流水一刀それは誰だ貴様!?
たまには野郎共と無縁の女の子・・・「子?」「ビキビキッ」・・・女子二人だけで出歩くのさぁ、とばかりにエリス引っ張ってフリーダーム、と飛び出していったのはナガさんであった。
日も暮れ、光画部時間で動きやがる友人たちを後目に出来上がりつつあった自分とシオンの席に現れた女性お二方。
「・・・早かったね」
長身モデル体型のナガさんが、野郎二名の陣取るテーブルに手をつきながらニコリともせず一言。
その背後には、いつにもなく真面目な面したエリスが続く。
腐気が感じられないトコロを見ると、腹を減らしているか喉を乾かしているかの二択であろうか?
「ただいま戻りました」
口数少なに、ナガさんの隣に腰掛けるエリス。
あれ、あんまり観光は面白くなかったんかな?
いつもだったら「男二人が差しつ差されつなんて不潔です! いいぞもっとやれ」とか言うか考えるくらいはしそうなのになぁ。
仕方なし、異性の親友にアイコンタクトで問うてみる。
(ナニカ、アッタノ?)
エリスをちらりと見つつ、首を傾げる自分。
(ソンナコトヨリ、エール、オイシソウネ)
自分やシオンの持つ木製ジョッキを見て喉を鳴らすナガ吉。
くそっ、このアマ相変わらず必要な時には情報よこさねぇ。
スイマセン、こっちにもエールを・・・あ、シオンも追加? じゃ、4つでお願いします。
忙しく店内を駆け回るウェイトレスに注文して、待つことしばし。
お待たせしましたの一言もない、ヌルい大雑把なエールがドンデンピチャっとテーブルに推参。
「「おビール様じゃ! おビール様じゃ!」」
既にほろ酔いの自分とシオンが木製ジョッキを握りしめて、本日4回目の乾杯の構え。
当方に迎撃の用意あり。
覚悟完了しっぱなし。(意訳:アル中)
「・・・エイジがいれば冷やしてもらいたかったけど」
あー、規模小さい氷系魔法使えるの、同士だけだしねー、ってかこんな人前で使わせねぇよ?
ってか、今日の初心者プレイが魔法アリだったら家くらい立ててるわ。
金銭的と物理的の両方の意味で。
そして恐らく、全員が。
「わぁ。 こういうの、初めて」
恐る恐る木のジョッキを掴むエリスが、チョイと表情を緩めてはにかむ。
そういえばいつも酒飲むときは瓶から直接とかグラスだったから物珍しいか。
・・・よく洗って乾かさないと地味に臭うんだよね、木製食器って。
不幸中の幸いか、この酒場のはそれほどの臭気はしないけど。
かくして全員に酒が行き渡り。
あとは砕けるような勢いで(ゴメン嘘)ジョッキを打ち付け合い。
「「「「かんぱーい」」」」
きゅーっと、生温い微炭酸麦汁を流しこみ。
ぷはぁ、と、四人揃ってエール臭ブレスを吐く。
ふむ、早くも追加を頼むべきか。
「おーいこっちこっちー、ひとまずエールおかわり全員分。 あと適当にツマミ追加で」
自分が動く前に、シオンがちゃっちゃと注文を投げていた。
GJ。
「・・・残ってるオツマミ、貰っていい?」
来て早々空きっ腹にエールだけという状況に屈したのか、自分とシオンが頼んでまだ少なくない量残っているツマミ共に熱い視線を送りつつ、ナガさんが小首を傾げる。
「どぞどぞー、ってか別に断る必要もないけどねぇ。 エリスも食べたいのあったらドンドン行きなー」
シンプルなジャガイモと腸詰の炒めモノと、焼き川魚、あとはチーズくらいしか選択肢ないけどね。
生野菜食う習慣ないのかもしくは高価なのか、生野菜モノがないんだよねー。
野菜モノで強いて言うなら、スープくらいである。
これは後で頼む予定。
ああ、しっかし据え膳上げ膳最高。
他人が作ってくれる食い物の、なんと芳醇なるかな。
ただし「料理は愛情」とかを言い訳に味見もしない塵芥共は死すべし。
愛情があるなら、それを向ける相手に味見程度の手間を割けないワケがない。
アイツとか、あのゲスとかっ・・・こっちの世界に来てたら出向いて直に処理するんだけどなぁ。
っと、閑話休題。
「普段メリウさんの料理に慣れてるせいか、こういうのすごい新鮮」
マクド○ルドのハンバーガーって感じ、と、エリスさん大喜び。
あー、すまないねぇ。
食い飽きないものをってことで惣菜ばかりで。
今度愉快ジャンクでも作るよ・・・肉バーガーってどうよ?
「フラチン(ケンタッ○ーフライドチキンの略。 ロッ○リアはロリで、ファース○キッチンはファッキン)のあれか。 フライドチキンでベーコンとか挟んだ・・・」
流石だよなメリケン共、頭おかしい。
シオンが、皆が思っていることをストレートに吐き出す。
「ツマミとして見るなら、まぁ、肉だし・・・アリなんだけどねぇ」
それは只のフライドチキン山盛り皿という。
付け合せにベーコンはいかがでしょうか?
