探索それは存外の
帰り道にて巡回兵のモノ氏を助太刀してから一夜が過ぎた。
ひとまず適当な宿屋にモノさんをぶち込んで自分は帰宅。
色々と詮索されそうな勢いもあったので「一晩休んで頭の中整理してから話しましょうか」と、ぶっちゃけイイから寝て起きろ、と納得させたりした。
そして日は昇り、清々しい朝。
穴蔵から這い出してカムフラージュ用テントを経由して外へ。
外の人の体が楽すぎて、最近生きてるのが楽しい。
中の人の体、地味に色々傷んでたんだなぁ、と実感する。
生きるって大変だのぅ、などと似合いもせぬ思考を重ねていると。
あれ、見覚えあるお馬さん。
モノさんが襲われた辺りをウロウロしている彼の愛馬が目の前に。
「モノさん村にいるけど一緒に来るかい?」
ひとまず馬語にて会話を試みる・・・自分も馬に変身してね。
こういう使い方が出来るのに気がつくのにしばらくかかったんだったか・・・懐かしい。
聞けば、なんとか自分を逃して魔物の足止めをしてくれたモノさんが心配になって戻ってみれば奴らの死体の海・・・という謎状況に混乱してこの場を動けなかった、らしい。
「じゃ、のんびりと御主人様に会いに行こうか」
手綱を引き、道を歩き出す。
おとなしく付いてくる馬の鼻面を撫でつつ、自分は村へと歩を向ける。
さてさて、今日は何をしようかな。
村に到着、モノさんを押し込んだ宿までのんびり散歩満喫中。
宿の女将さんに挨拶し、彼の部屋の扉をノックノックノック。
「アサダオキロアサダオキロアサダオキロ」
精神病患者のように清々しい起床を強制してみる。
瞬時に開く扉、死んだ魚のような目。
あれ、充血してない?
寝なかったのか貴様、と、口に出しかけたが我慢。
「おはようございます、いい朝ですね?」
にこやかに挨拶。
「いま、ノックと同時に呪術のような声が聞こえた気が」
モノさん、超不審がってる。
「気のせいですよ、ああそうそう。 あなたの馬、見つかりましたんで宿の厩に繋いでおきました」
伝えるなり駆け出すモノさんを見送り、自分もちょいと家のペットを懐かしんだりする。
元気にしてるかなウチのやんちゃ坊主は・・・。
朝飯前だったので、ついでに此処で朝飯を食らうことに。
ああ、コメ食べたいなぁ、無いからパンなんだけどさ。
「なんというか、まず言うべきが礼しか無い」
ありがとう、と、相席のモノさんが深く頭を下げた。
あれ、このへん頭を下げる系の風習なんだー、と、どうでもいい事を考えつつ。
「いえいえ、出来ることをしたまでですので。 どうにもならなければ逃げてましたよ」
なので、お気になさらず。
手に負えなければ即時見捨てる人間です、とひとまず正直に自己申告して評価を下げてみる。
「いや、それは普通の事だろう。 むしろ出来てもやらない類のことだ」
だから、ありがとう、だ。
モノさんが良い人過ぎて生きているのが辛い。
「分かりました、ひとまずお気持ち受け取っておきます。 で、一晩経って頭の中はまとまりましたか?」
食後の水を飲みつつモノさんに尋ねてみる。
さて、何聞かれたらどれ答えよう的なマニュアル作成のために、せいぜいここら辺の知識を仕入れさせて頂くとしましょうか。
「ああ、それでは命の恩人のキミに質問だ。 まず、どうやって瀕死の私を健常な状態まで戻したんだい?」
どう考えても、私の怪我は致命傷だった、と、それが一番不思議でねと続けたモノさん。
ひとまず自分は、ストレートを投げてみる。
「魔法です」
豪速球。
何言ってるんだコイツ的な顔されたら冗談で通すし、何だと! 的な流れなら逃げる。
さて、どうかな?
「やはり。 そうとしか思えないし、そうであるべきだ」
モノさんの言葉に、なんか怪しげなニオイがしてきた気がする。
そうであるべき?
