西国それは初心者プレイも楽しいもので
上陸早々出会った見知らぬ種族の見知らぬ方との、心温まるお話合いから数日が経過した。
いつものメンツ+侍組は、のんびりまったりと西の国を観光中である。
あれから、竜の人を拉致って(ちなみにお付きの三匹は生き埋めのまま、御者さんは馬車とセットで町に帰した・・・念のために竜の人に一筆書かせて身の安全は確保させた)首都に赴き、夜半を狙って突撃王様訪問と相成り。
瞬間移動で一気にご対面、と行ったもので。(ちなみに竜の人はまっ先に王様の私室にテレポート。 驚いていただけたようで幸いです)
で、どうにもこの世界は親が暴君だと子が名君・・・かどうかはわからないけど好感が持てる人物であるという法則が証明されそうな勢いであった。
つまりは。
この国の王様は、人が出来ていた。
いきなり城の私室に大量瞬間移動してきた見知らぬ超不審他種族(自分たち)+α相手に、慌てず騒がずはもとより、驚くべきことに礼を以て対応した段階で「おい、何この心的タフネス!? 本当にあんたの子かこの人?」と、拉致ってきた竜の人を問いただしたくらいである。
「よもや何の荒事もなく「カクカクシカジカ」で通じるとは予想外だった・・・」
カクカクシカジカの中に親父さんから丁寧に絞り出した胡麻油の如き国家転覆情報が混ざっていたから、とも考えたが。
情報源当人を伴ったとはいえ、即座にその情報を信じて(あとで思い返せば、きっと同じような情報は得ていたんだろうなぁ、と思うけれども)事態対処を行った王様の自分内株価がストップ高だったのは言うまでもない。
情報取得からの初動速度の重要性を理解してやることやれる人は、なかなかいない。
やだ・・・カッコイイ・・・胸がキュンキュンしちゃう!
「まさこの胸の高鳴り・・・不整脈!?」
言ったそばからジオが放つ光る拳が自分の鳩尾やや左をイイ角度で抉り、体をくの字にへし曲げる。
「どうです?」「効いた・・・二重の意味でっ」酒飲みすぎてたせいかもしれない、最近。
空中宴会も楽しいもので。
そんなテンプレ漫才してる間に、王様と他のメンツで色々話がまとまったらしく。
行きがけの駄賃とばかりに自分たちも西国の平和維持に協力する運びとなり。
なんやかんやと結構ノリノリで弾劾粛清に勤しんだのだった・・・これがどいつもこいつも清々しいまでの下衆でね?
「ガキンチョ集めて虐待してた連中の末路、ちと思い出したくないな」
小さく震えるレザードの言葉に、自分とかエイジがちょっと反省。
その、ねぇ?
本当にコメカミって「プチッ」って音させるんだなー。
体験するまで、てっきりフィクションだとばかり。
子供好きと子持ちの「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」は、その、なんというか。
「竜人・・・ってか人って、あんなんなっても生きてるんだなぁ、と逆に感心するレベルだったよなあれ」
すげぇ、すげぇぞ超越者! 本当に死なねぇ! とかほざきながらシオンがレザードに同意を求め。
思い出させんな、と、レザードは聞か猿状態。
顔色白くしたマックスが小走りに下水側溝へ逃げる辺り、マジで御免なさい。
・・・斬った張ったやって来てるはずなのに案外グロ耐性無いのは意外だね。
「ウチ等が子供たち避難させなかったら、全員発狂モノの光景でしたからねぇ」
ジオのドヤ顔にムカつきつつも、一応礼を言わざるを得ないありがとうでも悔しいっ・・・後で一服盛る。
こういう辺り、詰めが甘くて自分が嫌になるのぅ。
「・・・ドンマイ。 もう終わった事」
「そーそー、そんな事より観光にいこうー」
素で凹んでたら、女性陣二人に気楽なフォローされ。
皆と連れ立って、多種族国家の大都市散策に出ることとなったわけで。
露店を冷やかしつつ活気に満ちた街をねり歩く。
国のシステムが大きく変わってしばらく経過しているからか、いろんな種族が雑多に行き来している。
うむー、竜人って種族的に少人数なのかもなぁ・・・5人に1人くらいの割合でしか見かけないのぅ。
ああ、あと、チラホラと武装した傭兵というか冒険者というか、な連中も見かけた。
荒事関係のお仕事とかもあるのかなぁ、と一先ず気にとめておくとする。
で、しばらくしてから気が付いたのだけれども。
自分達、誰もこの国の貨幣持ってないでやんの・・・。
「王様辺りから幾らかふんだくるべきだったかー?」
そう言って頭を抱えるフリのシオン。
あー、殺る事ヤッたあとサッサと消えちゃったもんなぁ、自分達。
しかもあの王様だったら絶対空気読んで「そんな連中いなかった」と言う事にしてくれる・・・。
・・・なまじ取って返して「金下さい」とかいっても「はい、どうぞこれを」とか言いそうな人ではあるものの。
「正直、ワチキらみたいなのがうろつかない方がいいだろうしなー」
はぁー、まじはぁー、と、傷の深さにガッカリしつつも「よし戻ろう」とか言い出さないシオンさんマジリーダー。
祟り神みたいなもんだしねぇ、自分等。
気分一つで阿鼻叫喚の地獄絵図作れちゃうしなぁ・・・そんなのに張り付かれてたら胃に穴が空きすぎて無くなる。
腹の中で何思ってても、現状で敵対してない好感度高めの人にそんな思いもさせたくないもので。
「よし、戻ろう」
っておいィ、マックスェ、台無しだ!
