大部屋それは無限ロシアンルーレット
あ げ わ す れ て お り ま し た 。
名古屋迷宮到着から三日目。
ガチンコ黒竜さん(略してチン黒さんと呼んだら怒られた、解せぬ。 リバースして黒チンコさんと呼ぶべきであったか・・・あ、後関係ないけどガチンコって、ガチ・ンコって切ると本当の糞便って感じの言葉になるね!)の猛威に晒された一行、特に危機感を強くしたのは侍組で。
<黒粘体>取得訓練を先延ばしにもできぬ現実に直面し大わらわ。
しかして地下都市という半閉鎖空間での魔法訓練スペース確保が困難だったため、無理言って確保した宿の大部屋に侍組四名、サポート二名が鮨詰め状態。
ちなみに、この場に居ないシオン、レザードは「無理しない程度の階層まででマラソンしてくるわー」と、弁当持って迷宮に直行した。 今の奴らが本気でハムスタれば、最下層を除いた周回だと仮定しても四桁ポイントは稼ぐかもしれぬ・・・レザード、確か罠解除とか幾らかスキル持ってたはずだし宝箱なんかの中身も美味しく頂けるだろう。
閑話休題。
大部屋といっても、ほんの十畳程度の部屋に六名車座の異様な空間の出来上がりである。
そんなこんなで、彼らの息詰まる(NOT比喩)苦闘が、朝から続いている。
「ッ、しまっ!?」
ポン、と、試験管で発生させ火をつけた水素爆発程度の控えめなコミカル音と共に四方に飛び散る剣士の命。
音もなく刀を抜き放ち、振る手も知覚させずに対象を切断していた魔技の射出口たる利き腕。
痛みを奥歯でかみ殺しつつ今まさに吹き飛んだ自分の利き腕を押さえるのは、侍組リーダー・剣術馬鹿にして周囲の濃ゆいメンツに押されてイマイチ影薄い印象の男こと、マックスである。
高位魔法の発動・制御に失敗し「運良く」腕がポポポポーンするだけで済んだようだ。
最悪、運が悪ければ頭が吹き飛んで、終わる。
・・・その最悪すらも、サポート二名が瞬く間に地獄なり奈落なりから当人呼び戻して来る手筈である。
運よく、まだ運良く死人は出ていないが。
通常、魔法修行において、このような悲惨なまでの失敗は起こり得ない。
当然、致命フラグのオンオフ機能のおかげである。
デフォルトでオフにされててよかったねぇ、とは全員の共通意見ではあるのだが。
しかし今、この場において。
その安全対策が、取り払われている。
致命フラグのON/OFF操作が、可能になっているのが発見されたおかげである。
東や南の「壊れた地域(仮称)」では使用できなかったゲームゲームしたコンフィグ画面。
そう言えばフラグ管理なんて窓もあったよね、と、存在が思い出され、出現が確認されたのが実に昨夜。
まぁ、いつもの、ヤッたら出来ちゃった、という流れである。
・・・恐らくだが、西の国でも使えていたんだろうなぁ。
本来ならば、そんなヤバイものはオフにしたままにすべきであるのだが。
愉快サポートが二枚、救急班として待機することによって。
「最悪死んでも何とかするから」というスパルタを超えた訓練が可能になり。
「あ、でも別に急ぐ旅で無し。 安全策とったほうが良いのでは?」
別段生き返る事ができるからといって死に急ぐ必要は皆無ですよ?
というジオの提案も、もっともだったのだが。
「いつ何が起こるかわからない現状では、速さがこそ重要だ。 侍組全員、腹くくってる」
でもまぁ、死んじまったら頼むな?
