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腹ペコそれは神への扉

拉致って・・・誘拐して・・・うーむ、人聞きが悪いな。

えーっと、その、なんだ。

えー、アレだアレ。

旧知の人間を尋ねたら倒れていたので保護した、とかだきっと。

うん、自分は悪くない。

むしろ善意の第三者といってイイね!


「寝て起きたら袋に詰められていた、すわ、なんという拉致。 で、FA」

不機嫌そうに笑顔満面、焼き物の人ことセラ女史のジャッジであった。

それでも自分は謝らない「いや、謝れよ」ごめんなさい。


「しかし、逃げた三人以外が未だに宿でグダグダしてたことに驚いたのだが自分?」

エリスとともに時折ビクンビクン中身の動くズタ袋を担いで宿に戻った自分を、朝のテーブルを占拠しっぱなしで寛ぐ面々が出迎えてくれたのは予想外の出来事で。

とっくに外出して色々やらかしてるだろうなぁ、とか思っていたものだったのだが。


「いや、金の心配が無くなったしなぁ。 二日酔いでダルいこんな日に出歩くジクがなくてナー」

だるぅ、と、テーブルに突っ伏すレザード。

その手には迎え酒のエールが握られている。

・・・昼酒したかっただけか、この小僧。

自分も混ぜてくれ。


「まぁ、社会不適合者達はひとまず置いておくとして。 お久しぶりですなセラ殿。 お元気そうで何より」

立ち上がりセラっちに会釈する坊さん。


「や、同士セラ。 ひとまず無事で何より。 あと、僕達同様巻き込まれててご愁傷様」

苦笑いを浮かべて手を振るのは同士エイジ。

古い友人に出会えた喜びと、出来ればこっちで会いたくはなかったかなぁ、という葛藤が漏れてる。


「ま、何はともあれ。 もうお昼だしなにか食べながら話そうよ」

空腹音をギュルギュル鳴らしてセラ及び自分の背中を押してテーブルへ促すエリスの必死さに、押された者同士苦笑しつつ。


拉致から始まる昼食会の、開始。




焼き物さんの話を聞くに、彼女はどうやらずっとあの家に居たらしい。

中の人的にも陶芸家の彼女は、普段通りに寝起きして普段通りに寝落ちし、気がついたら見覚えのない小部屋、という経路を辿ってコッチの現住所に現れたそうで。


「何が辛いって、まず始めに言葉覚えないといけないってのが辛かったわねー」

いい歳してゼロからってのが特にね~、とコボすセラっち。

確かにねぇ。

恐らく素の中の人のままコッチにご招待受けてたら、現状でもカタコトで喋れたら御の字だろうしなぁ、自分らも。

特にセラっちに至っては、外の人も極狭い範囲の技能しか取っていない趣味の人だったし。

仕事も遊びも陶芸ってのは、なんというかもはや貴様土で出来てるんじゃね? と思わされる没入具合であるが。


「で、なんとか目を覚ました廃屋・・・今住んでる家ね・・・を直しーの、窯作ってモノ焼いて器売って生計たてーの、何度か餓死しかけて近所の人に救われーのしてたわけ」

ナチュラルに死にかけていたようであるこのアマ。

無事でよかったね。

あと、周囲に温情ある人達がいてくれてよかったね。


「うんうん、それが一番の幸運だったわねー。 何度か変なのに押し入られたこともあったけど」

あっけらかん、と答えるセラっちに「おいィ!?」と総ツッコミな一同。

数秒後に、ああ、でも確かこいつ、と、不穏な想像が霧散するのも、彼女をよく知るこのメンツならではであろう。


「当然、こう、練ったけどね」

やけに腰の入ったゼスチャーで粘土をこねるような手つきを見せるセラに「だろうねー」と声色平らに相槌を打つ一同。

あの細腕で、人を野菜替わりにボリボリ行くような魔物をノせる女は格が違った。

相手が強盗やらそこらのチンピラであるなら、それは、彼らの無謀であろう。

信じられるかい?

アレ、地味に戦闘キャラのレザードより筋力有るんだぜ・・・?

そして、コレは余談であるのだが。

致命失敗フラグ入れっぱなしで技能を練った、自分の同類だったりもするわけで。

当然、件のチャランボ熊とかを、その、何だ、真っ向から処分できる程度の戦闘スキルをも実地で磨いた隠れ猛者でもあるのだ・・・。

そりゃ、強盗程度でオタオタする理由がないわな。


「モノづくりはパワー! だしね」

力こぶ作ってそれをポンポン叩くセラの気楽さ加減に、ウンウン頷く自分とエイジ。

半笑いのレザード、ジオの顔も相まって、なんとも締まらぬ一幕であった。


「でもさ、ソッチのほうが話半分と思っても酷いと思うんだけど?」

少なくとも私は切った張ったしなくてよかったしね、と。

ちょっとだけ青ざめて、口にする。

もし、私がソッチに出ていたら。


絶対に死んでたわ、と。


そんなセラの一言に、ちょいとシリアスになりかけた場の空気を破ったのは、ムードメーカーにして最近スキル<臭いものに蓋>を習得した痴ロリンことエリスさんであった。

最近腐気が漏れ出さないのはいいことだ。

ずっとそのままの君でいて! まぁ無理だろうが!


「セラさんセラさん。 そういえばさっきから頼んだ昼食に手を付けてないけど、食べないんならちょっと貰っちゃってもイイかな? イイかな?」

アレ、こいつこんなに腹ペコキャラだったかいな、と首を傾げる自分であったが、考えてみれば今朝方エリスは二日酔いで固形物が喉を通らず牛乳を口にしただけだったな、と思いだし。


「おーおー、くれちゃるくれちゃる。 たーんと食べてたーんと大きく育ちー」

フォークで皿を弾くようにエリスの前まで飛ばすセラ。

わほぅ! と、奇声を上げて皿の上のお肉様にかぶりつく欠食児童。


「ウチの子が御迷惑かけて申し訳ありません。 後で仕置きしておきますのでご勘弁を」

ペン回しのごとくフォークを高速回転させて弄ぶエイジが、セラに頭を下げる。


「あーあー、キニシナイキニシナイ。 それに10食や20食抜いたって死なないから平気よ」

その言葉に続くように。

あっけらかん、と、セラは。

彼女以外の連中が驚愕する事実を。

無造作に、口走ったのだった。




つい数日前、念願の<飲食不要>を貰ったからねー、と。

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