だから貴様はっ! 貴様はっ!
一本拳人中打ち! 一本拳人中打ち!!(注:死にます)
「あー、でも、なんつーか。 無一文で異郷の地ってのも、オツじゃね?」
始めたばかりのゲームみたいで、とレザードが言い出し。
「・・・同意」
レザードの肩に乳載せて休んでる? ナガさんが同意し。
「チッ。 でも確かに、今までの巻き込まれ系育成生活と比べれば自由度高そうですよね」
レザードキャノンに苦々しい舌打ちをしつつも、エリスが話に乗っかり。
「んじゃ、いっちょ、やりますか」
いそいそと袋から粗末な外套を取り出して、いかにもな流浪民を装うシオンがヤル気をだし。
「こういう時のお約束、な冒険者ギルドとかあればいいんだけどな」
俺初心者なんですけどプレイとかやりてー、とマックスが戯け。
「ままま、それも含めての探検冒険ということで一つ」
ポン、と両手を打ち。
「袋の中身少し売り払えば遊んで過ごせるとは思うんだけどね」
エイジが手段が目的になっている皆を見て苦笑しつつ呟き。
混沌とした西の国首都を舞台に。
無駄に漲ってきた連中による、小冒険が始まろうとしていた。
元・使い捨ての外敵掃除用奴隷の収監小舎。
現・冒険者というか傭兵というか、奴隷上がりの兵隊詰所兼酒場。
ここはそんな来歴の場所らしい。
その酒場で世間話しつつ小耳に挟んだ情報である。
働いている人員は、ほぼ解放奴隷であるらしい。
奴隷から解放されたはいいけどツテもなければ学もない。
職を充てがわれなければ即時暴徒化というリスキーさを一応の雇用という形で纏めたのが現状だという。
ただ、毎日のように魔物の大進行があるわけでもない。
というわけで、緊急時以外は街の警らやら清掃やら雑事依頼やらをこなして日銭を稼ぐ流れが形成され。
晴れて、いわゆる何でも屋。
バクチ打ち要素を加味すれば山師。
格好つけて冒険者。
呼び方名乗りは異なっても、実質は大して変わらぬ荒事屋が完成した、ということで。
「半兵半フリーターって感じかね」
ひとまず日雇い募集の貼り出された掲示板前で皆に説明しつつ。
何か面白そうなのはないかなぁ、などと端から古そうな募集を探しまわる自分の両目。
「中途半端にここの公用語が西方語チックだから<翻訳>使ってもらわなきゃ真っ先に語学勉強だったぜ・・・」
この年になって新規言語取得勉強とかしたくねぇー、と砂を吐くレザード。
読み書き的に東西南北中央不敗・・・ぢゃねぇや、全域カバーしてるの、自分とジオくらいだっけ。
ああそうだよ! 天井低いから横に伸びざるをえなかったんだよ笑えよベジ○タ。
「共通語でおkなのになー」
むむむー、と、読めないけど意味の伝わってくる字を睨みつつ痴ロリンが唸る。
「・・・世界が自分達に合わせてくれるのはゲームだけ」
だから現実的に、世界に自分達を合わせていこうねー、とばかりに痴ロリンの頭を撫でるナガさん。
珍しく年長者に見えるね、不思議!
最近レザードにロケット攻撃してる様しか見てないからすっかり痴女とばかり認識してた。
「んー、王道のゴブリン退治とかねーもんかなー」
で、その依頼取ろうとすると自称上級者に難癖付けられる展開で! とか言ってるシオンさん超外道。
今更ゴブさんやらゴロツキやら出てこられても困る。
主に相手が。
ひょこっとラスボスが現れるシチュエーション過ぎて哀れを通り越すわ。
「病院的な施設の人員募集でもあれば行くんですがねぇ」
癒してくれるわ怪我人病人どもめ破邪ー、とか馬鹿ほざくジオ。
つい昨日の夜に首都に雨ふらせておいて何言ってやがるもう治す対象居ねぇじゃねぇか。
ついでで手伝わされた自分の苦労もわかって! わかって!
・・・もう街の入口で辻ヒールでもすりゃいいんじゃね?
「ぐっあいでぃーあ。 そうですね行ってきます」
「ちょ!?」
速攻ジオさんがパーティから外れました。
・・・まぁ、バラになっても殺されるような事態にはならないと思うから平気・・・なのか?
夕方にここ集合なー、と、歩き去るジオの背中に声をかけとく。
はいな、と肩越しサムズアップで応じるジオ。
そんなジオの離反を皮切りに各自やりたい事を見つけて「行ってきます」「いってらっしゃー」と、散っていく。
かくして。
酷い結果となる初心者プレイが、スタート。