場し。

案外ザルなのか、同じ程度の暴飲していた幕府さんは、若干ふらつく足取りで宿へと帰っていき。(残っていたおでんを鍋ごと土産に持たせたら喜んでくれた。 命の恩人、こんにゃくが気に入ったらしい。 一晩寝かした翌朝の美味さに驚くがよい)


そして、テーブルには自分一人。

酒場の喧噪は、夕方とさほど変わらず盛況。

それほど広すぎない迷宮一層だけの探索行のはずなのに、潜っている人数はかなりの数に上るのだろう。

ほろ酔い気分の自分は、見るとはなしに聞くとはなしに。

そんな酒場の風景を眺めつつ、水を一口。

さて、いい時間だし、そろそろ自分も部屋に戻ろうかね、と、立ち上がりかけたその時。


酒場の入り口にたつ、場違いな黒マントの人物に気がついた。


瞬時に切り替わる、自分の中のスイッチ。

名前を付けるとするなら、日常判定スイッチが。


非日常に、切り替わったのだ。


せっかくの良い気分のホロ酔いを強制的に<毒物無効>で消し去り、周囲に違和感を与えぬ程度に永久化魔法群を起動。

懐に忍ばせている無限袋から<右曲がりのダンディ>を引き抜き。

何事もなかったかのような足取りで。

ゆっくりと。

自分は黒マントに向かい、歩を進める。


吸血鬼。

迷宮九層の、ボス。

単体として考えれば、黒竜さんに次ぐNo2の戦闘能力保持者。

強大な魔力で、無数の魔法を操る純然たる魔法使い。

そして吸血鬼としての特殊能力も魔眼から始まり霧やコウモリへの変身など、実に多彩。


さて、そんなヤバ目なものが、何故かこんなところに出張っているという。

自分はともかくとして、こんなところでデカい魔法でもブチカマされたら。

何人「居なくなる」か、わかったものではない。


故に。

一瞬で。


「消さねばならない」

自分は、腹をくくって奥の手を実行しようとして。

そこで、動きを止める。

眼前の敵たる吸血鬼。

その両手が、小さく掲げられて。


「敵意はございません。 どうか、平にご容赦を」

降参のポーズな吸血鬼が、気弱げにそう、口を開く。

魔力の集中も感じず、文字通りの隙だらけである。


「・・・ここに居たのがレザードあたりでなくてよかったね。 奴とかだったら、見つかった時点でアンタ消されてるよ」

自分は警戒を解くこともなく。

ただ、事実を述べて。


「ひとまず、場所を変えよう」

顎でしゃくるように、吸血鬼に回れ右を提案するのであった。




で、その後。

夜の地下都市を歩きながら。

「緊急事態につき御協力願いたい。 我々では対処できない可能性が高く、かつ放置するとこの都市の基盤そのものにも影響が出る恐れが大きい」

と必死に説得され。

・・・<嘘判定>魔法にも引っかからなかったので、火急の用として皆を叩き起こし。


地下9層の壁際に、話が繋がるわけでして。


「確かに、壁の先から聞こえてくるね」

掘削音、かな、と。

エイジが愛刀を抜きつつ、壁を睨みつける。

どうやら音の大きさ、質から。

もうすぐ壁が破壊されると悟っての対応であった。


それを見た周囲も、エイジが目配せ一つする必要もなく得物を準備し、臨戦態勢をとる。


ズシン、ズシンと。

破砕音はラストスパートとばかりに強く、早く、小刻みに鳴り続け。

そして、ついに。

迷宮のひび割れた壁が、崩壊した。

勢いよく迫る破片をジオと自分が<聖防壁>を展開し弾き、後方への進入を阻止。(元が破壊不能オブジェクトである。 黒粘体の物理無効への盲信は捨てるべきであろう)

・・・一番前にいた吸血鬼さんは、直撃食らって悶絶しておりますが・・・なぜに霧とかになっておかなかったんやこの人・・・。


ともあれ。

破壊不能なはずの壁面を瓦礫に変えたソレは。

ヌッと。

無造作に。

迷宮内に進入してきた。


白銀色の、巨人。

歪な人型をした、三メートルほどの金属製巨躯。

壁を破壊したのは、槍とハンマーを混ぜたような、あの両拳か。

背面に備え付けられた四本のマフラーから、目に見えぬ蒸気を噴きだして猛る、その威容。

闇に輝く眼光は、二つ。



「「「「「「「「うわぁ。 超、見覚えあるものが」」」」」」」」

八人が、ハモった。



そりゃそうだ、だって、これって。


「・・・おお? 何ぞ見覚えのある連中が居るのぅ?」

白銀巨人の前面装甲が跳ね上がり。

その<パワードスーツ>を着込んでいた中身が、ニヤッとした笑いを浮かべつつ、サムズアップ。

くたびれた白衣を纏った、矍鑠かくしゃくとした御老人。

隣にいたエイジの、何ともいえぬ溜息は聞かなかったことにして。


ああ、なんか久しぶり。


「<博士>・・・げっと、だぜ?」




正直、茶飲み話が長いのでゲットしたくないような気が?

「そんな・・・酷い・・・」

「あ、爺ちゃんそれキモい」

「本気で酷いな貴様!」

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