ダンジョンそこはハクスラで
隠密技能を駆使してヌルリと第一層をパスした一行。
その後もヌルヌルと第二層のボスことミノタウロス・ザ・牛ハーフをコンマ数秒で腑分けしたり、第三層のボスにして、レザードに向けて「アラ、貴方は大昔ワタシのハートを盗んだ御方! 素敵ぃ、今度は貴方のハートを鷲掴み」とか喋り出したスキュラ・ザ・蛇女を「・・・人の男に色目使ってんじゃねぇぞオォ?」と、ガチギレしたナガ吉が一突きで壁に標本みたいにしたり。
まぁ、色々ありました。
ゲーム時と比べてみても得られるものに変化はない模様で、マップを総ざらししているわけでないのに、既にそれなりの財を成してしまっているところが恐ろしい。
金が・・・ほしいっ・・・時にはココ、と、良く潜ったものよのぅ。
そんなこんなを回想しつつも、どっかの誰かさん曰くの「地獄の始まり」第五層に到着。
ベヒモスをも十数秒で飲み込み尽くしてしまうクラスの、巨大にして強大なる粘体の王。
<魔王スライム>のエリアに到達。
「貴様等は、あの時の・・・好都合だ、決着をつけよう」
自分達、安全域に居たはずなのになぜか、アチラから襲いかかってきたり。
ってか、なぜその身内死亡フラグを知っているアンタ。
まさか<中身>が入ってるのか!?
・・・まさか、ねー。
目前に襲い来る絶対質量、黒い粘液の津波に対し。
・・・実火力的には、侍組の広範囲殲滅魔法持ちがエイジのみということで。
いつものメンツ+1による広域空間殲滅飽和魔法絨毯爆撃が、為された。
普通に無言で奇襲されてたら、侍組はヤバかったかもしれんね・・・。
「ゲームの記憶だけに頼って慢心するのは、やめよう、うん」
そんな感じに慢心を捨てた自分達に、まぁ、敵はなく。
最下層到着までに要した時間、実に50分弱。
懐かしい光景に、初めての臭気。
高温で溶かし固めたかのようなガラス質の光沢を放つ岩壁で形作られる、名古屋迷宮最下層。
幾つかの玄室を抜けた先に広がる決戦のバトルフィールドにて、この迷宮の主たる黒竜は挑戦者を待ち続ける。
・・・隠し階層含めれば、最下層ではないんだけどさ・・・希望シリーズはノーカンということで。
そういえばアレのシリーズを初めて受けたのって、ココだったっけ・・・?
あの時足りない人足埋め合わせに自分達を誘った連中、どうしてるのかなぁ。
ココに居ないってことは、こっちに引っ張られていないと思っていいのかな?
それならば良し、なんだけど。
さてさて、そんなこんななんだかんだと上層階を踏破して、やって来ました名目上の最下層。
流石に走り詰めの全速マラソンと言った体で。
体はともかく(ジオが身内の疲弊を放っておくはずないだろうJK)、心の方の疲労が心配だよね?
この階層の中途モンスターはともかくとして、最後に鎮座かましている黒竜は、流石に舐めきっていると厳しいものがある・・・かもしれなくもないと考えられも・・・?
ここは自分が雰囲気を和らげねばイカンね?
「そう言えば、ちんざ、って平仮名で書くと卑猥だよね!」
一時間近い迷宮の道行にて精神を害した自分は、いつもと変わらず思ったことを口にする。
ああ、あと捻挫の同類で「ちんざ」とかって考えると股間がキュッとするよね?
「「「「「shine」」」」」
野郎全員が親指を下に向けて、自分にもっと輝けと言ってくる。
超不評。
・・・あっれぇ、なぜ同意が得られぬ?
