北上それは何人たりともオレの前は(略
<塔>を出た当初は、普通に自分達の知ってるほうの首都(要は旧・東の首都である)に行くはずだったんだよなぁ、等と今更ながらに思いつつ。
自分達はノンビリと徒歩にて、西の王国首都に背を向けて一路北上の構え。
なんでも、凍りついた北にあった懐かしの俗称<名古屋迷宮>。
よりによって<生きている>そうなのだ。
魔物は湧いたまま。
アイテムドロップもあり。
ただ、テレポートのポータル自体は情報なし。
もしかしたらそこら辺はぶっ壊れているのか、もしくは単に二層以降に行けた人が居ないかの二択か。
なんでも、不思議な品物が手に入る迷宮があるそうな、と、いう事の発覚は、はるか昔だったそうで。
穴があれば潜りたくなるのが山師共の習性なれば、とばかりに。
冒険者と言う名の社会不適合者共がボチボチと拾ってくる業物奇物の数々が一部市場に出回りだし。
壊れない刀剣やら頑丈な鎧、なんでも入る袋(その後発見者の姿が消えたそうだが)などが世の物欲を刺激。
結果、カネ目当てのゴロツキやら、もしくは単純に腕試しやら修行やら目的のキチガイどもが集い出して。
薄皮のごとくに積み重なり山となっていく伝統と格式、いわゆる歴史。
隣り合わせの死と物欲。
割と遠い西の国にも伝わる、ハックアンドスラッシュな、お宝掘り迷宮情報。
それに小躍りして、大人げなく酷い略奪をするために。
自分達8名は、一路進路を北へと向けたわけだ。
ちなみに。
一緒に行かないか、と誘ったセラっちは「今の仕事放って行けないゼ!」と、男前に言い切って西首都に残った。
酒飲みがてらにちらりと聞いた話から、地味に貴族のパトロンとか持ってやがるそうだ。
・・・露天に卸している焼き物のほうが質高くしてる、というのは秘密だそうな。
金持ちは敵だ、死ね!
でも悔しい、土コネて売っちゃう!
とか言ってクネクネしてたけど、平気だろうかあのアマ。
「で、何を思ったかあの子供たちと一緒に住むんだって?」
一応、三十人程度は暮らせる作りにしておいたけど、と。
思うさま荒屋を魔改造した男・エイジが焼き物女ことセラの住居移転についてツッコんだ。
そう、なんだかんだで。
拉致虐待即リリース、では先が続かなかろう、と思ったかどうかは知らないけれど。
「うん、私あそこに住むわ」と、彼女が言い出したのが、男前宣言の直後。
それじゃ、またねー、と走り去った彼女が向かった方向は、まさに集団強盗のアジト方向であった。
ちょいと心配になって様子を覗きに行ってもらったレザード曰く。
「いい笑顔で捩じ伏せてた」
誰が、何を、という答えはなかった。
やけに乾いた笑顔のレザードが、嫌に印象的であったが。
まぁ、つまりはそういうことなのだろう。
子供たちがこき使われすぎて逃亡しないかが心配である。
・・・強盗やるよりは、まぁ、平穏に生きられるだろう。
願わくは、次に会うときには幾らかでも笑えるようになってれば、いいな。
そこら辺はそれほど心配していないけど、ね。
「で、オレ等北の迷宮目指すんだけど、このまま歩きで行ったら一月頑張っても着かなくね?」
女っ気増えると思ってwktkしてたのになぁ、はぁ、まじはぁ、と。
元気なく歩を重ねるマックスが疑問を呈し。
「流石に衆人環視な状況で空飛ぶ訳にも行くめぇっていつもの話じゃねぇか。 もうしばらくしたらサクッと飛んじまおうぜ」
マックスに答えるのは、隣を行くシオン。
露天ででも購入したのか、干し肉を噛み締めながらゴリゴリと顎の体操をしてる。
「今度は瞬間移動系禁止だからね!」
自分を指さして鼻息荒いのは痴ロリン。
どうやら地獄での出来事を根に持ってるようだ。
早くスタートしないかなぁ、と、箒を片手に臨戦態勢である。
「気配らしい気配もないし、そろそろいいんじゃね?」
ぐるりと周囲を見わたしたレザードが、懐の無限袋からゾルルルル、と、箒を引き摺り出しつつ皆に声をかけ。