「実は、私がこの周辺を巡回しているのは訳があってね。 キミのような魔法使いを発見、保護するという事を行っているんだ」
上からの命令で、なんだがね、と、モノさんが笑う。
「そんな訳で、メリウくんだったかな。 首都まで御同行願いたいのだが」
若干腰を浮かした気配がしたが、すぐにそれを下ろすモノさん。
ああ、職業病でつい逃さない体勢を取ってしまったのを悔やんでるんだ。
「ああ、すまない。 キミの意思を尊重せずに不躾な態度をとってしまった」
この通り、と再び頭を垂れるモノさん。
ああ、腰ひっくいなぁもう憧れてしまうね。
「ああ、お気になさらずに。 行きますから」
ひとまず、保護して回っている、というなら顔見知りの数人は捕まるかもしれない。
しかしこの場所が自分達面子の拠点であることには変わりなく。
何がしかの物を残しておくべきだろう。
「でも、申し訳ないんですがもう数日お待ちいただけますか? 一応お世話になった村の人に挨拶をしてきたいので」
拠点宣言もしちゃってるし、戻ってくる気満々ではあるけど変に拘束とかされたら変な心配かけちゃうかもしれないし。
「それは勿論。 一応私は上にキミのことを報告しに戻るよ。 数日したら迎えに来るので、その時は同道願うとするよ」
今度は昼間に、後はもう数人連れてくるよ、と笑ってモノさんは早足に村を出発していった。
しかし、上が、命令、ねぇ。
「最悪なのは、魔法使い希少説で魔法使い狩り。 最高なのは上の人が知人PCって流れかなぁ」
運命という名の現実の先を推理してみる。
展開的にはどうなるものか。
っとしまった、彼が次来るのは何日後か聞いておくべきだったか。
ひとまず魔法が存在するという世界背景はあるようなので、一応用心のために村の外へ出てから。
自分は<飛行>を解き放ち、モノさんを追いかける。
ものの十数分で追いつき、並走して正確な日数を尋ねた。
最初は空からの声に驚きもしたようだが、すぐ慣れた様子で「3日ほどだ」という返答をいただく。
「分かりました、では、三日後に」
手を振ってしばしの別れを告げる自分。
手を振り返してくるモノさんを後目に、自分は村はずれまで蜻蛉返りすると早速あいさつ回りを始めた。
小銭は溜まった、食うには困らない程度の備蓄であるが。
世話焼きな村人からのささやかな頂きものが、酷い量に膨らんだ。
日持ちしそうなものは無限袋に入れ、そうでないものは早めに消費するように別の袋に入れて道すがら使ったり食べたりする予定。
ひとまず後は濁さず済みそうだ。
といったところで、工作の開始、といこう。
ひとまず、掲示板を作ろうと思う。
文字通りの掲示板、あとはメモ用に紙が欲しいところ。
ふむ、と考え、ひとまず自分が向かったのは。
<世界樹>、我らが麗しの拠点<塔>であった。
探索がてらの材木集め、程度に考えていた<世界樹>訪問だったが、中は予想外に荒れていなかった。
流石に木製の家屋などは見る影もないが、その他は少し手を入れれば史跡レベルに見栄えする観光名所になるだろう。
「最近客も少ないって言ってたから、手入れされなくなったってことかな」
ゲーム時の記憶と照らし合わせながら、ひとまず目指すは侍ギルド。
訓練場辺りはどうなってるかな。
しばらく記憶を頼りに歩き、迂回し、たどり着いたその先には。
苔むし荒れ果て朽ちた建物が、あった。
「ただいま」
軽く頭を下げて中に入る。
綺麗に草畑になった中庭などを見ると、少し胸が痛む。
そして建物の中には、入らないほうがいいと判断を下した。
人の住まない建物は痛むのが早い、と聞くが。
一体どの程度人が居なければ、こうなるのだろうか。
「健在状態から何年経った、か。 メンツハウスにも言えることだよねぇ」
石造りの頑丈優先ハウスですら、あの有様だった。
が、地下部分は驚くほどの痛みがあったわけでなく。
「何者かに破壊された、が、わかりやすく納得できる答えかね」
頭にくる話だが、仕方なし。
望まざるとはいえ、住んでやれなくなったのは事実であるし。
ほう、と一息溜息をこぼすと。
自分は<飛行>で宙を舞い、隙間を縫って屋上空中庭園を目指した。
もはや庭園は見る影もなく。
無秩序に生い茂る大小の木に埋め尽くされ、真ん中の大木に吸収された様に森という一本の木に擬態していた。
ここら辺から適当に材料を間引かせてもらおう、と、愛刀を抜き加工を考えて材料を切り出す。
音もなく切断を成していく愛刀に感謝を捧げつつ。
太陽が一番高くに位置して地上を照らす辺りの時間で。
自分はそれを、発見した。
見覚えのある、一つ扉。
中を覗けば、自分の時と同じような作りの密室。
そして、開け放たれた扉の中、床に刻まれた6本の傷。
それは、果たして。
自分がこの世界で過ごした日数と、同じではないか?
自分は即座に目以外の目を見開いた。
気配視覚、及び魔力視覚。
肌を目とし、魔力を目とした。
まだ、近くに居てくれるか?
周囲をくまなく目ならざる視覚で射ぬく。
居なければそれは無事な知らせ、とばかりに安心出来る気もするのだが、と。
自分は、それを、見つけた。
それを見つけて走り、弱々しい呼吸で伏せる彼女に、ひとまず急ぎの光腕をぶち込んだ。
きゅっ、という甲高い悲鳴を上げて地面に伸される彼女。
アレから五年だと、もう高校~大学生くらいかね?
「いったいなー、何するん!」
元気よく立ち上がった彼女は、文句をいう相手をまじまじと見て。
「ひとまず、久しぶり。 こんなもんしか無いけど、食っときな?」
好意でもらった生鮮食料を袋ごと彼女に渡すと、時間を止めた彼女にデコピン一つ。
「ひとまず一人目、痴ロリンげっとだぜー」
デコの痛みでしゃがんだ痴ロリン・・・侍組最年少の女侍ことエリスとの、再会であった。