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初心者それは白々し

街近くの草原。

自分ことメリウは、初心者プレイはこうだろう、とばかりに野草採取のお遣い中である大麻発見。

大都市付近でも一人じゃ危ないぜぇー、と、同じようなお使いを受けた同業者数名とキャッキャウフフと草摘み中であるジキタリスゲットだぜ。


「なんでアンタ、さっきから目につく端からヤバ目な草拾ってるのよ?」

不意に自分にかけられる疑惑交じりの声。

同行している同業者であり、かつ依頼元勤務のデカさんその人である。

ちなみに、名前がデカでも身長はちみっちゃい22歳女性彼氏無し、修道会の薬学部署勤務だそうだ。

丁度奴隷解放が宣言された年に生まれたそうで、法的な面では元奴隷ですらないそうだが。


「麻酔薬と強心剤なんか作れるから、一概にヤバイ目的じゃないのよ? のよ?」

吸わないよ? あと気に入らない人に一服盛ったりなんかもしないよ? ホントだよ?

と、華麗にすっとぼけて見せたけど、超警戒された。

嘘は言ってないのになぁ・・・今回は本当に。

ただちょっと危険野草にときめいてハッチャケてしまっただけなんだ!

後、関係ない事なんだが「麻酔」って言葉は「大麻」とは関係ないみたいなので気を付けて!(なにに?)


「いやアンタ、薬草学とかかじってるって聞いたけど・・・唯のハッパでラリる人にしか見えないわ」

まじめに仕事しないならあっち行ってなさい、と、追い払われそうになる。

が。


「そんなこと言いつつ後から来たのはそっちでしょうに。 このコリアンダー畑は独占させんよー」

今回の依頼主は修道会。

内容は、自家薬草園で供給不足に陥った薬草の採取。

で、その目的薬草の一つが、今自分の周囲にザクザクあるコリアンダーである。


乾燥させてスパイスとしてよし。

また、生でもパクチー/シャンツァイとしても有名、超有名。(実は自分、調べるまで同じものとは知らなかったがな!)

ベトナム料理系には必須であるしのぅ、久々にフォーでも作るか。

濁りない鶏スープは正義である。


「ぐぬぬ。 昨日今日流れ着いた新参者の分際でっ」

デカくないけどデカ、むしろデコが歯ぎしりして地団太踏むが、知った事かいな。

そもそも草摘むのに新参も古参もないもんだ。

むしろ古参を名乗るなら自分のシマの野草群生地くらい知っておけというモノよ。

な訳で。


「しーりーまーせーんー、あと折角の群生地を荒らさないでくーだーさーいー」

薬草収穫の手を休めずデコさんをからかって楽しむ。

うむ、新天地での初心者プレイ順調なりや。


「どう考えても手慣れた玄人じゃないの・・・この似非初心者っ」

挨拶した段階じゃ腰の低い人だと思ったのにあっさりと被った猫剥がしよってからに・・・ブツブツ、と、収穫作業に戻るデコさん。

うん、実に話してて面白い人だ。

オラ、わくわくしてきたぞ。


「草むしりに素人も玄人も・・・あるにはあるけどそんな精度の必要な依頼でもないでしょうが」

せいぜい採り尽くしてしまわないように注意するくらいでしょう、と、適当こく。

デカさんは無言で草むしり中、意固地になってしまったかもしれない。

自分はニヤニヤと顔を笑ませると、少し距離を置くのだった。




遠く鳴り響く正午の鐘の音。

辺りに散っていた同業者たちが、思い思いに昼食を広げだす。

自分も背負ったザックから(初心者プレイ中なので無限袋と魔法禁止なのじゃよ、緊急時以外)昼食のサンドイッチを取り出して、キューっと酒で喉を潤しつつモクモクと頬張った。

うまー。

茹鶏のサンドイッチうまー。

粒マスタードマヨネーズ味の勝利。

これはいけない、酒が進んじゃう悔しいだけど飲んじゃうグビグビっ。

ふはぁ、いつもの失敗作がまるで神話級のようじゃわい美味くて小便ちびりそうじゃぁ。


「・・・泥酔したら捨ててくわよ」

味も素っ気もなさそうなクッキー地の固形物を水で柔らかくしながら齧っているデコさんが、物欲しそうにこちらを見ている。

ちと気になったので、ワンダフルメリウアイにてその他同業者の昼食を覗き見てみるが、デコさんと似たり寄ったりっぽい。

ここの一般的な昼飯はあんなのなのかなー。

ビールとかで栄養補給とかってのは鉄工所だったっけ?