「・・・です、な。 メリウとエリスのレーダー組の判定は・・・ム、OK?」
ジオに聞かれる前に、痴ロリンと競うように<気配視覚>の精度競争。
異常無し、と、ジオに向けてサムズアップなガイキチ兄妹。
強いて言うなら背後にウサギが何匹か居る程度でっす「パパ! 私が責任持って世話するから飼っていい!?」元の場所に戻してきなさい痴ロリン。 後、誰がパパか「ねぇパパぁ~ん」そういうネタはエイジに粛清されちゃう・・・あ、遅かった。
「・・・じゃ、おさき」
スタートの号令すら待つ気のないナガ公が、いつもの様にフライングをかまし。
「ぬわー、ナガさんそれはいい大人の行動としてどうなのさー!?」
泣く泣くウサギを地面に離し。
エイ地獄突きを喰らった喉をさすりつつ、慌てて困った大人の背中に追いすがる痴ロリン。
「アレ、絶対腹の中で「いい少女」とか言って自分指さしてるな」
やれやれ、と、相棒の持ちネタに辟易しつつその後を追うレザード。
繰り返されすぎて、もうおこがましいだなんだって言うだけ無駄だ「おこがましいと思わんのかね!」けど、悔しい、言っちゃう。
「なんだかんだでオレ等って飛ぶの好きだよなー」
迷宮で稼いだら、オレ、飛行魔法取るんだ・・・と、フラグを立ててから飛び立つマックス。
一番サックリ死にそうで怖い男のフラグ建ては背筋が冷えるので是非ともヤメテ!
そんな困った連中を追い、無言で飛んでいったシオンの背中を見送って。
その場に残されたのは、飛行魔法持ち達。
自分は、左右に悠然と佇むエイジ及びジオに、笑いかけた。
「さて。 なんだかんだで色々魔改造した結果、自分結構速いシステム作っちゃったんだが」
「奇遇だね。 実は、僕もなんだ」
「実はウチも、つい先日イタズラに成功しまして、な?」
野郎三人、邪に笑みを交わす。
既に箒組達は視線の彼方。
通常のままの飛行魔法では、差を詰められぬ圧倒的な差であるのだが。
しかして、その数瞬後。
先を行っていた彼らは、音を置き去りにする速度でカッ飛ぶ三本色違いの矢にぶち抜かれ騒然とすることとなる。
1人は雷光の巨躯、ジオ。
左右の篭手より放出される雷光を追加加速と成した、直立形態の固定姿勢。
更には風防替わりに展開される<聖防壁>。
突貫型外道飛行物体と化した坊さんの出来上がりであった。
付近を通過されたシオンとマックスが蹴散らされたようにも見えたが、一瞬のことなのできっと錯覚だったのであろう。
1人は錐を思わせる、円錐状の氷柱に身を包む侍、エイジ。
空力を考えぬいた形に整形された、氷のカウルで空を裂く。
更には、溜まっていた神様ポイントで大人買いした<全究回復>による魔力回復の乱用を以って実現した、超広域殲滅氷魔法の収束ジェット噴射という追加推進力にて、白く白く輝く氷のミサイル外装に身を包む侍の出来上がりである。
レザードに襲いかかってたナガ吉をわざわざ狙いすまして撥ねてたのを見た気がするけど、きっと気のせい気のせい。
そして、最後の1人・・・というか1匹・・・というか、1杯、な、自分。
空力を考えた挙句の超天然フォルム。
<変身>大王烏賊。
そして総計10本の足(内2本は足というより腕なんだがなっ)から放たれる<熱線>魔法を一点に集めて爆発させ<黒粘体>にて方向修正を行い後方へと噴射する収束爆破ジェット推進。
あぶなっ、と、巨大な自分の体を回避した後に熱線ジェット推進の余波にあおられて痴ロリンが錐揉んで落っこちていった気もするけど、不幸な事故だったね・・・。
図らずも、飛行魔法持ちの三人による、空力向上及びジェット推進を追加加速として使用という同じ着目点がぶつかり合い、鎬を削ることとなった。
速度は既に、音速超。
うおおおお、とばかりにコンマ数秒先の世界へと手を伸ばす野郎どもは。
「「「「「正座」」」」」
「「「はい」」」
ボロボロになって追いついてきた、航空事故被害者の会に、超怒られた。
名古屋迷宮を目前にしての氷原正座は、正直骨身に凍みた・・・。