二日目それは緋が走る
小金持ちに、なりました。
それはつまり、金策と言う名の初心者プレイ終了のお知らせ。
「ヒャッハー、新鮮な大金だー!」
とは口走らないまでも、銀貨銀貨言った同じ口で宿の受付に声をかけ、専用窓口にて白金貨数枚出して両替を試みる自分。
専用窓口・・・鉄の格子に囲まれてカウンターの飛び越え等を封じた防御に腐心した作りの、周囲から浮いた物々しさを誇るソレ。
ああ、強化ガラスとか無いだろうしねぇ、銀行係の安全やそれの取り扱うものへの守りと考えれば、むしろこの物々しさは妥当か。
そんな金銭系カウンターへの感想を頭の片隅でつぶやいていた自分に対応してくれたのは、いわゆる冒険者共相手に金という一番生臭い物を取り扱いつづけているであろう、妖気すら漂う(失敬な)腹黒メガネ的銀行業務担当員。
「こちらの『銀貨』の両替ですね?」
自分の差し出した数枚の白金な硬貨をチラリと見、口の端を僅かに、ほんの僅かに上げる悪役微笑を交えつつ言う銀行係。
おやおや、どうやら自分たちの茶番に付き合ってくれるらしい。
「ええ、自分たち初心者にはちょーっと大きくて使いづらいものでして」
応じて自分も片目を瞑り、平坦ペラく、軽薄な口調でおどけてみせる。
案外耳聡く自分たちの声を拾っていたであろう周囲数名から、鼻で笑うような吐息音が漏れ聞こえた。
うっわ、こんなのでも釣れるのか・・・ちょろーい。
初めてなのに釣れちゃったー。
などと思いつつ。
「では、『銅貨』交換と参りましょうか」
言いつつ銀行係が袋に入れるは、山吹色の『銅貨』。
そういえば黄銅鉱っていう金に見えなくもない鉱物もあったなぁ、なんてどうでもいいようなことを思いながらも、彼の熟練の硬貨捌きに目を喜ばせたりする。
「あ、申し訳ない。 そちらの銀貨は、両替やめていいですか?」
自分は白々しく、銀行係さんが崩してくれていた本当の銀貨を指さしてヘコヘコと頭を下げてみる。
「はい、畏まりました・・・細かくし過ぎると、重いですからね」
そう言って、銀行係さんはニヤリと小さく笑んだ。
そんなこんなで、フフフ、ククク、等と、洒落の分かる銀行係さんと、朝っぱらから根暗い取引ごっこ。
悪人プレイも楽しいもので。
「悪人プレイって・・・あの野郎、素が悪人の分際で、なんか自身を善人の如く言ってるようなんだが」
「・・・あれが幻の、悪党ぶってる善人の皮を被った悪人プレイ」
「「おお、回りくどい回りくどい」」
背後の食堂テーブルで同性異性コンビの親友どもが、ゆっくりみたいな声で囃し立ててやがる。
五月蠅いよ短&長のバカップル。
革と腐乱の素敵なコラボ決めてんじゃねぇSMか!?
昨晩はお楽しみでしたか!?
・・・あ、ごめん、普通にすごいへべれけになって皆して雑魚寝だったっけ。
ナガ吉、可愛くないから頬を膨らまさない。
革、機嫌とっといて。「革ってなんだオイ」革奴とかって書くと革奴隷みたいだよね?「革奴隷って・・・」「んン? そういう趣味ありか?」「・・・」後でそういう衣装を作ってやろうと思う親友思いの自分であった、まる
「あー、ワチキも『銀貨』両替して山吹色のお菓子をゲットしてくるかー」
「むしろ同士が両替してくれるんじゃない? 結構ガッツリ行ってたよね?」
「おお、皆の分まで普段使い用にやって来てくれたんですな。 何故その気配りが出来て彼女の一つも出来ないんですかなぁ。 あ、失礼。 ジオ物理的に無理なこと言った」
ひとまずジオは後で逆剥ぎにする。
絶対にだ。
で、だ。
同士エイジの指摘通り、一人当たり1枚分ずつ。
白金貨8枚を金貨銀貨に両替したわけです。
テーブルに戻って、無限袋の中から7つの金貨袋を取り出し配分し。
代わりに差し出される白金貨を受け取る・・・サラッと本当の銀貨出した三人ほど、この後裏路地でお話があります。
具体的にはテーラー半裸、影薄脳筋3号、腐乱長身「美少女」おこがましいとは思わんのかね?