「えーっと・・・もうそんなに量がないけど、味見するかね?」

「是非」

貴様を見捨てるぞ宣言したにもかかわらず、文字通り食いつきの良い奴め。

自分に正直な奴は嫌いじゃないぜよ。


「じゃ、とりあえず跪いて媚び諂うがいい!」

と、言いたいところではあるけど謙虚な侍であるところの(そういや外の人の職業侍だったんだよね。 最近は職業スライムと認識してた)自分は無言で残りのサンドイッチを差し出してみるぜ。

パッサッガッと、受け取るやいなやサンドイッチを口に運ぶデコ。

何この欠食児童の餌付け。


「・・・おいしぃ」

ご好評いただけて幸いです。

あと、食べる姿がリスみたい。

モクモクモクモク、と、小刻みに消えていくサンドイッチさんサヨウナラ。


「・・・御馳走様でした」

「お粗末さまでした」

パン粉まみれの風呂敷を叩いて畳んでザックにしまい、片付け終了。

あー、良い天気過ぎてもうこの辺でいいんじゃなかろうか昼寝したい気分になりませんか!


「量はボチボチだけど、もう少し欲しいかなぁ」

何故か「もう少し欲しいかなぁ」に別のニュアンスが込められていた気もするが、ガチスルー。

自分は盛大にため息をつくと、再び草むしりに勤しむことにした。




腹時計的に午後の三時手前と言った段階で、予定量というか欲張りデカさんのOKが出て街へと戻り。

兵員酒場にご報告。

出来高払いで報酬をいただくと、挨拶もそこそこに散っていく同業者たち。

自分は結構ガッツリ採ったおかげで、安宿二泊分程度の小銭をゲットいたしました。

縁があったらまた、と、デコ「だからデカだって言ってるでしょうが」デカさんともお別れで。 ノシノシ

よぅしこれで小遣い出来たんで露店巡りとかしてジャンクな食べ物を貪るのだ、と、思った矢先。


「喧嘩だ喧嘩! 片方武器抜いたぞ衛兵呼んでこい!」

そんな怒号が、酒場前から聞こえてきた。

おいおい喧嘩か自分も野次馬に混ぜてー、とばかりに見物モード。

するりと人ごみバリケードをすり抜けて最前列をキープしてみたら。


「や!」

しゅたっと片手をあげるシオンさんと、目があいました。

ってか、当事者でした。

・・・絡まれてる方で、と言う意味では、なんというお約束展開っ・・・!


「よ!」

ひとまず会釈されては返さねばならぬ。

自分も片手をあげてニコヤカに。


「で、何絡まれてるの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

主に相手が、で、あるけれど。

自分はいちおう聞くだけ聞いてみた。

どうせ、なんかどうでもいい理由で一方的に絡まれてるんだと思うけど。


「あー、えー、その、なんだ。 仲間になれって」

「あーあー、なんと言うテンプレ展開」

「で、ごめんなー、もう仲間いるんだーって言ってもしつこくてなー」

「うんうん、それで?」

「あんまりにしつこいんで一本拳人中打ちしたら悶絶してさぁ」

「あっれ? お前が悪くね?」

「そうともいう。 で、今まさにその人のお仲間さんに囲まれてるなう」

「なう、じゃねーよ」

おk、把握。


「あ、どうもお邪魔しました。 ファイっ」

野次馬の最前列で、自分は審判を買って出た。


「えー」

めんどいから手伝えよー、というシオンの視線が自分に突き刺さる。


「えー」

めんどいから手伝いたくない巻き込むな、という自分の視線がシオンに突き刺さる。


「「・・・」」

期せずしてガンのくれあいに発展し。


ズサッ!

シオンと自分が、同時に構えた。


「お前は、あの列車の・・・好都合だ、決着をつけよう」

「いや、メリウ。 それはお前が秒殺される身内ネタだ」

いかん、つい癖で死亡フラグを立ててしまった。

仕切り直しだっ。


「その構え・・・カポエイラ「空手だ」」

シオンのツッコミに、どっ、と、野次馬から笑いが沸く。

よし、掴みは良好なようだってかなんでファイ○ボールネタが通用するんだこの世界?


自分達はそのままジリジリと含み足で位置間合いを奪い合う。

ジリジリと。

ジリジリと。

ジリジリと・・・っと、こんなもんでいいかね。

自分とシオンは小さく頷きあうと。


「「にっげろー」」


二人して声を合わせて。

流れについていけずに動けなかった武器持ち達を後目に。

間合いの奪い合いと見せかけて連中との距離も十分にとったので。


初心者らしく、自分たちは逃げ出した。




5分後、何食わぬ顔で舞い戻った自分たちは。

街で武器抜いた咎で連行される数名をプギャーと冷やかしてから。

露店の串焼き片手に酒場で他の皆を待つのであった。

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