「毎回思うが、お前の妄言に同意が得られるとなぜ信じられる・・・」
いつものことだから仕方ないけど、と、最早色々諦めて溜息ついてる我等がリーダー。
散々上層階の魑魅魍魎共を惨殺してきたのに、両手に携えた二本の片手半剣にシミひとつ着いてない辺りが恐ろしい。
カマイタチでなく、実際に刀身で切ってるはずなのになぁ。
解せぬ。
これが匠の技ってやつか。
自分はまだしばらく剣聖まで手が届かないのでスタートラインにすら立てぬわ。
くそっ、天才めっ。
「シオンのダンナ、いちいち相手にすんなって・・・つけあがるから」
親指を下に向けたままのマックスが視線だけシオンに投げてツッコんだりする。
コヤツはコヤツでシオン同様にやりたい放題斬り放題やったのに刀の表面すら脂汚れ一つなく。
・・・鍛え上げた剣聖ってのは、どうやら似たり寄ったりに成るのかもしれない。
う、羨ましくなんてないんだからね蝶・羨ましいッ! 妬ましいッ! 後で意味なく酷いことをする。
具体的には明日の朝食に納豆用意して「ああ、御飯はないよ」と言ってやるのだッ。
「いや、それやったら戦争だろう?」
納豆は余り混ぜずに出汁醤油派、なレザードがナチュラルに自分の思考を読んで注意を促してくる。
いい加減、心を読まないでほしいものだ。
まぁ、仕方ない。
自分が言われたらやはり戦争だ。
だからマックスだけ飯抜きにしておく。
「・・・キィィィィ」
ナガ吉、本気で怖いからコッチ睨みながらハンカチ噛み締めて怪鳥音出すな。
何でワタシの心は読んでくれないのっ、とか言われても、その、何だ、レザード本人に聞け。
「・・・で、貴重かどうかは置いておくとしまして。 茶番やってる間に一階層通過分くらいの時間が過ぎようとしているのですが?」
懐から懐中時計を出してクルクルクル、と振り回しながら非難の声を上げるジオ。
あっれ、もうそんなに勃っ・・・経っちゃうかね。
「メリッさんメリッさん、今、私の心の琴線になにか響いた!」
おまいまで心の中を読まないでおくれ痴ロリン。
あと、その琴線は腐ってるからあとで張り換えなさい。
「ふぅ、じゃ、休憩終了ということでいいのかな?」
一人、我関せず水分補給とかしてたエイジがそう締めくくり。
かくして、最下層なのに最短時間で終わった大人げない飽和火力弾丸列車的蹂躙が、始まる。
来た、見た、勝った。
来た、勝った。
見た、勝った。
勝った。
勝った。
った。
。
宝物回収は後回しだ、とばかりに。
扉を開けて奇襲。
ごちそうさまでした。
・・・というのを繰り返し。
入口のものとは違いコッチは生きていた玄室間転送ポータルにて空間跳躍を繰り返し。
自分達の前に伸びる、長い一本道トンネル。
朧気ながら、その先に広がる空間と。
その空間の中央にある小山が、見て取れた。
無言で息を整え、今まで全速力で走り抜けていたのを忘れ去ったかのようなゆっくりとした速度で歩を進める。
そして、長く狭苦しいトンネルを抜け。
一気に拓ける、視界。
広い。
十分以上の高さを持つ天井、数ヘクタールクラスはありそうな面積を誇る、歪な円柱形空間。
このエリアだけは、今までの階層とは軸をズラした場所に作られているのであろう。
真っ直ぐ下へと作られた迷宮であったなら、数階層はぶちぬく高さである。
しかし、そんな広い空間であるにもかかわらず。
それが身動ぎし、立ち上がった瞬間。
イメージは一変した。
息苦しいほどの、狭さ。
空間的な狭さもさることながら、視界を一気に動体で埋め尽くされた心理的な狭さ。
ベヒモス三頭分程度の質量を誇る、二足歩行のそれは。
「久しく絶えていた、客か」
この迷宮の主にして最大の魔獣。
黒竜。
昔なつかし竜王立ち(変身後バージョン)にて、自分達を出迎えた彼は。
「最早ここまで来る強者に言葉は不要であろうが、あえて言わせてもらおう。 見事・・・!?」
クワッ! と、目を見開いてコチラを見下ろした黒竜の言葉が、不自然に止まり。
「「「「やほー」」」」
気楽な調子で懐かしい彼に手を振る自分含めたいつものメンツを二度見した後で。
彼は、気合に満ちた竜王立ちを放棄してその場に胡座をかくと。
どこからか取り出した巨大な葉巻に自身のブレスで火を灯し一服。
そしてしばらくコチラから視線を外したままでいた彼は。
火事のごとくの多量な紫煙を吹きながら。
吐き捨てるように、言った。
「・・・殺せッ」
「「「「ええー?」」」」
侍組の平坦な驚愕が、弛緩した空気を一層ダルいものに変えた。
こうして。
サクっと黒竜さんは。
素材に、なりました。
ミッションコンプリート。
なんかくれ・・・「おお、隠し箱の場所は変わってませんねぇチョイナチョイナっと解錠ッ」ジオさん仕事が早すぎます。