触手と粘液と土壁の部屋、漏れなく全部選ばせてやろう。(意訳:どうだージョ〇サン 怖いだろう? 生きるか死ぬかじゃない、何分で死ぬかだ。 ひゅぅ、Mr.ゴダ〇ド!)
「「「お断りします」」」
言う前に、と言うか言いながら、と言うか。
三人が楽しげに逃亡した。
うむ、二日目の、少なくとも自分の行動は。
鬼ごっこに決まりらしい。
とまぁ、残りのメンツを置き去りに。
資金持ち逃げの三名を追いかけて追いついた挙句に「あんなこと」やら「こんなこと」やらをやってやるぜー、と、息巻いていたのは過去の話で。
ぶっちゃけ、連中逃げ足超早かったし。
別に自分の使う分が驚くほど減ったというわけでもなし。
つまりは、連中のことは棚上げ、ガチスルーにして。(追う者もないのに逃げまわってやがれ、徒労刑バンザイ)
自分はのんびりと、昨日経済的理由で出来なかった市荒らし・・・もとい、買い物というミッションを遂行していた。
いつの間にかくっついて来てたエリスを伴って。
流石、隠れんぼで切磋琢磨したライバルよ。
「メリッさんメリッさん、アレって何かな?」
自分の二歩前をチョコチョコ歩いては周囲をキョロキョロして興味を引いたものについて片っ端から意見を求めてくる痴ロリンにチョップくれて黙らせつつ。
「んー、何だろねあれ。 焼き物なんだろうけど、備前焼って感じの、磁器でなく陶器って辺りがめずらし・・・!?」
言ってて自分で驚くその事実。
おいおい、あの作陶レベル。
それにあの形状に、見事な緋色。
あんなもん、漫画じゃなければ出せるのは・・・。
自分は案外いい位置にチョップ入って痛みにプルプル悶絶する痴ロリンを置き去りに、その露天の店主に声をかけた。
「スイマセン、その器見せてもらっていいですか?」
暇そうにパイプ吹かしていた初老の店主は、鷹揚に頷いてパイプ煙で輪っかを出すことに没頭し始めた。
なんという商売っ気のなさ・・・。
それを幸いに、自分は迷わずその土のみで成された芸術品の裏面を確認し。
ろ さ ん じ ん ♡
ご丁寧に平仮名丸文字、ハート付きとな。
頭痛い。
後、片腹痛い。
自分は胸元の無限袋から昔貰った「彼女」作の茶碗を出して、底の糞巫山戯た
お り べ ☆
のサインとの筆跡照合。
最早コレは。
犯人は奴だ、と。
自分、確信した次第でございます。
あとは、もはや目の前の商売っ気のない店主さんをごうも・・・じんも・・・いかんいかん、ついついヤバい方面の方向で話を聞こうとする癖がついてきてしまってるな矯正せねば。
「すみません、コレ焼いた窯の場所、教えてもらえまえませんか?」
是が、非でも。
商売っ気もなければ、取り立てて商売敵を作る可能性に対して危機感もない様子で。
露天の主は、少々街外れの一軒家を教えてくれた。
周辺を歩いていた人達にその家の主のこと等を尋ねてみたところ、変わり者の作陶家が物珍しい土色の焼き物を焼いている、失敗作とか叩き割っていたのでモッタイナイからと割る前のを貰ってきて使ってる、使ってるうちに味が出てきて気がついたら木の食器が家から駆逐されていた、等、等。
なんともマイペースに、ファンを増やしているようで重畳。
自分とエリスは、互いに小さく頷くと。
気配を消して、その一軒家に裏表から突入し。
27秒後。
割った失敗作を廃棄用布袋に詰め込む途中で力尽き熟睡していた模様の。
焼き物のお姉さんこと、セラさんを無事捕獲。
念のため火の元を確認してから(窯の火は落ちていた、いいタイミングだったようだ)、コオオオオ、と波紋でも練ってそうな寝息を立てつつも意識の戻らぬ彼女を、無言でズタ袋に詰め込む。
力の抜けた人体の、重いこと重いこと。
面倒臭いからこのまま皆のところまで運んでしまおう。
では、お約束をば、ひとつ。
「「焼き物さん、ゲットだぜー」」
エリスとハイタッチ決めつつハモって。
久々の、ポケモ・・・旅人ゲットであった。