「・・・馬刺しとかないのかな」
後はシメサバあれば私はしばらく戦える、と、やる気満々なナガっち。
ちなみにどっちも ね ぇ よ 。
食文化って無慈悲。
あと、海があんなになってるのに海産物が手に入るわけねぇだろうに。
・・・マグロ様ブリ様、アジ将軍にイワシ閣下、サンマ帝も死に絶えたか・・・なんて救いのない世界だココ。
しっかし、海の水どこ行ったんだろねー。
地獄のさらに下に流れて行って凍ってるとかかね、コキュートスって感じで。
・・・なんて有りそうな話だ、機会があったら地獄を掘り進もう。
「で、さっきからワチキ気にはなってたんだが。 エリス、何かあったか?」
「ういうい。 自分も気になってた・・・そっちのデカイのが役に立たんからダイレクトアタックと称して直接聞くけど」
「・・・腸詰おいしぃ」
「「マヂで役に立たねぇ・・・」」
後でレザードあたりに折檻してもらう事にする。
死ぬふー、死んぢゃうぅー、とか言わされるが良い。
宿、自分らと別々に取ろうな?
「え、あ、えーっと。 ワタクシハ イツモノ トオリ デスコト ヨ?」
テンプレ乙。 さあ、吐 け ?
「はーい。 実は、隣のおねいさまに「・・・今日一日、発酵禁止」と約束させられてしまして」
ジャンケン負けたほうが一つ言うことを聞くゲームの敗者でございますれば、と、ガックリするエリス。
後、地味にナガ子のモノマネが上手かった。
「「なぁんだ」」
思ったよりだいぶ下らない理由だったので、ついつい本音が出た。
野郎二人同時に。
さ、飲むべ飲むべ。
あー、混んできてなかなか酒こないなもう面倒だ抜く手も見せずに袋から何本か居合抜き。
タン、トン、と、野郎二人の目の前だけに白ワインの瓶を並べる。
味はドイツ系白ワイン。
カビネットクラスの飲みやすい甘口酸味系。
瓶に続けてシオンに向けて「先生、お願いします」と、ソムリエナイフを放ると、彼は「どぉーれぇー」と受け取るやいなや、野郎前に並んだ全て瓶の首部分を、こともあろうか切断した。
傍目には、よくよく見れば瓶に一本切断線が刻まれただけという人外技量であった。
おいぃ、そんなチャチな刃物でもそんな芸当出来んのかすごいな剣聖。
「あ、わり。 ついノリでやっちまった・・・何が言いたいのかというとスマナイ壊した」
シオンが手にしていたソムリエナイフをコチラに返してきた。
ナイフ部分が綺麗に砕けていた。
「ハハハ、まあいいや。 そのうち肋骨何本か抜いとくからソレでチャラにしようか」
「ナニソレ怖い」
ハハハ、こやつめ、ははは、と下らないテンプレじゃれ合いしつつ、首の短くなったワイン瓶をグラスにして乾杯。
きゅーっと、喉に流し込む。
うめぇー。
「「野郎二人が美味しそうなものをコチラに回さない件について」」
「「ああん? 知らんがな」」
しゃぎゃー!
酒席、大盛り上がり。
水、を想わせる。
狼のような魔獣の群に追い立てられた一台の馬車。
それを瞬く間に追い散らした彼女の持つ、見慣れぬ形状の剣。
その後聞いたところによれば、刀、という遠方の武器らしく。
「連れには内緒にしてくださいね。 実はコレ、今日抜いちゃいけなかったんです」
別に抜いても何か罰則があるわけでもないんですがね、と続ける彼女から、目が離せない。
こざっぱりと短く切りそろえられた艶やかな黒髪、大きく表情豊かな黒曜石を連想させる瞳。
年の頃は13、4程度だろうか?
いや、もっと若いかもしれない。
パッと見ただけでは、美少年と形容すべきかもしれない。
ただ、外見から想像できぬ、背伸びせぬ大人びた空気を纏う少女であった。
その後、彼はただ、壊れた玩具のようにありがとうを連呼することしか出来なかったという。
メンツ四人で飲んでるところに乱入し、その日のエリスさんがしでかした事を頼みもしないのに語りだし。
挙句野郎二人がかりに酔い潰されて床に転がる馬車の持ち主な青年。
その話をかみ砕き。
その場にいた男二人が、声を合わせて、聞いた。
「「・・・誰の話?」」
それに答えるは、その謎の黒髪少女剣士(大人びてる?)の連れ、こと、侍組の槍使い。
「・・・まさかの、エリスの話」
いつも以上に声を潜め、二人に驚愕の事実を告げる槍使い。
「「嘘だ!」」
即時否定の叫びを上げる男二人。
そんなカッコ良いの僕らの痴ロリンじゃないやい、と男嘘泣き。
よくよく見ると、結構な勢いで酔っているようにも見える。
ぶっちゃけ皆がなかなか戻ってこなかったため、二人して酒盛り開始してしまった結果である。
すごいへべれけども。
「泣くぞ! 泣いてしまうぞ!」
折角頑張って真面目にしてみたらごらんの有様だよ! とばかりに、エリスがダンダンとテーブルを叩き抗議の姿勢。
いやまぁ、真面目にしてればウチの痴ロリンってばハイスペックなのは知ってるんだけどね、皆も。
ただねぇ、いざそんな誉め殺し的な第三者感想とかを聞くと、ツッコまざるを得ないんだよ・・・。
「もう怒った! 真面目になんてなってやるものかっ!」
すごい勢いで世界を腐に染めてくれるわー、と、いきなりスケッチブックを解放しようとするエリスを地獄突きで悶絶させて。
自分はスケブをダミーにすり替えた。
ちなみに中身は痴ロリンとナガえもんの濃厚な百合漫画。
赤裸々な秘密の花園的漫画が、中に描かれた当人の手によって御開帳くぱぁ。
「「!? !?」」
二人して漫画の内容に赤面するさまを肴に。
自分とシオンはニタリと笑って酒を飲み干した。