お勤めそしてウッカリ暴露
スウィートな<黒粘体>訓練も、たった一日半で、つつがなく終了した。
試しに上限の高いエイジに難易度ハードで訓練を施してみたら、恐ろしいことに能力上限突破すら果たして見せた。
エイジ、怖い子っ!?
「いや、自分の限界まで鍛えて即時僕見捨てて逃亡した他三人が居なくなったからって、二人がかりであんな外道極まりない密度の訓練されれば流石に愉快成長するからね?」
何度かガチ発狂しかかったんだけどね、と続けるエイジ。
ちなみに、精神安定的に<平静>も回復に混ぜたりしてたので、あながちソレのお陰で狂わなかったのかもねぇ、なんて冗談交じりに笑いつつ。
「さて。 修行必須な<黒粘体>もひとまずカタついたところで。 ・・・<永久化>はどうしましょうかね? 神様ポイントで全取得がオススメですが」
ふはぁー、と茶をすすり終えたジオが、濃密な血の気配(臭いとか現物とかは<洗濯>でキレイキレイであります)を吹き飛ばすために閉め切っていた窓を開け放ちつつ聞いてくる。
そういや侍組の<永久化>係(奴隷)は同士エイジのみだったっけ。
「是非ともハードモードで。 是が非でも。 ちょっと行ってダルマにして持ってくるから待ってて?」
凄いニコヤカなエイジが、当たり前のようにジオへ返答。
直視したら死ぬレベルの本気で殺る感じの目で。
ありゃー、逃亡した連中にハードモードへの鬱憤の矛先が行ってしまったのかっ・・・な、なんとか誤魔化さねば。
ははは、と、まぁ冗談はさておき「え?」えっ?
自分のフォローに対して疑問顔を浮かべたそのまま。
エイジは静かに、しかし止める間もなく速やかに部屋を出ていって。
数分後に、再び扉が開いた時には。
恐怖に引き攣った表情の侍組、再集結させられているの巻。(ワリと大魔法使いなエイジの<捜索>魔法から逃げるには地球圏外に逃げねばならぬ)
・・・そして。
ハードモード開始後すぐさま泣きが入り。(一番手のマックスが数秒で廃人に成る様と、それを強制的に元に戻しての訓練続行を見た女性陣がギブアップ宣言。 マックスはまだやれると気勢を上げるも、体が小刻みに震えて拒否反応を示したためジオからドクターストップがかかった)
と、言うわけで。
ポイントを稼ぎ終わるまではエイジとジオ、そして自分が<永久化>を分担することとして。
<黒粘体>訓練、ここに終了。
お疲れ様でした。
「チッ」
エイジさん、舌打ちしないで下さい超怖ェ。
翌日。
迷宮、蹂躙。
まさに、蹂躙であった。
一層は一般人がチョロチョロしているのが目障りなのでいつもの如くスルー。
そこから先は、まさに虱潰し。
特に鬼気迫る侍組の聖位持ち共。
永久化<黒粘体>に防御を丸投げした連中の火力は凄まじく。
肉体的に損耗のない<先の先>の多重斬撃/刺突にて、動くもの全て敵なレベルで平らげて回る。
余りにあまりなその鬼気に、シオンやレザードも観戦モード。
「もうワチキ等、要らないんじゃね?」
「俺が思うに、障害になりそうなのってスラキンと黒竜さんくらいしか居なくね?」
似たような光景をいつも作っていた二人がそんな事を喋りながら彼らの後を追い。
「世界が変わるレベルですからなー、懐かしい」
「そだねー、アレ手に入れる前は全力攻撃、即時回復の自転車戦闘だったからねぇ」
ジオと自分が、ゲーム時代ではあるが昔を懐かしみつつ歩を進め、通りすがりに死体やら隠し宝箱から色々と回収し。
「ふむ、なんとか三重黒粘体は維持可能か・・・」
ノンビリと最後尾にいるエイジは、既に黒粘体の改造に着手している模様で。
実に、黒竜さん討伐までの最短記録を、(一階層を除いて、だが)パーフェクト制圧で更新という結果と相成った。
半分以上、戦力が遊んでいたのだが・・・。
「そういや、帰還用ポータルから出てくるの見られたんだっけ?」
もう面倒臭いから本当のこと話しちゃえばいいのに、と、自分あたりは思ってしまうのだが。
「いえいえ、結局正直になってもウチラには変なのが擦り寄ってくるだけという面倒さがありますので・・・」
ジオのそんな意見も尤もで。
結局、帰還ポータルの出口で待ち伏せられるのを面倒に思い、<透明化>してから脱出する運びに。
案の定、昨日ノされた連中+αが張ってるのを確認、するっとスルーして迷宮に潜り直して<透明化>を解き即反転。
一階階段から颯爽登場する自分達・・・を、アピールアピール。
待ち伏せ連中の、え、何でソッチから来るの的な驚き顔もすぐに飽きて。
誰も出てこない謎装置に張り付いてて無駄一日に終わった今、ねぇどんな気持ち? どんな気持ち?
とか煽りたいのも我慢して。
会釈一つくれて、自分達はクールに去るぜ・・・と、気取ったところで、急展開。
「おお、間に合ったようだ」
ポータル通り過ぎたあたりで、威風堂々黒竜(竜人モード)さんOUTしたぉ!
っておいぃ。
「え?」「ちょ!?」「何だ、というか、誰だ!」
周囲の雑音をまるっとシカトした黒竜さん、鼻歌交じりに此方にやってきて。
「急ぐこともないかと思ったのだが、長夜の暇つぶしがないのも不憫に思ってな」
彼の手には折りたたまれたボードゲーム。
メイドイン自分な<理不尽人生ゲーム>の・・・忘れ物。
「確かに返したぞ。 ではまたな!」
颯爽退場、しかも徒歩で一階層目に降りていく黒竜さん。
あー、その、なんだ。
この謎装置、なんか出てきましたねハハハ。
「で、誰だ今の竜人?」「西国から来てる発掘騎士団には居なかったよな、あんな見事なまでの漆黒なのは?」
・・・この迷宮の主です。
とはいえぬ自分達が、居た。