という、マックスを始めとした侍組の言葉に、ジオと自分はため息一つ。
かくして、侍組全員がフラグを外し熟練度を極限まで上げやすくした状態での。
文字通り命がけでの訓練と相成ったわけで。
「申し訳ありません、打ち消しが間に合いませんでした」
即時、輝く光雨が逆再生映像の如くにマックスの腕を元に戻し、肉体的・精神的な損耗をも補充。
さらには、魔的な光の雨が物理的に汚れを押し流し、部屋に飛び散ったマックスの骨肉はては血で汚れ果てた部屋及び人に付いたシミ一つに至るまでが綺麗サッパリと消失。
当然、癒しん坊ジオの仕業である。
・・・ジオめ、回復に<洗濯>魔法を混ぜたのか・・・。
単純だけどいい合成だ。
低位の魔法な為、消費も低く合体魔法全体としての制御難度も誤差レベルか。
何気に今後自分へのツッコミの後処理に大活躍しそうな予感がヒシヒシと・・・。
「助かる坊さん。 ありがとよっ」
吹っ飛んだ痛みも引かぬ気がする「傷一つない利き腕」を掲げ、マックスが本日何度目になるかわからぬ魔法の発動を試みる。
流石は今日の爆発王、今更痛み程度では躊躇も見せないか。
失敗、失敗、失敗・・・。
致命失<威力減退>・・・<全究癒手>・・・。
黙々と<黒粘体>を使用し続け技能上昇を目指す侍組。
そんな彼らを魔力視すら駆使して監視、魔力回復や致命失敗などの緊急時フォローを受け持つジオ及び自分。
ロシアンルーレットをやり続ける侍組とモグラ叩きをやり続けるサポート組、といった様相である。
回数無限のロシアンルーレット、死の恐怖はそのままに延々とやり続けたらどうなるの?
そんなどうしようもない考えが頭をよぎるが。
「コイツらがこの程度でどうこうなるわけ無いじゃん」
真っ当な人間だったら狂うけどなー、と。
ボソッと呟いた自分。
それが聞こえたらしいエイジが何とも言えないような表情を浮かべていたけど、即時頭を切り替えて訓練に戻る辺りは流石である。
他の面子も、何時になく真剣に集中している。
エリスやナガも、たまにはそういう真面目な面しててくれると嬉しいんだけどなぁ。
そんな有り得ぬ期待を脳内に吐き捨てつつ。
ワンミスで友人が即死するという、切ってはならない緊張の糸を維持し続ける自分やジオの役割も。
真っ当な人間がやったら、発狂するんだろうなぁと。
他人ごとのように、思った。
幸いなことに。
この部屋には真っ当な人間とやらはいなかったらしく。
その日、地下都市採光口からの夕日を確認する頃には。
めでたく侍組四名、何とか<黒粘体>発動をギリギリこなせる程度の熟練を得ることに成功。
本日の訓練は終了ということに。
娑婆の空気うめぇー、と、部屋を出ていく侍組たちの背中を見送りつつ。
自分とジオが本日の感想なんかをボソボソと。
「存外早かったねぇ。 訓練密度上げればもうちょい先目指せそうかな」
「そうですな。 イージーモードでこれでしたら、ヘルかナイトメア辺りまで訓練難易度上げれば一日マスターも夢ではなさそうですな」
「明日辺りで上限高いエイジ以外は技能限界までいけそうだね」
「ですな。 ああ、あと地味にウチらの訓練にもなりますねコレ」
「うん、文字通り気が抜けないからねぇ。 ある意味自分達の方が難度高い気もしてきてる・・・しかし保つもんだねぇ、正気って」
「保ちましたねぇ。 正直ウチも<平静>乱発しないと狂うとばかり思っていたんですが、なんということもありませんでしたなぁ」
「実は普段から狂ってるから、という落ちとかどうよ?」
「それはメリウだけでしょうに」
そんなこんなを、ウヘヘヘヘー、と笑いながら話しつつ、侍組を追って部屋から出る。
自分達を待っていてくれたのだろうか、廊下に佇みこちらを疲れた表情で見つめてくる侍組達に会釈を送り、先導するような形で食堂へ向かう。
さぁてシオンとレザードはもう来てるかな?
あれ、侍組がついてこないけど娑婆の空気クンカクンカするのに忙しいのかな?
まぁ、ゆっくりおいで。
自分とジオは、侍組をその場に置き去りに酒場へと歩を進める。
「「「「あれでイージー・・・だと・・・?」」」」
侍組は息が合っているなぁ。
着実にクソゲー化してきてるPS○2ェ・・・